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13「僕の積み木崩し」

 僕は【お座り】のスキルを手に入れた。これによりベビーベッドを脱出して、絨毯の上が僕の活動領域へと変貌する。

 お気に入りは積み木おもちゃでの遊びだ。

「ぶーぶー」よーしっ。

 まずは高い塔を積む。その手前には巨大な城壁を築く。

 壁の中に()もり、安寧を貪るだけの家畜たちよ。今この私が目を覚まさせてやる。現実を見ろ。

「だーっ!」ライトニングソード! 

 と積み木崩しを楽しむ。

 僕の平手攻撃で無敵の壁が粉砕され、その衝撃は塔までも粉々に破壊した。

 この力は僕の手に余る。使い方を誤ってはいけないな。ふふふ……。

 難攻不落の要塞も我が手にかかればこんなものだ。話にならんわっ! しかし。

 ――虚しい。城と城壁を作るのに三十分。破壊するのに三秒。

 戦いとは、かくも虚しいものなのか――。


 飽きた。

 今の僕は赤ん坊脳みその肉体に、厨二の思考が同居する奇妙な状態だ。行動の全てが十三歳ではなく、赤ん坊が入り混じっている。

 さて……。絵本を開く。

 それはお父さん好みの、勇者パーティーが魔物を討伐する話。

 ストレス展開はなく、勇者は簡単に敵を倒す。スカットとするね。文字は読めないのだけれど、何となく分かる。

 さて次は――、よしっ!

 僕は勇者人形を鷲掴みにする。片手に剣を持ち金髪で鎧を着ている、これが勇者のステレオタイプ人形なんだな。

 敵役は、ないか……。

 しょうがないのでクマのぬいぐるみとする。ユルキャラふうの可愛らしいクマなので、かなり迫力には欠けるが、まあいいか。

 凶悪な敵とイメージしてそれを左手に持ち戦わせる。

「だー!」ふんっ!

 ユルクマを壁に投げつけた。討伐完了だ。

「ばーばーぶー」やれやれだね。

 楽勝速攻で敵を倒すのが最近の流行なのですよ。僕は苦戦いたしませんから。

 さて。ここからがクライマックス。僕のオリジナルストーリーが炸裂する。

 金髪のドレスを着たお姫様ふうの人形を床に寝かせた。そしてその上に勇者人形を立たせる。ざまあ完了だぜ。

 悪いことをする悪役令嬢を踏み付けにしてこそ真の勇者と呼ばれる。

 懲らしめねばなりませんな。ニヤリ。


 おっと。来客だ。

 僕が寝ているあいだにも来ているんだよな。

「ほんと久しぶりね。元気だった」

「はい。おかげさまで元気にやっていますよ。さて、挨拶させていただきますか」

 その若者は僕を高々と抱き上げた。高い高いと呼ばれる、相手を敬う最高位の挨拶である。

「バブー」誰?

「はじめまして。僕はメイネルス・フェリクスだ。君の叔父さんだね。どうぞよろしく。ランメルト君」

「ぶっ、ぶぶー」おっ、よろしくな。

「そのままベッドに寝かせてくれる? ずいぶん遊んだみたいだから」

「はい」

 なるほど……。この人はお母さんの弟か。

 そのまま僕はベビーベット移動された。

「さすがに兄上とお姉様の教育だ。もうすっかり気分は騎士ですね」

 叔父さんは、おもちゃ戦闘の惨状を見ながら苦笑いする。そして天井を見上げた。こちらに感想はなしだ。

「高等学院を卒業してから、ボランティアで国境沿いを回るなんて大したものね」

「いいえ。厳密に言えばバイト代も出るんですよ。だから無償ではないんですね」

「帰って来たのはいつ?」

「昨夜、直接王城に到着しました」

「贅沢な旅ね。大学院はいつから?」

「最後に少しだけ優遇してくれたんですよ。学院は来週からです」

 二人はテーブル席で向かい合いながら話をする。メイドさんがお茶を運んできた。

 お母さんの弟。貴族のボンクラ子弟、という感じのお馬鹿さん? じゃなくて良いやつ? さて、叔父さんはどんな人?

 二人の話を要約すると、この叔父さんは政府の部隊に同行して、しばらく国境沿いに行っていたらしい。

 そしてこれから大学院に入学する。

「あちらはどうだったの?」

「緊張感もあるけど平和でした。ただ、何かの前の静けさ、とも言えますかねえ……」

「なんだか悪い話みたいね」

「国境沿いですから」

「ふうん……」

「それでお姉さまに相談なんですけどねえ……」

「何よ。改まって」

「ちょっとお金を貸していただけませんか」

「あらあら……」

「実は仲間たちと意気投合して、商売を始めようと思いましてね。冒険者ギルドにも登録しました」

「呆れた。フェリクス、いったい何をやるの?」

「さあ、今は何とも言えません。冒険者業務全般、とでもいいますか」

「まあ、いいわ。要はクエストね」

「ありがとうございます。必ず返しますので」

「どうかしらね」

 つまりきっちりお金を返せば良い叔父さん。返せせないなら、ダメ叔父さんと認定してやろう。お手並み拝見だね。

 実家は地方の貧乏農場貴族たぶん。学生も仕事して、稼がなくちゃならないんだな。

 お母さんの表情は悪くない。好意的に考えているようだね。


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