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十話 新たなる隊士㊂

 食事が一段落した(しん)は、応接間の装飾を何気なく眺めていた。勝志(かつし)は、まだ追加のメニューを食べていたが、真は飾り棚に並べられている写真が気になり、席を離れた。

 飾られている写真は、どれもグレイス一家の物のようだ。

 幼少のラーラは、やはりスカートが短くパンツが見えている。他にも小学校の入学式で父親と写るラーラや、レオタードの衣装に身を包んで賞状を持っているラーラ。中学の旅行で撮ったのか、何処かの遺跡の前でピースをしている写真。更に、一枚布の民族衣装を着ている二十歳くらいの姿や、お腹に赤ちゃんがいると思われる物……。


 「ママだよ。ほら、これが結婚式の写真」


 厨房から戻ってきたラーラが言った。

 真は、そうだろうと思ってはいたが、それにしてもよく似た親子だ。写真立てには、クローリスと名前が書かれている。

 クローリスは、未来のラーラそのもののようだ。若く、美人で、そういう事に関心がない真でも、どうして歳の離れたゼフィールと結婚したのか、疑問に思う程だった。


 「新体操をやってたんだけど……演技に幽世(カクリヨ)の力を使ってるんじゃないかってパパに疑われて、辞めさせられちゃったの」

 

 ラーラが自分の写真を恥じ入って、少し奥にやった。棚に屈み込んだ時、メイド服と同じフリルの付いたパンツが覗き、口に食べ物を運ぶ勝志の視線を引いた。


 「まぁ、無意識にずるしてたのは本当だけど……」

 

 真は、退かした写真の陰になっていた写真に目を向けた。

 白地の制服にプリーツのミニスカート姿のクローリスが写っている。腰に細身の剣と銀の盾を装備しており、恐らくこの盾が、ラーラが持っている鏡の破片の本体だろう。


 「こっちは、パパとママとユートピアに行った時の写真。よく覚えていないけど、ママと一緒に晩餐会に出て―」


 「ラーラは……」


 愉快そうなラーラを見て、真は寧ろ疑問に思った。


 「幻獣が嫌いじゃないの?」


 空気の変わる問いに、ふわふわモードだったラーラが、湿気を吸ったように落ち着いた。勝志も、食事を頬張り続けながら、再び此方を見た。

 写真の中の幸せな家族は、幻獣によって引き裂かれてしまった。

 クローリスは、そっくりに成長した娘の姿を見る事は叶わなかった。


 「許せないとか……仇を討ちたいとか……。だから、お父さんは戦争にかなり力を入れているんだろう?」


 真が言った。

 ラーラの父に限った事ではない。祖国を取り戻す為、死んでいった父祖の無念を晴らそうと、バビロン国のファイは戦っている。真を鍛えたランジも、家族の仇を討つ為に戦っていた。母を奪われたラーラも、復讐を望んでもおかしくはない。


 「……わ、分からない。わたしは……幻獣に会った事がないから、怖いってことくらいしか。それに、昔の事だし……」


 ラーラは困ったように答えた。


 「真は? ……ずっと幻獣のことを恨んでいるの?」


 「どうかな……」


 真は嘘を吐いた。暫く新しい環境になって己を鍛えたり、見聞を広める事に専念してきた。

 しかし、根本には彼らへの執着心がある。

 勝志はどうあれ、自分は一種の復讐の為に白兎(びゃくと)隊に入ったのだ。ファイに出会い、真はその燻る気持ちを再認識していた。


 「でも、チャンスが巡って来たら……僕はどうしても、()と戦いたい。今の僕が、どこまで対抗できるか分からないけど……!」


 故郷、アマリ島を乗っ取り、ウィーグルを殺した因縁の相手、ラウインが強敵である事は、同じ六幻卿(むげんきょう)の一体、ヴリトラと戦った真には良く分かっていた。

 しかし、次の戦いは、味方の援護を十分に受けられる可能性が高く、勝算がある。


 「リベンジする……! ……そうせずにはいられないんだ……!」


 「……」


 ラーラが真を見た。呑気な性格の自分とは違う、強烈な感情を真から感じる。

 実の所、真は、食事好きの勝志とは違い、本当はディナーなど照れるので、すっぽかそうと思っていた。

 しかし、今度こそラーラと会うのは最後になるかもしれない。そう考える程、真は次の戦いに命懸けで挑むつもりだった。

 真を見るラーラも、その事をどこかで感付いた。


 「何時か僕が、ママの仇も撃ってやるさ」

 

 真は女の子が喜ぶと思ったのか、そんな事を言った。

 しかし、ラーラは悲しそうな表情をした。


 「わたしは別に……そこまで相手を恨んではいないよ……。幻獣は危険かもしれないけど、そうじゃない子もいて……」

 

 「子?」


 「あっ……!」


 真が聞き返した。

 ラーラは、何か言ってはいけない事を口走ってしまったのか、分かり易く両手を振って「違う! 違う!」と誤魔化した。

 勝志が純粋に聞いた。


 「幻獣にも子供っているのかな?」


 「うん。……いや、いないよ! 幻獣に子供はいないっ!」


 ラーラは真っ赤になってそう言うと、急に食後のデセールを取りに行くと、厨房へと戻って行く。


 「何の事かな?」


 「うめーのかな?」


 真は、ラーラの反応に違和感を覚えたが、勝志はデザートを待つ子供のように、ウキウキとスプーンを握っていた。

 ラーラのもてなしを最後まで受ける為、真は余計な事は考えず、今はテーブルに戻った。

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