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九話 新たなる隊士㊁

 「ポワソンはドラードのポワレ、ブールブランソースになります!」

 

 サービスワゴンを押してきたメイド、ラーラが、(しん)勝志(かつし)には聞き馴染みのない魚料理を運んできた。


 「ナイフとフォークは……そう、それだよ!」


 コース料理は順調に進んでいる。ラーラは、二人に細かい料理の説明をしたり、正しい食べ方を教えてくれた。もっとも、二人が大して覚えようとしなくても、美味しく食べてくれるだけで、嘸かし満足そうだ。


 「これ、わたしの好きな料理なの!」


 「そうなの? 食べる?」


 「うーん……が、我慢する……!」


 ラーラは真の誘惑を、メイドごっこを貫く為に断った。


 「カタツムリって、うまいんだな。今度から食べるようにするぜ!」


 サバイバル食に馴染みのある野生児、勝志の、高級料理を食べた感想はそんな感じだった。お盆を持って慎ましくテーブル脇に待機するラーラが「エスカルゴは食用じゃなきゃ、食べちゃだめだよ!」と注意する。


 「世界の色んな食べ物を食えるから、おれ達白兎(びゃくと)隊に入れて良かったよな」


 「戦争万歳って事?」


 「あー、おれは、まぁ食えば戦えるし……食う為に戦うし」

 

 「単純だね。君の入隊した理由ってそんな所なの?」


 勝志の発言には、流石の真も呆れた。


 「ラーラは寿司、食った事あるか? うめーぞ!」


 「うん! ガリアにも大和料理のお店があるの! いつか大和に行ってみたいな!」


 「おう。じゃ、帰る時、一緒にいこーぜ!」


 簡単に言う勝志だったが、ラーラは嬉しそうだ。


 「パパの許可が下りるかなー……。でも、着物を着てみたいの! 白兎隊の女の子がミニスカートのを着ていたけど、あれもいいなー」


 「いいんじゃねぇか。似合うと思うぜ。短いし、着物はラーラみたいに基本的にノーブ―」


 「おい」


 酒は入っていない筈だが、有頂天な勝志の発言を真は咎めた。


 「基本的にノーブ……なあに?」


 当然、ラーラが聞き返した。


 「あー、ノーブ、ノーなんつうんだっけ? そう言うの……」


 勝志はラーラの胸から目を逸らして言った。ラーラがノーブラなのは、揺れ具合からは勿論、服の上からでも中央の突起が確認できるので間違いない。


 「ノーブル……。育ちがいい人に似合うのさ」


 真が素早く言い訳をした。

 ラーラは高貴に見えるように、お茶目に背筋を伸ばした。


 ――――――――――――――――――――――


 大和の大使館では、突然、新たな隊士、五名がプロヴィデンス軍から派遣され、ガイ達は困惑していた。


 「テメェらが隊士だぁ? まぁ、それを百万歩譲っても、テメェは副長に任命だと? 笑えない冗談を言えば成れると思うなよ」


 「この件は君達の隊長、ミスターサノヲ直々の命令だ。納得しないだろうからと、コレを渡された」


 新たな副長アベルが、一枚の紙を取り出し、ガイに渡した。書状のような物だ。

 ガイは「こんな紙切れ一枚がどうした」と言った感じで目を通したが、顔が強張った。


 「……」

 

 十兵衛が、書状をガイの手から引っ手繰って見ると、それには確かに「彼を副長に任命する」と明記されたサノヲの書状で、サインも入っていた。


 「まぁ、そう言う訳だ。テメェらよりオレらの方が色んな方面から期待されてるってワケよ!」


 新入隊士の一人で、青い髪をしたバスケット選手のように長身の男が、隣のアベルの肩に肘を置き、軽い口調で言った。


 「ああ? んだテメェ」


 「ディーン・ガブリエルだ。シクヨロ、既存隊士の諸君!」


 ディーンは、親指を自分に指して名乗った。ピタッとしたノースリーブに、ダボついた迷彩柄のズボンを履いたチャラい男を、同族嫌悪を抱いたガイが、睨み付ける。

 

 「シルフィー・ラファーです。よろしくお願いします」

 

 自己紹介の流れに乗り、ディーンの隣にいた金髪に軍帽を被った女性が、敬礼しながら挨拶した。此方は真面目そうな印象を受ける。

 しかし、真面目な彼女が着ているのが、信じられない事にプロヴィデンス軍女性の正式な軍服であり、迷彩柄のスポーツブラとパンツ姿だ。


 「アタシはイフリータ・ミシェルよ」


 今度は、アベルの隣の女性が名乗った。

 ショートヘアで耳にピアスを付けた彼女も、かなり背が高い。シルフィーと同じように下着姿だが、色は髪と一緒で派手な真紅だ。


 「ノーム・ウリアだ」


 最後に名乗った男は筋骨隆々で、裸の上半身にデカいベルトを襷掛けにしている。

 どうやら幽玄者で構成される特務部隊の服装は、かなり自由なようだ。


 「次の任務は重要なんでな。しくじらないようにオマエらを俺達が指揮してやるって訳だ」


 「何だと!?」


 ノームの見下したような発言には、流石にガイ以外の隊士からも怒りの声が上がった。


 「急に入って来て生意気だぞ!」


 「隊士なら白兎隊の羽織りを着ろよ!」

 

 「腕は確かなのか? 此処でテストしてやってもいいぜ!」


 「そうさ、オレ達流の挨拶だ。可愛がってやるぜ! なぁベン!」


 「え? 俺?」


 仲間に呼ばれたベンが、ケンカ上等と言うように拳をバキバキ鳴らすノームの前に引っ張り出された。身体のサイズはいい勝負だったが、強面で睨み付けてくるノームを相手に、ベンの顔は引き攣っている。りぼんが仲裁に入った。

 

 「やめましょうよ! どこの誰でも隊に入隊すれば、仲間であり家族の筈です!」


 「は? 仲間? 家族? 勘違いしてもらっちゃ困るよ。アタシら馴れ合いをしに来たつもりはないからね?」


 イフリータが巨乳を持ち上げるように腕組みをして言った。りぼんのボレロに隠れた貧乳を見て、憐れむような目をする。


 「アンタは胸がちっこいだけあって、どうせ一人で戦う度胸もないんだろうけど。足だけは引っ張らないでよね!」


 「なっ、何ですか!? 失礼ですねっ!」


 これには、再び隊士達が「郷に入れば郷に従うって知らねぇのか?」「胸の大きさは関係ないだろ!」と怒り出した。対するディーンも「ケンカか!? やれやれノーム、のしちまえ!」と煽っている。


 「やめるんだ! 喧嘩をしに来た訳じゃない」


 リーダーのアベルが場を収める。


 「すまないな。急な編入で羽織りの用意がないから、格好はそのままでいいと隊長に言われている。それと、威張る訳じゃないが、俺も四人も実力は確かさ。次の訓練の折に証明しよう」


 副長のアベルの冷静な言葉に、ノームや隊士達は一旦、距離を置く。

 しかし、ガイは、そんな事はどうでもいいといった感じだ。


 「チッ、別にテメェが副長になるのは結構だよ。たが、これだけは良く覚えておけ。こっちだってテメェらと馴れ合うつもりはねぇ!」


 「君は……」


 突っ撥ねるガイを見るアベルの視線が、ガイの肩から上腕に彫られた刺青に止まった。


 「そうか。……少し残念だな。では、三日後にリビュア遠征の作戦が始まる。ルテティアの基地で会おう」


 挨拶が済んだ新入隊士、五名がロビーから去って行く。ディーンが最後に振り返り、揶揄うよな表情を見せた。


 「隊長の指示だ」


 十兵衛が淡々と言い、彼もロビーから出て行った。ガイは、アベル達が去った後を暫く見ていたが、やがて自分もその場を離れる。

 彼らの姿を見送ったりぼんが、ベンに言った。


 「サノヲ隊長って、時々、何を考えているか分かりません。二人が不満に思うのも、分かる筈なのに……」

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