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八話 新たなる隊士㊀

 アクアトレイの西方、エウロパにあるガリア王国は、歴史ある大国であり、昨今では国際連合に多くの出資し、世界に対して強い発言権を持っていた。首都はルテティアといい、中央の凱旋門から放射状に大通りが伸び、お洒落な石造りの建物が美しい街並みを作っている。

 (しん)勝志(かつし)や遠征中の白兎(びゃくと)隊は、この街にある大和の大使館に滞在し、暫しの休暇を取った。


 「ちゃんとした服を着て行かないと、追い返されるかもしれないよ」


 「そうなのか? じゃあ、途中で買ってくか? あの首の下に付ける白いフリフリしたやつ」


 真の冗談を真に受けて、勝志が言った。

 二人は、ラーラからディナーの招待を受けていた。ルテティアは花の都とも呼ばれ、住民はとてもオシャレだと聞いている。しかし、二人は戦闘で痛んだ服か、道着しか持ち合わせていなかった。


 「まぁ、友達(ラーラ)の家なら大丈夫だろうけど。多分……。任務じゃないから羽織りもいらないし。……所で勝志、羽織りはどうしたの?」


 「ああ。折角、(すい)さん達、作ってくれただろ? また失くしちまったら悪いから、竜胆館(りんどうかん)に置いてきたぜ!」


 こっそり行って帰るつもりの真だったが、外出には許可が必要の為、気の知れたベンにでも断りを入れて行こうとした。

 しかし、これは人選を誤った。


 「ええ!? 食事に呼ばれた!? お前ら二人……!? どこの、誰に!?」


 図体の大きなベンの声はデカく、他の隊士の興味を引いてしまった。


 「ラーラ? あぁ、あのパンチラちゃん! ハハハッ、相変わらず隅におけねぇなテメェーら!」


 肩をポンポン叩きながら、当然、ガイが揶揄ってきた。他の隊士からも「ズルいぞー!」「オレ達も連れていけ!」などのやっかむ声が上がる。

 意外にも、冷静な十兵衛も驚いていた。


 「大臣の娘だと!? ……ふん……。まぁ、好きにすればいい……」


 終いには、一緒にご飯に行く約束していたりぼんにも知られてしまった。りぼんは、お出掛け用の服をちゃん用意していて、可愛いワンピースにボレロを着ている。


 「こらー! その()とは関係どうゆう関係なの!? わたしという可愛い()がいるじゃないですかー!」


 送迎車に乗り、再び、ラーラの家にやって来た二人は、家の者達に丁重に迎えられた。執事は、何処の馬の骨とも分からない二人を、本当はお嬢様の友人だと認めたくないようだったが、そんな胸の内は一切、態度には出さず、装飾品が沢山飾られた来客用の部屋へ案内する。


 「お金持ちってすげーな。あのヘタクソな絵は高けーのかな? 執事やメイドって、命令すれば何でもやってくれんだろ」


 「試しに命令してみなよ。ご友人として聞いてくれるかもしれない」


 ナイフやフォークが沢山、並べられたテーブルに着いた勝志と真は、待遇の良さに調子付いた。

 勝志が皿の上に乗っている綺麗な形に折られたナプキンを、帽子だと思って頭に乗せていると、ディナーの招待者、ラーラが部屋へ入って来た。ラーラは、この屋敷のお嬢様の筈だが、何故かメイド服を着ている。


 「真様、勝志様、ご機嫌よう! 本日はようこそおいでくださいました!」


 ラーラは、フリルの付いたふんわりスカートをちょんと摘んでお辞儀をし、危うくパンツが見え掛けた。


 「やあ、ラーラ。何で、メイド?」

 

 「ラーラが何でもやってくれるのか?」


 「そうだよ! 今日のわたしはメイドさん。二人のお世話を担当します。我が家のシェフ自慢の料理を楽しんでいってね。あっ、フルコースのメニューはわたしが考えたんだよ!」


 ラーラが、きゃぴきゃぴしながら言った。


 「シェフもいるんだ、この家」


 「ラーラは一緒に食べないのか?」


 「うん。二人に仕えてる設定だからね!」


 「設定?」


 ハモる真、勝志。確かに席は二つしか用意がない。最初からこれをやる為に、二人は呼ばれたようだ。

 ラーラがメニュー表を差し出す。


 「じゃあ、ドリンクとメインディッシュを先に選んでね。お肉かお魚が選べるよ!」


 「……お酒はいらないよ」


 「肉も魚も食べてなー」


 友達を家に招けるのが嬉しいお嬢様の、わがままに付き合わされた格好だったが、厚かましい二人には好評だった。

 真も勝志も、早速、注文を加えてみる。


 「帽子の正しい被り方を教えて貰おうかな」


 「全メニュー特盛で頼むぜ!」


 「かしこまりましたっ、ご主人様!」


 ――――――――――――――――――――――


 「オイオイ、どうしてプロヴィデンスの連中が大和大使館(ここ)にいんだ?」

 

 白兎隊は大使館のロビーで各々、昼下がりを過ごしていた。そんな中、グラビア雑誌で顔を覆って昼寝をしていたガイが、人気に気付いて目を覚まし、不機嫌そうに言った。

 ロビーに入って来たのは五人組の男女で、何れも服にプロヴィデンス軍を示す、三角形の中に一つ目が描かれた紋章が確認できる。


 「オイ、何か用か? 権力の犬共……!」 


 「よせよ。今度一緒に戦うんだろ? 挨拶に来たのかもしれねぇ」


 ケンカを売るように肩を揺らしながら五人組に近付いていくガイを、ベンが制止する。


 「君は……ガイ・インティだな」


 「ああ? 何でオレの名前を―……」


 「それから、源十兵衛……」


 五人組の真ん中にいる迷彩柄の軍服を着た若い男が、ガイと、入口近くで座禅を組んでいた十兵衛を見て言った。十兵衛は、鼻を「ふんっ」と鳴らす。


 「大方の隊士は揃っているようだから、ここで挨拶させてもらおう」


 男は、メンチを切るガイには全く動じず、ロビーにいる隊士達を見回して敬礼をした。他の四人もそれに習う。


 「白兎隊士諸君。俺はプロヴィデンス特務部隊から今日付けで白兎隊に編入、同時に副長を務める事になった、アベル・ルシファーだ」

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