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七話 歓迎㊂

 パーティの参加者が、各々、帰宅の途に付いている。会場周辺が落ち着くまで、送迎のハイヤー内で待機していたサノヲは、疲れた様子で隣に座る(すい)を労わった。


 「豪商達の酒の相手は大変だっただろう。失礼など、まるで弁えない連中だ」

 

 「いえ……私は別に構わないです。……でも……隊士の皆さんを売り込んでいると思うと……。正直、自分のしている事に嫌気が指します」


 本音では、戦場に隊士を送りたくない翠が、元も子もないと思われようが告白した。巨大なシルエットをドレス越しに作る彼女の胸が、何時も以上に重そうに映る。


 「隊士達が不当に扱われないよう白兎(びゃくと)隊の力を高く買って貰うんだ。それが結果的に、私達やその家族の助けにもなる」


 サノヲが宥めるように言った。


 「二の舞にはならない」


 以前の戦争では幽玄者(ゆうげんしゃ)の組織が少なかった為、助けを求める声あらば、忠義の組織の如く戦場に向かった白兎隊だが、その代償は余りにも大きかった。

 たかが金。されど金だ。亡くなった隊士達や、その家族に対し、満足な補償すらなかったのは、未だに口惜しいものがある。

 その為、サノヲと翠は、大和政府からの依頼もあったが、二度と不利な事が起こらないよう、多少、汚い手に思えても、隊士達の安全と補償を確保する為、交渉の場に参加しているのだ。

 生憎、先人達のお陰で、今の白兎隊と大和の地位は、国際連合内でも高い。その地位を使い、宣伝活動をするサノヲを白い目で見る者もいるが、気にする必要などない。与えられた地位は、存分に活かすべきだとサノヲは考えている。


 「分かっています。今の私にできる事なら、なんでもします……!」


 自分の芸能界で培われた地位も、隊士達の助けになるのなら。翠は、それを思い起こし、自らを律した。


 「先にホテルで休んでいたまえ。私は軍部に行って、定時報告を聞く」


 サノヲは邪魔だと言うように、パーティ用の高価な腕時計や宝石の付いた指輪を外した。

 何時も嵌めている指輪だけが、サノヲの左薬指に残る。それが、暗い車内でキラリと光るのを、翠が見留める。


 「明日には大和に戻られるのですか? 貴方がどんなに凄い人でも、少しは休暇を取らないといけません」


 「大丈夫だ。旧知の仲とはいえ、私の留守を知ったらケートスは遠慮してくれないだろう」


 労わる翠の、寂しそうな表情を見たサノヲは、優しく付け加えた。


 「君は少しゆっくりしてから帰国すればいい。戻ればスポンサーの仕事で竜胆館(りんどうかん)に帰る暇もないだろう。友人のルルワにも会っていけばいいさ」


 サノヲはそう言うと、颯爽とハイヤーから降り、夜の闇へと去っていく。

 黒い礼服姿のサノヲは、まるで、そこが自分の居場所であるかのように、暗闇に馴染み、あっという間に溶け込んでいく。


 「……」


 翠は、暫くサノヲが消えた闇の中を、その姿を探し出すように見つめ続けた。


 ――――――――――――――――――――――

 

 (しん)勝志(かつし)が無事に合流した白兎隊は、ガリアに入国した。華国で共に戦ったガイ、十兵衛、ベン、りぼんを加えた、二十名の遠征隊だ。

 ガリアには、対エネアドに備える為の一時的な滞在だったが、現地からは()()()()()()()()歓迎された。

 一向は、着任式に招かれ、首都にある大臣宅に招かれる。


 「オウオウ、まるでVIPだな。調子に乗って、やらかすなよテメェら!」

 

 ホールでお辞儀をして出迎えるメイドを見ながら、気を良くしているガイが、隊士達に言った。


 「貴様の態度の悪さで、帰りの見送りはないだろうな」

 

 十兵衛も冗談を言いながら、まんざらでもない様子で、大臣の待つ奥の部屋へと向かう。

 

 「アナトリアではドンドゥルマを食べたんだ。そっちはなにか変わったものは食べた?」


 「おれはドネルなんちゃらを食った筈なんだけど……なぜだかお好み焼きを食った気がするんだよなー」


 「ええ? バビロンにいたんですよね?」


 「この国はメイドさんがいるのか? 今度こそ囲まれて料理を食べたいぜ!」


 「ガリアも料理が美味しい事で有名だから楽しみだね!」


 互いに遠征で食べた料理の話をするりぼんと勝志が、ここでも食いしん坊の性格を覗かせた。

 真は、式など面倒くさいと思いながら、隊の最後尾を歩いていた。しかし、上の方から自分達を呼び止める少女の声が聞こえ、足を止める。


 「真! 勝志!」


 真と勝志が声の出所を見ると、玄関ホールの正面にある階段の上に、ピンク色の髪をした可愛らしい少女が立っていた。


 「ラーラ……!」


 二人が少女の名前を呼ぶと、ラーラはにっこりしながら階段をふわふわと下りてきた。

 ラーラは、相変わらずの極ミニスカートだったが、中が見えないように、上品に裾を押さえている。しかし、少し大きくなったように見える胸が、代わりに元気に揺れて、男子の目を引いた。


 「ふふっ、久しぶり! ようこそガリアへ! ここ、わたしのお家だよ!」


 つんのめるように階段を下り切ったラーラの手を、真が取って受け止めた。


 「ラーラ、元気そうだな! そっか、ここお前んちかー。アレ? アキナ島のは?」


 「アレは別荘でしょ……。通りでこの家、庭が花だらけだと思ったんだ……」

 

 勝志と真が、相変わらず言動が子供っぽいラーラを見て微笑ましく思う。「ユートピアにもあるよ!」と自慢したラーラは、二人のいる白兎隊の到着を心底、楽しみにしていたようだ。

 しかし、いざ再会すると、ラーラは話したい事がいっぱいあった筈なのに、言葉に詰まった。


 「二人共……」


 ラーラは自分を落ち着かせるように、真の手を離し、少し距離を取る。二人がラーラの成長に気付いたように、ラーラも気付いた事があった。

 最後に会ってから一年も経っていないが、とても逞しくなったように見える二人を、ラーラが見上げる。


 「背、すっごく伸びたね!」


 三人は友人との再会を喜んだ。

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