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五話 歓迎㊀

 国際連合の政治機関プロヴィデンスの本部が存在する東の国、ユートピア大公国。アクアトレイ最大の富と権力、そして軍事力を有するこの国は、事実上、世界の支配者とも言えた。

 事実、幻獣戦争の真っ只中であっても、ユートピアの主要都市は戦争の影響を感じさせず、発展した社会の中で生活する市民達は、人類で最も進んだ文明を謳歌している。

 この日、都市部の一角にある豪邸では、連合加盟国の政治家や軍の高官、貴族、実業家などが集まり、豪華なパーティが開かれていた。

 パーティと言うだけあって、煌びやかな会場には豪勢な食事が用意され、広くダンスフロアが設けられていた。参加者は、権威の証と言わんばかりに、貴重な宝石を身に付けさせた妻や娘を連れ立っている。こういった場の女性達は、自慢の胸の谷間を露わにし、自信のあるお尻が見え兼ねない程、背中が開いたドレス姿だ。


 「これは伯爵殿。ようこそいらっしゃいました」


 「この度の連合の軍事支援には、国を代表し御礼申し上げます」


 「我が財閥は幾らでも軍に投資します。我々の事業の安全を補償してさえ頂ければ」


 「娘は初めての社交界でしてね。御曹司、良ろしければ一曲、踊ってあげてください」


 テーブルでは上流階級の者同士が、各々、親睦を深めたり、ビジネスの話をしている。

 ここに集まる者達は、極端に言えば幻獣戦争に於ける、人類の動線を操る立場にあった。彼らの思惑と采配、そして、資金の流れが、国や施設や人といった中から、守るべきモノの優先順位を決定付ける。

 このパーティは、そうした者達による、社交の場であると同時に、重要な談判の場でもあった。

 

 「―無論、財団としては大和にそれなりの資金提供はいたしましょう。しかし、今は幽玄者(ゆうげんしゃ)の組織が増えた。白兎(びゃくと)隊ばかりに投資はできない」


 ホールの半ばにある立食テーブルを囲む財団の男数名が、藍色の髪で礼服姿の三十代程の男と話している。

 ワイングラスを片手に持つ財団の男達は、商談に余り乗り気ではないようで、若いビジネスマンを蔑むような、冷ややかな態度だ。

 

 「我が国は海洋防衛に長けています。交易ルートの安全確保にも、必ずお役に立てます」


 商談相手、藍色の髪の男、白兎(びゃくと)隊の隊長サノヲ・タケルが言った。


 「財団の方々が出資くだされば、防衛権の拡大も視野に入れています」


 ワイングラスを片手に持つサノヲは、豪商達の態度に臆する事はなく、寧ろ、饒舌な口振りだ。日頃スーツを着ている事の多い彼は、ビジネスマンのような言動が妙に板に付いた。


 「……そうとは言え、プロヴィデンスと組むのが今は安泰だ」


 「今まで彼方に掛けたものもある。この十年、連合の軍事に幾ら投資した事か……!」


 サノヲの提案に対しても、財団の男達の表情は渋い。所詮、彼らは、金で全てが動かせると思っている。相手が幻獣と戦う組織の人間だろうと「高々、一組織」と言う認識しかない。

 サノヲは、彼らのそんな腹の内を理解し、更なる儲け話を持ち掛ける。


 「大和は貴方方の事業を信頼しています。投資して頂ければ国内の企業も参加し、ビジネス拡大にも繋がるでしょう。リターンは決して小さくない予想します」


 「……確かに……その可能性はあるが……」


 「いざと言う時、大和とプロヴィデンス。仕事相手も守り手も、多いに越した事はないか……」


 「分かった。まぁ、あくまでも保険……そう考えるがね」


 サノヲは交渉が有利になった時点で、早々に決着を付けた。


 「お決まりのようですね。では、詳細な話は彼女の方と……」


 サノヲがそう言うと、タイミングを合わせる様にドレス姿の女性がテーブルにやって来た。途端に、財団の男達が息を呑んだ。

 商談の席に現れたのは、上流階級の女性達にも勝る上品な顔立ちと、豊満なバスト、美しいくびれ、魅力的なヒップと太ももを持っている、源(すい)だった。

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