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二話 宿敵㊁

 (しん)勝志(かつし)の登場のお陰……もあったが、元々、防衛線の突破に苦戦していた幻獣軍は、一時撤退した。二人は、バビロン軍の指揮官ファイに案内され、軍司令部がある石造りの建物へ向かう。

 パレオから覗く太ももが眩しいファイは、二十歳半ばの若さだか、この辺りに住む人々に、かなり敬われているようだった。


 「ファイ様、お疲れ様です!」


 「ファイ様、敵はまた襲って来るのでしょうか?」


 「うん。残念だけど、一時的に退いただけ。子供や年寄りを外に出しちゃだめだよ」


 不安がる住民に、ファイは優しく言った。


 「でも、救世主がやってきた! 彼らが必ず敵をやっつけてくれるよ!」


 ファイは真と勝志を周囲の人々に紹介し、熱を込めて言った。しかし、二人にはファイに向けられるような尊敬の眼差しはなく「何かの間違いでは?」と言った声がブツブツ聞こえた。

 

 「あははは、ごめんね。みんな戦ってるとこ見てないから、イマイチ凄さが伝わらないみたい」

 

 「いえ。どうせ、僕らは余所者です」


 司令室に入り、ファイが謝った。真は自分達の役割は尊敬される事ではなく、敵の脅威をなくす事だと心得ている。

 今回この戦場に派遣されたのは、真と勝志の二人だけだった。

 この辺りの地域は、幻獣の攻撃が散発しており、一ヶ所に多くの隊士を送れない。人手不足なのもあったが、訓練を始めて十ヶ月近く経つ二人なら、もう単独(二人セットだが)でも大丈夫だろうという判断があった。

 

 「あなた達二人の実力は確かさ。沢山の()を訓練してるから、私には分かるよ」


 真は建物の別室で待機している、やはり、ビキニ姿のファイ率いる幽玄者(ゆうげんしゃ)達を見た。戦闘中にも気付いたが、この国の幽玄者は皆、女性だ。

 勝志が、彼女達のパレオから覗く布を見て「それって水着なのか? パンツなのか?」と聞いていたが、当然、ドン引きされていた。


 「プロヴィデンスに男は連れて行かれちゃってね。援軍らしい援軍も寄越さないし、国際連合なんて踏んだり蹴ったりだよ」


 国際連合加盟国の徴兵では、幽玄者のテストも行われており(箱の中身を見ずに当てるクイズなどをやるらしい)幽世(カクリヨ)の才がある男性が、プロヴィデンス軍に引き抜かれてしまう国もある。

 そんな事情もあり、ファイは、自ら幽世(カクリヨ)の才がある女性を探し集め、幽玄者を指導していた。真は、国を守る為に心血を注ぐ彼女が、尊敬を集めるのも当然だと思った。


 「先に敵軍の規模を確認しておきたい」


 真は役割を全うする為、本題に入った。


 「ああ、数はざっと二十。多くはないけど、その分、統率が取れててね……」


 ファイは机に置かれたファイルから、敵の情報が記された資料を取り出して広げた。

 この―ファイル―は、第一次幻獣戦争の頃から国際連合が調査、収集している、あらゆる幻獣の情報が纏められた物で、連合に加盟している国の軍や組織に配付されている。


 「……特に厄介なのはこの三体。リスクAのシムルグ。リスクBのタビーとレオパード」


 ファイは、敵の主力三体をピックアップする。資料にクリップされている写真には、それぞれ、鳥型の幻獣と虎のような幻獣、そして豹のような幻獣が写っていた。名前の隣りに書かれているアルファベットは、現在に至るまでの、この幻獣の戦闘記録に基づいた危険度を示している。

 

 「特に、ボス、シムルグの飛行能力に対抗できる手段が乏しくてね……」


 真はシムルグの資料を手に取り、敵の特徴を確認する。リスクAは、アスラの主力であったカルキノスやミーゴに相当する値だった。


 「分かりました。戦闘になったらコイツを僕が引き受けます。あなた達は勝志を加えて、配下の幻獣をお願いします」


 真は、難しい役目を易々と引き受けた。彼はリスクを顧みない。カラッとした性格のファイだが、これには心配そうな表情を見せた。

 しかし、人々の期待に応えなくてはならないファイは、真の判断に賭ける事にした。


 「頼んだよ……! 勝敗はあなた達に掛かっている!」


 ――――――――――――――――――――――


 バビロン自治国の北にあるアルボルズ山まで撤退していた幻獣軍は、直ぐに反転攻勢に出ようとしていた。しかし、人類側を長く攻め立ている彼らもまた、疲弊の色を隠せない。


 「バカヤロー、何休んでんだ! 何時になったらあそこにいるニンゲン共、追っ払えんだ、このヤロウ!!」


 怒れるボス、シムルグは、地べたに寝転び回復を図っている部下達に叫んでいる。


 「そうは言ってもシムルグっち、簡単にはいかへんねん!」


 「みんなくたびれとるんや!」


 ネコ科幻獣のタビーとレオパードが、ボスを諌めている。彼らは、開戦に伴い死祖幻獣軍(アルケー)に参加し、その後ろ盾で独自の勢力を築こうとしていた。


 「もう、一層の事、シムルグっちもエネアドに頼ったらどないやねん」


 「バカヤロー! それじゃオレがラウインの下になっちまうじゃねぇか! オレが偉くなれねぇじゃねぇか!! つーかシムルグっちって何だ? 対等か!?」

 

 援軍を求めようとするレオパードに唾を飛ばしながら、シムルグは言う。


 「今、六とか言いながら六幻卿(むげんきょう)は五体しかいねぇ! オレがその座に就いてやる! 見てろ!!」


 「あー、ええ加減、諦めてくれへんかな……」


 タビーがボソッと言った。


 「よし、次はオレが大将直々、先陣を務める! 勝って腹を空かしたテメェらに、ニンゲンの血肉をプレゼントしてやるよ! だからオレに付いて来い!!」


 シムルグが大見得を切って宣言したが、部下達の反応は微妙だった。


 「いや……ウチらは遠慮しますわ」


 「草食やねん」


 「ええ!? そのナリでか!?」

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