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一話 宿敵㊀

 新暦199年、五月。死祖幻獣軍(アルケー)は、戦争開始から十ヶ月と掛からず、旧支配地を概ね奪還。大凡、アクアトレイの南全域から人類(プロヴィデンス政権下の勢力)を掃討し、更なる北上を目指していた。

 南西の大陸リビュアから、中央大陸への玄関口に当たるバビロン自治国、旧クレセント共和国跡地でも、この数ヶ月、幻獣との激しい戦闘が繰り広げられている。しかし、ここでも人類側の戦況は芳しくなく、辛うじて戦線を繋いでいる状況だった。


 「ファイ様! このままじゃ防衛線を破られます!」


 「必ずプロヴィデンスの援軍が来る! それまで、私達が食い止めるよ!」


 ファイ様と呼ばれた褐色の肌をした女性が、バビロン軍の指揮官のようだ。スタイルのいい女性で、この辺りの土地でよく見掛けるアラベスク模様のパレオを腰に巻き、ビキニを着ている。

 ファイは、装備している銃剣を構え、グールを思わせるハイエナのような幻獣に向けて引き金を引く。弾丸が、最新式の銃の乱射で足止めを食らう幻獣を、一撃で吹き飛ばす。


 「余りしつこいと、嫌われるよ!」


 どうやら彼女は、幽世(カクリヨ)の生命体である幻獣と、対等に渡り合える幽玄者(ゆうげんしゃ)のようだ。しかし、連戦で彼女や仲間の幽玄者も消耗し切っており、味方を鼓舞しつつも焦りが募る。


 ――このままじゃ、保たない……っ!


 ファイの胸の谷間に、不快な汗が流れ込む。その時、何処からか、ブーンブーンという荒っぽい音が聞こえた。音は徐々に大きくなり、彼女達に近付いて来るのが分かる。


 「何!?」


 「……バイク!?」


 彼女の疑問に、兵士の一人が聞き覚えのある音の正体に気付き、答えた。確かに、荒れ放題になった国内では久しく聞いていない、バイクの音だ。

 ファイが音の出所を見付けると、そこには二人乗りをしたノーヘルの若者(多分不良)が、どう考えてもバイクでは走れない丘陵を、強引に疾走していた。


 「あ、危―」


 見ていた者全員が危惧した通り、若者二人を乗せたバイクは、斜面のゴツゴツした岩にタイヤを取られると、派手に転倒した。


 「うわぁ!」


 「いって!」


 若者の顛末に呆れる兵士達を代表し、ファイは二人に駆け寄った。

 

 「ちょっと、あんた達大丈夫!?」


 民間人が前線に来てもらっても迷惑だ。彼女は、直ぐに二人に退避してもらおうとした。


 「こんな戦場で何をしてるの!? 直ぐに遺跡の地下にでも避難……駄目か。……衛生兵、彼らを―」


 当然、軽い怪我では済まなかっであろう二人を、ファイは搬送させようとした。しかし、彼らは何事もないかのように立ち上がった。


 「戦場? うおー、やっと着いたぜ!」


 「盗んだバイクのお陰で、体力は温存できたね!」


 「乗り心地最悪だったぜ!」


 「弁当食べてたくせに、よく言うよ……」


 二人の若者は、そんな事を言いながら伸びをした。ファイは二人に尋ねる。


 「あんた達、一体……!?」


 「僕ら白兎(びゃくと)隊です。援軍に来ました」


 「白兎隊!? ……あの!?」


 彼らの正体に、ファイは驚く。しかし、ファイに続いてやって来た兵士達は、怪訝な表情をした。


 「確かに幽玄者を送ると言っていたが、君達が? ……嘘を吐け!」


 「白兎隊って、サムライみたいな連中だろ?」


 「援軍が二人とか、ふざせているのか!?」

 

 バッシングを受ける二人だったが、確かに、バイクを運転していた片方の若者は、服装こそ洋服だが、兎の紋章が入った羽織りを纏い、鎖が巻かれた剣を持っている。もっとも、後ろに乗っていた若者は、ランニングシャツに短パン姿で、手にグローブを付けているだけの格好であったが……。

 

 「嘘を吐くのは得意だけど。これは嘘じゃないんだよね!」


 「おう! どうやって証明してやるかー!」


 二人の若者は、ちょっと考えると、素早く丘陵を駆け上がる。驚くべき速さだが、二人は更に加速し、やがて宙に浮き上がった。そして、敵の犇めくバリケードの外へ出る。


 「なっ!?」


 兵士達は驚いている。どうやら、あの二人の若者も幽玄者のようだ。

 ファイは彼らが紛れもない援軍だと確信した。士気を上げる為、声を張って味方に知らせる。


 「みんなー、白兎隊だ! 援軍が来たぞー!!」


 二人の若者、(しん)勝志(かつし)は、水を得た魚のように、群がる幻獣との戦闘を開始した。

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