プロローグ 戦争の始まり
三章です。真と勝志は、初の単独任務を行います。その後、ガリア国へ入りラーラと再会。プロヴィデンスから派遣された新たなメンバーを加えた白兎隊と、単独任務で知り合った幽玄者らと共に、真は因縁の幻獣ラウインに挑みます。
〜以下、作中の能力解説〜
※幽世。アクアトレイにおける真実の世界。又は魂の空間、領域。現実に隣接しており、ここでは一般的な物理法則が無視される。この空間に自在に入れる者を幽玄者と呼び、更に、そこで変異した生命体を幻獣と呼ぶ。
幽世では以下の力、幽世の六道が使用できる。
※空蝉。相手や物体の存在そのもの、即ち、魂に一方的に干渉できる力。或いは干渉されなくなる力。
※森羅。五感を使わず万物を把握する力。
※神足。意思のみで身体を操作し、移動、浮遊をする力。
※神託。自分の言葉やイメージを、意識のみで他者に伝える力。
※道連れ(ミチヅレ)。他者や物を幽世に引き込む力。
※業。特殊な事象を起こし、自分や他者に影響を与える力。いわゆる必殺技。
人類と幻獣の抗争が何時から始まったのかは、定かではない。遥か昔から幻獣の目撃例は存在し、その頃にあった争い、或いは、神話や伝説の戦いを含めれば、果て無く時代を遡る事ができてしまうからだ。
一方、幻獣戦争には明確な始まりがある。
場所はアクアトレイ、幻獣が輿地と呼ぶ世界の、南西の大陸リビュア。
人類発祥の地ともいわれるこの大地に生まれた一体の幻獣が、類稀な統率力と求心力、そして戦闘力持って、広大なリビュアの荒野やサバンナに棲まう幻獣達を一つに束ね、軍隊を組織した。そして、人類に対し、歴とした宣誓布告を行い、戦争を仕掛けたのだ。
彼らは―幻獣軍エネアド―と名乗った。
この時の侵攻を持ち、半世紀以上続く幻獣戦争の幕が上がる。
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新暦153年。リビュアにある主要都市を悉く落とし、最後の抵抗を試みた人類の軍事拠点を破壊した幻獣軍エネアドは、リビュア大陸を事実上征服した。
一方、人類はまだ幽世の存在を認知していなかった事が災いし、対抗手段に乏しく敗北。有史以来、何れの地でも失った事のない支配者の地位を追われた。
「やりましたな。我らが王よ」
燃え盛る基地を制圧したエネアド軍を率いる幻獣に、配下の幻獣が言った。
王と呼ばれた幻獣は、その呼び名に恥じない貫禄ある獅子の姿をした大柄な幻獣だ。
「ああ。シュー、テフヌト、ゲブ、ヌト、お前達もよくやった」
畏怖堂々としたその者は、大地の新たな支配者に相応しい威厳があった。そして、配下の幻獣達は、苦難と支配から自分達を解き放ってくれた王を崇拝していた。
「―……」
そんな王を、基地を眼下に望む砂丘から見ている幻獣がいた。
王によく似た姿、雄々しい鬣を持つ、子獅子の幻獣―。
その瞳は金色の輝きを放ち、強い野心を宿していた。




