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番外編 カレンの日記㊀

 一章にいたような気がするキャラ、カレンのお話です。

 ――大変なことになっちゃった……。


 ここはカーネル海の船の上。故郷の島に幻獣がやって来るっていう事で、わたし達は疎開する事になった。

 大急ぎで荷物を纏めて船に乗って、もう直ぐ近くのアキナ(とう)に着こうという頃、一緒に避難する筈の同級生、(しん)勝志(かつし)が、何処にもいないって分かったの。


 「甲板には誰もいません!」


 「もう一度、良く探せ!」


 避難を指揮する軍の人達が船内を探していたけれど、全然、見付かりそうにない。

 「乗船していないのでは?」って言ってる人もいたけれど、それはないの。だって二人は、さっきまでわたしの側にいたんだから……。


 「カレン……。真と勝志、どこ行っちゃったのかな?」


 二人が所属する孤児院の小さな子が、心配そうな顔で、わたしの他所行きのミニスカートを摘む。周りを見ると、孤児院のスタッフも真と勝志を探していて、子供達は不安そうだった。

 わたしは「これが自分の役割」と考えて、みんなを安心させるように言った。

 

 「大丈夫。いつものことでしょ! 二人はまた、冒険に出掛けたの……!」


 真(と勝志)は、多分、最初からこういう予定で、わたしに孤児院の仲間を任せたに違いない。

 わたしは、二人が船から海に飛び降りて、島に戻ったと思った。こういう非常事態に限って、あの二人は行動的になる。

 それを知っていたから。


 ――事前に教えてくれればいいのに……。


 わたしは少し、口を尖らせた。

 だけど、例えそうでも、フツーのわたしじゃ到底二人に付いて行くことはできない。

 そう、あの時みたいに、お荷物になるのがオチだろう―


 ――――――――――――――――――――――


 わたしの名前はカレン。アマリ(とう)に住む中学三年生。

 学校の成績はフツー。運動神経もフツー。身長もフツー。体重もフツー。胸も……B(フツー)。多分、フツーの女子。

 そんなわたしだけど、クラスで気になっている男子(好きって意味じゃないよ!)がいるの。

 小学校一年生か、もしかしたらその前から交流がある、幼馴染みたいな関係の、登張(とばり)真と阿摩美(あまみ)勝志の二人。

 二人は、正直言ってフツーじゃない。

 サボり、イタズラ、盗み、問題行動は当たり前で、それに加えて冒険とか言って、海へ出たまま何日も帰って来ない事もある。島では不良のような、名物のような存在で、大人達は、二人にとっても手を焼かされている。

 わたしも散々、被害を被っていて、困ってる。だけど、長い付き合いのわたしは、慣れたというか、二人にマトモになって貰うのを諦めてしまっていたのだけど……。

 真と勝志は、サンゴの家という孤児院の出身。そこには元々、二つ歳上の、二人にとってお姉さん代わりの人がいたの。美人で勉強も良くできた人で、その人が二人を厳しくしつけていた。……んだけど、彼女が卒業してしまってから、二人は益々、問題行動に磨きが掛かって(単純に年齢を重ねて、行動範囲が広くなっただけかも)しまったの。

 

 ――誰かが二人を止めなくちゃいけない! 

 

 わたしは、幼馴染として謎の使命感を抱いた。



 「勝志。起きなよ」


 「ん? なんだ真。メシか?」


 「放課後だよ。帰るよ」


 七月一日。使命に目覚めたのはいいけど、何の行動も起こせないまま、随分時間が経っちゃった。

 この日、二人は珍しく最後まで授業を受けていた。勝志は居眠りをしていたけど、真は理科の実験を真面目にやっていた。……多分、悪用する気に違いない。

 わたしは貸した消しゴムを、平気で返さずに帰った二人に(正直、こんな事はしょっちゅうだから頭に来る事はなかったのだけど、そんな自分にかぶりを振って)何かハッキリ言ってやらないと、と思い経って、二人の後を追い掛けた。


 「いつもこの辺から入っていくよね……」


 二人は、学校が終わると、大体、島の森へ入って行く。どうやら秘密基地があるらしい。

 手入れなんてされていないこの島の山林は、鬱蒼としていてちょっと怖い。アマリ中学校は制服がないから、靴は何時も歩き易いのを履いているけど、時々、ミニスカートが藪に引っ掛かって進むのが大変。

 

 「まったく、もお。こんな所でいつも何してるんだか……」


 わたしが邪魔な木の根っこを、ピョンと飛び越えた時だった。


 「!!?」


 突然、目の前の地面が迫り上がって、わたしは仰向けに倒れた。

 

 「きゃぁああああああああ!!」


 森中に響く悲鳴……よりも、カランカランという喧しい音が響き渡った。

 

 「うぅ、いたた……」


 わたしは、狭い穴に落っこちてしまっていた。

 生憎、浅くて、覆っていた草や落ち葉がクッションになって怪我はしなかったみたい。それの所為で穴があるのに気付かなかったけど……


 「なに、これ……!? わっ、抜けないっ!」


 困った事にわたしは、仰向けのまま背中とお尻が穴に嵌ってしまい、動けなくなっていた。


 「ど、どうしよう……っ!」


 その時、こっちへやってくる足音が聞こえた。何だか嬉しそうに跳ね回っている。


 「やったぜ! イノシシだ、イノシシ! イノシシ鍋やろうぜ!」


 「僕は未確認生物が掛かったと賭けるね!」


 勝志と真の声だ。きっと、さっきの喧しい音を聞き付けて……。

 この穴の不自然さといい、わたしは漸く、これが二人が作った落とし穴である事に気付いた。


 「アレ? ニンゲンだ」


 「カレンじゃん。あーあ、やっぱ幻は幻か」


 勝志と真は、足を上げた無様な格好で穴に落ちているわたしを見て、がっかりしていた。

 わたしは、パンツが見えないように必死でガードする。

 

 「せめてウサギならなー。サルでもいいか!」


 「サルじゃこの罠、脱出できちゃうね。てゆーかサル食べんの?」


 「ちょっとっ、出られないわたしは動物以下!? ボーっと見てないで助けてよーっ!!」


 わたしは、恥ずかしいやら悔しいやらで、顔が真っ赤になった。

 マトモになって貰うのを諦めてしまっていた、とは何だったんだろう、使命感すら忘れて怒った。

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