五十九話 お宝㊁
戦闘から一週間後、白兎隊は次なる任務に備える為、華国を離れ大和に戻る事となった。撤退したヴリトラの行方は掴めていなかったが、幻獣と戦う事を生業とする組織が、幻獣のいない場所に何時までも留まっても仕方がないからだ。
出発の日の朝、隊士達は宿舎の部屋の前に集合した。
「どこで手に入れたのソレ?」
「病院で見舞いに来てた孫が持ってたんだ。あいつ何時もファーの胸ばっか見てるから、きっとデカいのが好きなんだぜ」
真は勝志の荷物に、何時の間にかグラビア雑誌があったので不思議がった。
「へぇ。まぁ、これは爺さんに頼まれた物だったのかもね」
雑誌のページをペラペラめくった真は、翠の写真を見付けたので、そう判断した。写真の翠は、見慣れた着物姿だったが、乱だされ荒縄で縛られている、中々、マニアックな姿だった。
「爺さんには悪いけど、おれたちはもうすぐ本物を見れるぜ」
「じゃあ、これは返して上げ……まぁいいか。お腹の傷に障るかもしれないしね。竜胆館に帰ったら隠しときなよ。秘密にしているらしいし」
真は大人達を揶揄う、意地悪な顔をして言った。
「やっぱり挨拶をして行った方がいいかな?」
「いいんだよ。オレらが居たって邪魔だろ」
「役目を終えれば、俺達は消えるだけだ。……家に帰るぞ」
結局、最後まで決断力に欠ける部隊長、隼人に、ガイと十兵衛が意見している。
清林組はこの日、命を落とした仲間の弔いを行っていた。大和に戻る事は伝えてあるので、葬儀にまで顔を出すのは野暮かもしれない。
「それもそうだな……。分かった、行こう。……女子二人はどうした?」
隼人が、隊士の顔触れを確認して言った。どうやらアヤメとりぼんが、まだ部屋にいるようだ。二人のいる部屋から「アヤメさん上手ですね。女中さんみたいです」「このくらい自分でできるようになりなよ」と声が聞こえる。
「おいっ、出発だぞ! 早く出て来い!」
男子を代表したベンが、何気なく襖を開けたが、直ぐにしくじった事に気付いた。
「……あっ」
中にいたアヤメとりぼんは、どうやら衣服の破れた箇所を繕っていたようだ。
こちらに背を向けていたアヤメは、着物を着ておらず、巨乳を隠すサラシとお尻に食い込む褌しか身に付けていない。りぼんも、褌姿に、直して貰ったミニ丈着物を羽織った所で、際どい格好だった。
「きゃあああああっ……な、なんですかっ!?」
「あっ、いや、おおおっ!!」
慌てて着物の前を閉じて、小さな胸と、布地の小さな女性用の褌を隠すりぼんに対し、やらかしたベンは完全に狼狽えていた。
一方、アヤメは何も言わず、そのままの格好でベンに近付いて来る。
「お、おう。じ、時間だぜ……いてっ」
アヤメは持っていた針で、取っ手に掛かりっぱなしのベンの手を刺して、襖をピシャリと閉めた。
軍車両の荷台に乗り込んだ一向は、万里の街を後にし、港へと出発した。
着物をキチンと着たが、先程、半裸を見られた事を根に持つりぼんは移動中ずっと、知らんぷりを貫く真とグラビア雑誌に没頭する勝志に「二人も見ました? 見ましたね?」としつこかった。
「―所でテンツジンってどーゆー意味だ?」
「さぁ……。何となくイメージで付けただけだからね」
「天津飯とは違うのか?」
「何で食べ物なのさ? 多分、関係ないよ。 蟹? 全然関係ないよ」
食欲と色欲しかない勝志の疑問に、真はそう答えた。
「そっちは良くパンツァーなんて言葉知ってたね」
「ああ。パンツに似てるからな」
「無関係でしょ」
車両が砦の門を出て、ゴツゴツした山道に入り掛けた時、此方を追い掛けるように声が聞こえてきた。真達が振り返ると、砦の頂上に、見張り兵とは違う民族衣装を着た二人組が手を振っていた。
「白兎隊のみんなー! ありがとうー!!」
「援軍に感謝する!!」
ファーと孫だった。二人は清林組を代表し、葬儀から抜けて見送りに来たのだろう。自国を守る為、多くの仲間を失ってしまった彼らだが、決して挫ける事なく、次なる戦いの為、前を向いている。
また再会する日を胸に抱き、隼人やりぼんらが手を振り返していると、乱暴に孫を押し退けて、後ろから超が現れるのが見えた。
「こ、こらー、お主らっ!! わしの許可なく、帰るなど許さんぞー!!」
息を切らしている超は、それ以上は言葉に詰まってしまったようだったが、固く握った拳、解き、感謝を示すように手を上げた。
「すまん! 恩に着る!!」
真達は皆、呆れて笑っていた。
しかし、同じように手を上げ、感極まっている超に応えた。




