五十六話 アスラの君主ヴリトラ㊄
加勢に現れた真と勝志は、完全に出鼻を挫かれ、墜落した藪の中で殆どダウンした。
「……いよいよ、マズイかもね……僕ら」
「……なんだ? 真。……なにか食ったのか?」
「……君は元からこんな感じか。……これが僕らの何時も通りなのかもしれないね」
ヴリトラの放った氣弾は、距離が離れていたのが幸いし辛うじて防ぐ事ができた。しかし、二人共カルキノス、ミーゴとの戦闘で受けたダメージを引きずって万里までの長距離を飛んで戻って来たので、身体は悲鳴を上げていた。
しかし、二人の登場でヴリトラと戦うガイは、更にヒートアップしてしまったようだ。
「オラ、ガキ共! 戦いは続いてるんだ! まだ斃れてねぇんなら手伝え!!」
真も勝志も危険な状態だったが、普段、ガイは加勢など求めない。極限状態で戦っていのは皆、同じなのだろう。
それに、ガイと十兵衛が破れれば、ヴリトラに対抗できる戦力は最早、残っていないといってもいい。
「っ……全く……。冒険は死ぬまでか……! 腹を括るしかないね勝志!!」
「死ななきゃ……なにも食えねーんならっ、やってやるぜ!!」
真と勝志は、最後の力を振り絞り、戦場に這い上がって行った。
二人が藪を飛び出し、再び、ヴリトラに掛かって行くと、丁度、ガイと十兵衛が、左右からヴリトラに斬り掛かった所だった。片方がジャンプし、片方がしゃがみながらの挟撃。躱されても味方に当たらない、見事な連携だ。
しかしヴリトラは、一瞬、消えたのかと思う程の速さで挟み撃ちを回避し、再び姿を見せたかと思うと長い尾を振り回し、自身を森羅で捉え損ねた二人を同時に吹き飛ばした。
真は、直ぐ様、鎖を振り回しヴリトラ目掛けて分銅を飛ばした。氣弾を纏った破壊力のある攻撃だが、ヴリトラはこれもあっさり尾で弾き返してきた。
そっくりそのまま跳ね返ってきた分銅を、真は慌てて回避する。
「くっ!」
「おら!!」
再び出鼻を挫かれた真だったが、この間に勝志が接近に成功してヴリトラにストレートパンチを浴びせた。しかしこれも通用せず、ヴリトラはパンチを手の平で軽く受け止め、逆に勝志の拳を掴まえる。
「うわっ!」
ミシッという音がして、勝志の手に嵌められている石の防具、超・破壊にヒビが入る。あわや、拳ごと砕かれかるという時、ヴリトラが勝志の手を離し腕を引っ込めた。
直後、ヴリトラの伸ばした腕があった空間を、鉄扇、孔雀が猛烈な勢いで通過した。
攻撃を加えたのは勿論、フォンだった。清林組の仲間が目の前で次々に死亡し、戦意を失っていたフォンだったが、死に体となっても果敢に格上の相手に挑む真と勝志を見て、自らも奮い立った。ガイが掛けた言葉は、彼女にも腹を括らせのだ。
「何してるのよ、あたし!」
例えヴリトラとの力の差が圧倒的なものだとしても、力を合わせれば味方の隙や敵の余裕を減らせる。
「ちょっとでも、足掻いてチャンスを作るのよ!!」