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五十四話 アスラの君主ヴリトラ㊂

 アスラの幻獣達は悉く敗れ去り、戦闘が行われているのは、最早、ヴリトラのいる本陣のみとなっていた。

 しかし、ここでの戦いも、既に勝負は決していた。果敢に敵将に挑んだ清林組(せいりんぐみ)であったが、一人、また一人と斃れ、血と肉塊に変えられていく。

 最後に残ったフォンが、半ばヤケになって孔雀(コンチェルト)を投げ付けたが、ヴリトラは高速回転しながら向かってくる鉄扇を、最も容易く手で捉えた。


 「嘘でしょ……っ」


 「やれやれ……やはり勝負にならないな」


 人のように、繊細な動きを可能とする手を持つヴリトラが、掴んだ扇で煽りながら言った。


 「争いは対等の者との間でしか成立しない。ワタシがニンゲン相手に本気になれば、それは唯の蹂躙だ。……面白味に欠ける。しかし、いざ滅亡させるとなると、ニンゲンは数が多すぎる。……容易いが面倒……。神も飽き、地を去る訳だ……!」


 ヴリトラが憐れむような瞳でフォンを見下す。フォンは、余りの力の差と、それによって為す術なく斃れた味方の無残な亡骸を見て、戦意を喪失した。


 「―ならばお主も、いるべき場所へ帰るがいい。部下共と共に! 日の当たらない陰の下……忌むべき者が堕ちるべき地獄へな……!」


 落葉樹の木々の間から、年老いた声がした。ヴリトラの視線が声の主へ向けられる。


 「師範……!」


 フォンが、木々の間から現れた人物を見て言った。


 「キサマは……」

 

 清林組の師範、(チョウ)は、ヴリトラと対峙すると、老人とは思えないキレのいい動きで拳法の構えを取った。

 

 「()国はきさまらの好きにはさせん! 神や君主がなんじゃ! ここ半世紀で現れた若造ごときが!! ここでは……」


 超が叫んだ。


 「わしが一番エライんじゃー!!!」


 ――――――――――――――――――――――


 「口程にもないな。おエライ老人……!」


 ヴリトラが、血の着いた指を長い舌で舐めながら言った。日が沈み、薄暗くなった地面に超が倒れる。


 「師範っ!」


 フォンの悲鳴のような声が上がった。

 超を持ってしても、ヴリトラには手も足も出なかった。ヴリトラは、卓越した拳法を軽くいなし、超の腹を鋭い手刀で貫いて見せた。


 「ムダに歳だけ重ねて哀れな事だ。キサマもあの岩に繋がれた仙人共と一緒に人柱になっていた方が、余程この国の役に立てただろう……」


 「うぐ……おのれ……っ! わしがその事を、どれだけ無念に思っておるか、きさまには分かるまい……!」


 ヴリトラの言葉は、腹の傷以上の苦痛を与えたのか、超の表情が更に歪む。

 超は理解していた。自分が最前線で戦えないのは、寄る年並みの所為ではない事を。

 彼は、日頃、若者に偉そうな態度を取っているが、決してサノヲのような優れた幽玄者(ゆうげんしゃ)ではなかったのだ。

 

 「ハッハッハッ。いるべき場所へと帰るのはどっちかな? もっとも、キサマのような哀れな魂、天にも地獄にゆくまい。破壊され……儚い塵へと変わるだけだ!」


 ヴリトラが引導を渡そうと超を狙い、片手を翳した。周囲の影が、吸い込まれるようにその手に集まる。フォンはその攻撃が、仲間達を死に追いやった(ワザ)だと直ぐに気付いた。


 「師範っ―」


 ヴリトラの手の平から、黒々とした影の塊が複数放たれた。影は、蠢くような乱れた軌道を描き、地面を抉り、木の幹を穿ち、その一つが超へ飛ぶ。

 フォンは、自らを奮い立たせ師範を守ろうとした。


 「!?」


 黒い氣弾が超に当たる直前で、フォンより先に緋色の髪の男がその間に割って入った。

 男は分厚い刀の側面で氣弾を受け止めて見せる。


 「……へへっ。悪りぃがジジイがいなきゃ、ガキが育たねぇんだよ……!」


 超を守った男が格好を付けた。


 「年寄りをイジメんじゃねぇ!」


 「ガイ!」


 フォンが男の名を叫ぶ。

 ヴリトラの背後から、更に十兵衛が現れ、擦れ違い様に居合で斬り付けた。ヴリトラは、新手の登場に動じる事はなく、身体を逸らすようにして不意打ちを躱す。


 「アンタがヴリトラか?」


 「斬る……!」


 援軍に駆け付けたガイと十兵衛が、ヴリトラとの戦闘を開始した。

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