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五十三話 アスラの君主ヴリトラ㊁

 千里山(せんりさん)の麓の戦いで、唯一、アスラ軍が優勢となっている戦場があった。人類側を苦戦させているのは、象の姿をした幻獣ガネーシャ率いる部隊だ。

 砦の高さにも匹敵する程の巨大な体躯を誇るガネーシャは、森に展開していた軍の隊列を蹴散らし、砦に迫る勢いだった。

 清林組(せいりんぐみ)の組長、(ソン)率いる部隊が、ガネーシャの進軍をどうにか阻止しようとしていた。しかし、その巨体に攻撃を加えようとしても、背に乗った配下の幻獣十体が投石や氣弾を放ち、接近を阻んでくる。


 「くそっ、このままでは万里(ばんり)に入るぞっ!」


 ガネーシャの長い鼻の強烈な一撃で吹き飛ばされ、膝を付いた孫が言った。堅牢な砦とて、あの巨体のパワーを持ってすれば、難なく破壊されてしまうだろう。


 「うー……こうなったら、わたしが!」


 その時、後方支援を主としている為、余力が残っていたファーが、勇気を振り絞り敵前に躍り出た。


 「はぁあああ…………とりゃああああ!!」


 気合いを込めて放った氣弾が、ガネーシャに命中したが、巨大な幻獣は、それでも僅かに足を止めただけだった。

 しかしその衝撃を、立て続けに受ければ話は違う。


 「らぁああああああああああああああああ!!!」


 ファーは、強烈な氣弾を一発ではなく乱れ撃ちして見せた。普段、発射時に、ぶるんっと揺れる巨乳も、激しく暴れ回る。

 乱射された氣弾は、悉くガネーシャにヒットした。更に配下の幻獣達にも当たり、彼らを背から叩き落とす。


 「いいぞ、ファー!!」


 孫が感嘆し、清林組は叩き落とされた幻獣達へ一斉攻撃を仕掛けた。砦からも、軍が銃撃や砲撃を浴びせガネーシャの体力を削る。


 「アイヤー……疲れた……っ」


 限界を超えた数の氣弾を放ったファーは、その場にへたり込んだ。しかし、彼女のがむしゃらな攻撃で、形勢は逆転する。

 やがて、清林組と軍の集中攻撃を受けたガネーシャの進撃が止まると、巨体がゆっくりと傾ぎ、大地に倒れて土埃と轟音を上げた。


 白兎(びゃくと)隊の隼人達は、逃走を図った幻獣達を追い詰めていた。残る敵は三体で、千里山の起伏に富んだ地形に逃げ込もうとしている。


 「逃がすか!」


 隼人が、三本の矢を纏めて弓に番えた。射った矢は、それぞれ別々の方向へ飛び、三体の幻獣に当たる。

 幻獣達は、辛うじて矢の直撃を避けた。しかし、肩や足に刺さった矢が、直ぐに普通の矢でない事に気付く。


 「ナンダ!?」


 矢は、貫通した幻獣の身体の側に、まるで、見えない壁があるかのように留まり、彼らをその壁に縫い付けた。


 「今だ!」


 (ワザ)で敵の動きを止めた隼人が、仲間に叫ぶ。

 直ぐ様、アヤメが、刀を逆手で構えたまま、敵の側面を高速で擦れ違い華麗に斬り裂く。ベンが起伏を避ける為、果敢にも高度を上げ、別の一体の頭上から豪快に薙刀を叩き込む。

 しかし、最後の一体、頭部だけの幻獣ラーフが、動きを封じる矢が刺さった身体の一部を引き千切るようにして脱出し、隼人が放った止めの矢を躱した。逃げらないと踏んだラーフは、反転して近場にいたりぼんへ襲い掛かる。


 「りぼんっ!」


 「きゃあっ!」


 隼人が警告を発したが、りぼんはラーフの突進を受けて転倒してしまう。衝撃を受けた刀が、手から離れて飛んでいく。

 慌てた隼人が、救出しようと矢を番えたが、焦りからか狙いを定めるのに手間取った。


 「はぁ!」

 

 しかし、素早く起き上がったりぼんは、ラーフに正拳突きを入れて反撃に出た。そのまま流れるように空手の連撃を加えていく。

 

 「えい! やあ! とう! たぁあああああ!!」

 

 立て続けに攻撃を受けるラーフの目の前で、りぼんは大きく足を跳ね上げた。ミニスカ着物の裾を気にせず上下百八十度の開脚をして、白地の褌が露わになる。

 りぼんは、そのまま足を振り下ろし、動きの止まった敵の脳天に見事な踵落としを決めた。ラーフが、地面に叩き付けられるように倒される。


 「おお!」


 「やるじゃない!」


 駆け付けたベンとアヤメが感心した。隼人が至近距離からラーフに止めの矢を撃ち込む。

 緊張したように残心を取っていたりぼんだったが、褒められた事で表情を緩め、お茶目に答えた。


 「……天才ですから! ……なんちゃって」


 りぼんの活躍もあり、配下の幻獣は全て打ち取られた。隼人達は、漸く一息吐く。

 日は沈み掛け、森が暗闇に包まれ始めた。軍が篝火を焚き、視界を確保する。日が落ちれば、闇の中でも動ける幻獣が有利だ。その前にケリを付けられたのは幸いだった。


 「残るはヴリトラだけ……!」


 隼人は、既に討伐へ向かった、()()()()()()()()()の腕を信じた。

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