四十五話 勝志VSミーゴ㊂
勝志は氣弾の構えを取り、生命エネルギーを右手に集めた。ファーとの訓練見せた、力強い溜めだ。そのまま氣弾を放つかと思われたが、勝志は手を握りミーゴに飛び掛かる。
「超・破壊巨拳!!」
勝志の業は、氣弾を纏ったストレートパンチだった。巨大なエネルギーが、まるで、巨人の拳のような形状になる。
――!? 何だこれは!!?
ミーゴは自分の身体を覆う程の、巨大な拳に狼狽えた。避ける間も無く、全身を殴られる。
「ぐあああああああああああ!!」
その威力は見た目通り、巨大な拳に圧壊させられるかのような衝撃を与え、ミーゴは、またまた粉砕された地面の土塊と共に、吹き飛んだ。
「……はぁはぁ、どうだ!!」
「ぐぅ……馬鹿な……っ。お前の何処にこんな力が……!」
業は、通常攻撃より威力が上昇する事が多い。それでも先程まで此方に、殆どダメージを与えられなかった相手の芸当とは思えない、異常な攻撃力だった。
体格の優位、体術の力量。ミーゴは、どちらも自分に分があるのは間違いないと判断していた。しかし、これだけの威力を生むパワーが、勝志には眠っている。
それは、幽世の戦いに置いてもっと重要な、魂の強さに起因する。
「劣っているというのか……俺の魂が……お前に!」
ミーゴが立ち上がった。全身を強打され、鎧のような身体が所々へこみ、軋んだ。しかし、怒りの感情は最高潮だ。
「くそぅ……一発で決めるつもりだったんだけどな。仕方ねぇ……!」
勝志が相手の覇気を見て、気合いを入れ直す。
格上相手の戦いでの勝利条件をクリアする為に、真は天堕刃の一瞬の攻撃力の上昇という手段を取ったが、勝志は超・破壊巨拳の一発を如何に入れるかを糸口としていた。
勝志は全身全霊をこの業に込めている。お陰でダメージと合わせ、身体は限界に近い。
しかし―
「もう一発だ!!」
勝志の拳に、再び莫大なエネルギーが集まる。
ミーゴも拳を構えた。相手の業は、身体の前面に巨大なエネルギーの拳を形成する、攻防一体の業と見た。防御しても受け切れないと判断し、それ以上のでパワーで押し返す選択だ。
――避ける? 負けを認めるに等しい……!
ミーゴは己の最高の攻撃力をぶつけて、自分の魂が勝志に勝ると証明したかった。
「いくぜ!! これがおれの火事場のナンチャラだ!!」
「馬鹿力だ、サル!! 叩き潰してくれる!!」
互いは最大の力を拳に込め、同時に飛び掛かった。
「いけぇええ!! 超・破壊巨拳!!!」
「雪男の螺旋拳!!!」
勝志の拳が巨大なエネルギーを纏い、ミーゴの拳が暴風雪を纏った。
互いの必殺業が真っ向から激突する。その衝撃は、地面を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、山中を駆け巡り、山を吹き飛ばすかの勢いで広がった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぬぅううううううううううううううううう!!」
勝負は拮抗している。しかし、徐々に勝志の巨大な拳が、ミーゴの拳の暴風を押し返す。
「ば、馬鹿なっ!? お前は一体!!?」
「言ってなかったか!? おれは……人間だぜぇえええええ!!」
疑問の本質を勘違いした勝志の拳が、ミーゴの拳を押し込んでいく。ミーゴの腕が耐え切れず、鉄屑のように潰れ、ひしゃげていく。やがて、巨拳が全身を襲った。
凄まじい衝撃を受けたミーゴが、幽世から弾かれ退けぞる。足下の地面は砕け散り、山崩れが発生した。
しかし、ミーゴは辛うじて残る意志の中で、勝志の頭を無事な方の手で捕まえる。
「ぬぅう……うぅ……!」
「……ぐ……ぅ」
勝志は二度目の業を使い、体力を使い果たして気絶していた。
勝志はミーゴに引き倒され、両者は自分達が起こした山崩れに巻き込まれ、斜面を転がっていく。
転落しながらもミーゴは、執念で勝志の頭を握り潰そうとした。有無を言えない勝志の頭が、怪力でミシミシと軋み上がる。
「コイツぅう……!」
落石がミーゴに激突し、衝撃で勝志から離れた。両者は大量の岩や土砂と共に山を滑り落ち、濛々と上がった土煙の中に消えた。
「………………うぅ……」
山の下の、崩落の現場で勝志は目を覚ました。
辺りを見渡すと、土埃とダメージの影響で霞む視界の中は、岩と土砂だらけでミーゴの姿は見えない。どうやら、下敷きになったようだ。
一方、勝志は幸運な事に、山崩れに殆ど巻き込まれていなかった。
「……やったぜ! あ、頭いてぇ……」
勝志は勝利を確信すると、再び倒れた。
幻獣に対しての初めて勝利は、これ以上のない大金星だった。