三十九話 真VSカルキノス㊀
華国大和連合軍が砦から打って出た頃、万里から遠く離れた山岳地帯で、真と勝志は強敵、カルキノス、ミーゴと相対した。
猿人幻獣ミーゴは、この状況がやや気に入らない。
「……失敗だな。俺達の姿を見れば、幽玄者を最低四人は追撃させると踏んでいたんだがな」
「ハハハッ! ミーゴ、今回は読み間違えたか。けどよォ、所詮、テメェの策はサル知恵ってモンなんじゃねェか? 一生懸命、知恵を絞るのはニンゲンのやる事さ!」
カルキノスが、ミーゴの肩を鋏で叩いた。ミーゴは、相棒の言葉で更に機嫌を悪くしたのか、ギロリと睨んだ。
「なぁ、真。ゴリラだ! ゴリラが喋ってるぜ!?」
「幻獣だよ……」
二体のやり取りを見ていた勝志が、とても珍しいものを見たかのような反応をし、真は流石に笑った。
「ゴリラだとよミーゴ。ハハハッ、どっちがサル頭か分からねェな!」
カルキノスも笑い出す。真は勝志の作った、妙な流れに乗る事にした。
「まぁ、あんた達有名なつもりみたいだけど、こっちじゃ誰も知らないしね。部隊長も僕らで十分だと思ったみたいだよ。ねぇ、勝志」
「ああ。お前らなんか知らねー」
真の嘘っぱちは、正直な勝志によって信憑性を増した。
「何だよミーゴ。オレらの悪名はニンゲンの間でも知られてるんじゃねェのかよ? ったく、もっと悪りィことしねェと!」
嘘を信じたカルキノスは、少しショックを受けたようだ。ミーゴも頭を掻いた。
「仕方ねェ。テメェらの亡き骸、土産に持って帰って、ニンゲン共にオレらの恐ろしさを教えてやらねェとなァ!」
惨忍なカルキノスが、鋏を広げ、いよいよ臨戦体制を見せた。
「手足をチョン斬って! ダルマにしてと……ああ、頭だけ持ってけば、ニンゲン共はビビっちまうか! 悪く思うなよ―」
「……」
真は、感情が高ぶり出すカルキノスに構わず、鎖を振り回して投擲した。
先制攻撃だ。しかし、自分の力に絶対の自信があるカルキノスは、動じる事なく、それを鋏で防ごうとした。
「!?」
しかし、カルキノスにとって予想外の事が起こった。
鎖が鋏に当たると、巨体ごと弾き飛ばされたのだ。そっくり返ったカルキノスは、派手な音を立てて、山の傾斜に激突した。
幻獣の予想を上回る力を見せた真が、初撃を決めた。
「だから……僕らで十分なんだって。土産になるのはそっちさ!」
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千里山の麓から北西にある山脈。その外れにいるガイは、空気が震えるような両軍衝突の気配を、確かに感じ取った。
「始まったな」
十兵衛が静かに言った。確かな情報が、直ぐに無線で二人にも伝えられる。
彼らの目の前にある巨石に眠る者も、この気配を感じ取っているのだろう。岩に入った亀裂が、まるで卵の孵化のように広がっていく。
ガイは、焦りを覚えた。自分も今直ぐ行動を起こしたい衝動に駆られる。しかし、今は味方の頑張りに期待するしかない。
彼は、冷静な相方に負けない為に習った座禅を、自らも組んで、自分の戦いに備えた。
――そっちは頼んだぜ。隼人……。フォン……!
兵士達は、素早く森の中で隊列を組み、迎撃体制と幽玄者の援護を整えつつ、彼らの退路を確保した。一方、主戦力となる幽玄者達は、清林組で二隊、白兎隊で一隊と、戦力を大方三分割してアスラ軍に突撃した。
「掛かれ!」
隼人が先制の矢を放ったのを皮切りに、ベンが薙刀を振り回し敵陣に入る。アヤメが左右から迫った敵に逆立ち開脚で蹴りを喰らわせ、りぼんら残りの隊士は刀を抜いて敵を斬り付けた。
清林組も、如意棒を持った孫を先頭に、各々の武器や超拳法で攻撃を加え、ファーが得意な氣弾を放ち味方を援護する。
「やあっ!」
フォンがスピンをしながら、二枚の鉄扇で敵を斬り裂く。ミニスカートが、高い位置にあるスリットによって大きく前後にめくれ、ハイレグパンツがモロ見えになる。
「手加減なんてしないわよ!」
彼女は、下着の露出や乳揺れを、一々、神足で制御しない本気モードだった。
一方、千里山の中腹に居座るヴリトラは、そんな連合軍の動きを正確に森羅で視透かしている。
「フッ、ヒトというモノ共は、案外、我慢弱い生き物だな」
人質の処刑を見せて敵の感情を煽り、思い通りに砦から釣り出せたが、ヴリトラとしてはもう少し心理戦を愉しみたかった。
敵の判断を揶揄しながらも、ヴリトラは素早く神託を飛ばし、幹部の幻獣に指示を出す。
――アラクネー。ガネーシャ。ラーフ。荒くれ者共を餌場に案内してやれ!
彼は、人類側の三叉の陣形に対し、やはり、戦力を三手に分けた。
ヴリトラにとって一番やっかいなのは、自分勝手に動く、頭の弱い部下達だった。連中を如何に思い通りに動かすかが肝要である。
幽玄者以外の兵など、何時でも始末できる。砦に攻め込めば混戦になり兼ねず、暴れたいだけの部下が幽玄者以外に向かって行き兼ねない。部下の力を、敵の主力に確実にぶつけるのが、彼の狙いでもあった。
「打ち手は駒の力を百パーセント活かさなくてはな」
ニンゲン共は怒りに身を任せて勢いに乗っているようだが、全ては此方の手の上だ。
「ワタシが造った舞台だ。皆、愉しめ……!」