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五話 記念日

 待ち人は、奇妙な出立ちだった。

 青竹のような色の髪をした男だったが、道着に羽織を着ている。カーネル諸島より北にある島国―大和帝国―の民族衣装を思わせる格好だ。

 加えて、周りの軍人達が、銃やナイフなど本格的な装備で武装しているのに対し、この男はそういった物を何一つ身に付けていない。その代わりなのか、飾り気のない槍を一本持っていた。


 「……!」


 (しん)は不安になった。

 この場違いの男がリーダー格である事は、ウィーグルや指示を待つ軍人達の様子からして明らかだ。しかし、出立ちと違い、男の険しい表情は周りの軍人達と変わらず、友好的な印象は一切なかった。


 「お前達は本部に連絡を。それと、そこの少年を家へ送ってやれ」


 男が指示する。

 真は、自分がもしかしたら気付かれていないのでは? と思っていたので、ウィーグルの為に打開策を探していたが、徒労に終わった。

 軍人達は、こんな所に少年がいる事に驚いていたが、指示に従い、真を連れて行こうとした。

 真が心配してウィーグルを見ると、幻獣は視線だけで真にサインを送ってきた。

 「大丈夫だ」と言う意思が、不思議とハッキリ伝わった為、真は渋々、この場を去る事とした。


 真と軍人達の姿が、森へと消える。

 ウィーグルは、()()()()()()()()()に言った。


 「お前に二つ頼みがある。見返りは我々の情報だ」



 真はサンゴの家に戻った。

 ずぶ濡れの真を、軍人が連れ帰ってきたので、家にいた職員達は何事かと慌てた。どうせ、真が何かやらかしたと考える職員達は、ペコペコ頭を下げていたが、真は事が大きくならないよう大人しくしていた。

 その後、真は院長に言われ自室に戻った。

 ベッドに横になっても寝らず、何か異変を知らせる音がないか、ずっと森の方に耳をそばだてていた。


 ――――――――――――――――――――――


 翌朝、アマリ島の光景は普段と違うものになっていた。

 天気が良いのに、漁船が一隻も海へ出ていない。加えて、軍隊が保有する小型船が多数停泊していた為、港が船でひしめき合っていた。

 真はウィーグルがどうなったのか心配だったが、朝食の席で珍しく院長が「今日は出来るだけ部屋から出ないように」と釘を刺してきた。止むを得ず真は、自室で勝志(かつし)と共に、すっぽかしてきた夏休みの宿題に手を付けた。


 「そんなにすげー力を持っているなら、ウィーグルは大丈夫さ! ……あ〜あ、おれも乗ってみてぇなー!」


 真が昨夜の出来事を話すと、勝志は幻獣の不思議な力に興味津々だった。


 「ウィーグルの奴、僕らには何も話さないくせに……」


 真はボヤいた。

 無事が確認出来れば、聞きたい事が山程ある。最後に見せた竜巻のような攻撃はもちろん、風の抵抗を感じない高速飛行、相手の幻獣の事などなど……。

 見聞きした事を整理すると、どうやら幻獣達は人類との戦争を再開させるつもりらしい。だが、ウィーグルはそれに反対しており、仲間割れを起こしている。更に、幻獣達はカーネル諸島を狙っていて、ウィーグルは危険を冒し、人類に警告を発しにきた……といった所だろうか。

 警告は、恐らくあの変わった格好の男を通して伝えられた。その所為か、島内の代表者は集会所に集められ、院長の姿も、朝以来、見掛けなかった。

 相変わらず森からは銃声一つ聞こえない。真はやきもきしたまま机に向かっていた。


 ――――――――――――――――――――――


 真は、あわよくばウィーグルの所へ行く機会を伺っていたが、思いの外、自分が監査されている事に気が付いた。

 職員や、お手伝い好きの妹分が、お茶やお昼ご飯を持ってきたり下げたりする為、ひっきりなしに真の部屋へやって来たからだ。

 更に、真が一歩でも部屋を出ると―


 「こらぁ! 真は外に出ちゃいけないんだぞー!」


 ―と年少の子がブロックしてきた。

 どうやら、廊下で代わり番子に見張っているようだった。


 「トイレだよ」


 真は飽きれた顔で言ったが、結局、下のリビングにすら行けなかった。

 庭では、サッカーをしている子供達もいたが、監督している職員が、時折此方の窓を見ているようで、このルートも使えない。

 こうなってくると、宿題を教えて欲しいとやって来た勝志すら、監視の為にいるのでは? と真は疑った。だが、勝志は一緒に始めた宿題に苦戦を強いられ(真の半分も進まない)それどころではなさそうだった。

 真は少なくとも、本人にその思惑はないと判断した。

 日が沈み始めた頃、真は勝志が捗らない歴史の問題を手伝った。旧暦の終わりに起こった戦争についてだ。

 暦を確認しようとカレンダーを見た真は、今日が八月十四日だと気付いた。

 ウィーグル探しの冒険へ出た日から、もう半月が過ぎている。あっという間に感じた冒険の時間に比べると、宿題をしている時間はダラダラ長く感じられる。

 結局真は、家を抜け出すタイミングを見付けられず、やがて院長が帰宅し「夕食の時間です」と二人に声が掛かった。


 ――――――――――――――――――――――


 リビングに入ると、真は驚いた。

 部屋が飾り付けられ、机の上には豪華な食事が用意されていたからだ。壁には、年少の子達が描いた物であろう、真(と思われる)のイラストと「たんじょうびおめでとう」と書かれた飾りもあった。

 

 「すげー! うまそ〜!」


 勝志も知らなかったらしく、驚いている。


 「驚くのも無理ないわよね。あなたの誕生日は明日だもの」


 「う、うん……何で?」


 真に院長が説明する。


 「()()()()()()()と思うけど、この島は今、大変な事になっているの。多分、明日は忙しくなるわ。だから、今日中にお祝いを。……という事になったの」

 

 「さぁ、真。誕生日席へどうぞ!」


 職員の一人に促され、真は席に着いた。

 ロウソクの火を吹き消した後、みんなが「誕生日おめでとう!」と言い、ハッピーバースデーなど歌い出すと、流石に照れた。

 

 「勝志、食べすぎだぞ! 今日は真のパーティなんだぜ」


 「頭使ったから腹減ってよー」


 「いいよ、ビット。僕一人じゃ食べきれない」


 勝志と違い、遠慮を知っている弟分のビットに、真はおかわりを譲った。

 勝志は、子供達に相当ナメられており―


 「勝志が頭を使ったの? うそだぁ〜本も読めないのに」


 「サッカーのルールも知らないんだよ」


 「お金の計算も出来ないよ」


 ―とに口々に駄目出しされていた。


 「真は何でも出来るよ」


 「勉強しないのに、宿題出来るんだぜ」


 「木で何でも作れるんだ。森にある家も真が作ったんだ」

 

 子供達は、真を尊敬していた。黙っていれば、大人っぽく映るのだろう。

 問題児の自分を、年下の子達がそんな風に見ている。真には意外だった。

 

 「けど、もう十五とはね。大きくなったわ」


 院長がしみじみ言う。国際連合加盟の国の成人年齢は、十五歳となっている為だ。


 「本当に十五なのかは、分からないけどね」


 真が言った。真の産まれた日は、院長も含め、誰も知らなかった。

 真は昔、院長から聞いた、自分が孤児院に引き取られた経緯を思い出す。

 幻獣戦争の頃、アマリ島を含むカーネル諸島は、幻獣軍に占拠されていた。それにより、当時の島民は島外への避難を余儀なくされたのだが、その際、戦火に巻き込まれ、親を失った子供達を、院長が引き受けたらしい。

 戦争が集結する頃になると、幻獣はカーネル諸島から退去したのだが、その時、島民達は疎開先で貧く暮らすくらいならと、故郷の島へ戻る事を決断した。そして、院長も子供達を連れて、帰島する事を決めたのだという。

 真は丁度、島へ戻るいう日に、疎開先の地域で起こった幻獣の残党軍との戦いで、保護された子供だった。院長は、これも何かの縁と思い、当時二歳になるくらいの真を引き取って、島へ戻った。

 その日が、八月十五日だったとの事だ。


 「本当の誕生日は分かないけれど、明日であなたがここへやってきて、間違いなく十三年の月日が経つわ。それだけ生きてきた証を持つの。明日は……確かな記念日なのよ」


 院長がそう言い切るので、真はもう何も言わなかった。

 

 ――――――――――――――――――――――


 今更ながら真は、自分が周囲の人間から、思いの外、慕われている事に気付いた。小さなこの島から出て行く事ばかりを考えていたので、見落としていのだ。

 部屋に戻った真は、それ故にかなり後ろめたい気持ちになった。暗くなれば抜け出すのが容易だからだ。誕生祝いをしてもらった手前、また問題行動を起こすのは院長に申し訳なかった。

 結局、真は「ウィーグルの安全を確認したら直ぐに戻る」と心に決めて、サンゴの家を後にした。


 森には、新たに軍の警備が敷かれていた。しかし、逆にその先にはまだ、ウィーグルがいる事を示している。真は見張りの軍人達を、大きく迂回して避け、ウィーグルがいそうな場所を探した。

 

 「真。こっちだ」


 茂みの向こうから、確かに声がした。

 真が覗くと、池から海へと流れる小さな川の側に、ウィーグルがいた。特別変わった様子はない。

 ウィーグルは、池の側から離れるなと忠告されているだけで、揉め事には至っていないらしく、真は安堵した。

 川のせせらぎが、二人の会話を掻き消した。

 真は、ウィーグルに聞きたい事が山程あったが、取り敢えず一つだけ質問した。


 「ウィーグル。君はどうしてこの島へ来たの?」


 「そうだな……」


 ウィーグルが確かに微笑んだ。


 「君に興味があったからだ」

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