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三十五話 華国青龍地方の戦い㊀

 遂にアスラが万里(ばんり)へ向かって進軍を開始した。偵察部隊がそれを発見し報告が齎されると、砦は一気に緊迫した空気に包まれた。

 (しん)勝志(かつし)がいる白兎(びゃくと)隊の守備位置にも、部隊と共に最初に敵軍を確認したアヤメが、息を切らしながら神足(シンソク)で戻って来た。アヤメは着物が乱れて、胸に巻いたサラシが覗いてしまっていたが、そんな事には構わず皆に報告する。


 「敵の数は五十を越えてる! それに……ヴリトラを確認した!」


 「くっ、遂に出て来たか!」


 アヤメは、隼人やその場にいた者に、目撃した事の詳細を神託(シンタク)で伝えた。

 アスラは、万里へ入る南東の道を、特別、身を隠す様子もなく堂々と進軍していた。不気味な姿をした者が多い幻獣の隊列は、百鬼夜行を思わせ、背筋を凍らせる。

 幻獣達は、血に飢え、戦いへ向かう興奮に満ちている。その中央に、身体に金や宝石を纏った黒い幻獣が、巨蜘蛛の幻獣の上に乗っていた。まるで、輿に乗った権力者のように振る舞うその幻獣こそ、敵の君主ヴリトラのようだ。

 真と勝志は、実際にその場にいるかのように敵を視て、行進の地鳴りを聴き、圧迫感を感じた。卓越した神託(シンタク)は、見聞きした事、感じた事を、言葉以上に正確に伝えられる。


 「分かった、ご苦労。直ぐに司令部と話す」


 「……このまま南東から攻めて来る気でしょうか?」


 「いや、まだ分からない。だが、決戦を仕掛けて来るのは間違いないだろう……!」


 隼人は、緊張した様子のりぼんの質問に、冷静に答えたが、その声も少し上擦っていた。

 万里を守る全軍は、砦の防衛を万全にして戦闘体制を整えた。やがて、砦から目視できる距離にアスラ軍が姿を見せる。しかし、彼らは直接、砦には来ず、直前で南にある小さな山へと向かい、その中腹を陣取った。

 小山は、千里山(せんりさん)と言う名前で、アスラは丁度、砦と同じくらいの高さに布陣した。目と鼻の先に幻獣の大軍が並び、万里の兵士達の間に、緊張と動揺が広がった。


 「攻めて来い、って言ってんのか?」


 「まさか……わざわざ砦から出て戦う必要はない……っ」


 敵軍の行動に不審がるベンだが、隼人の言う通り、此方から攻めるメリットは全くなかった。

 砦の有無は、幻獣には余り関係がないが、兵士達にとっては、足場の悪い小山に攻め込むより、遥かに戦いやすい。敵を視認しやすく、銃に加え、設置された砲台も使え、連絡、連携も円滑に出来る。幽玄者もそれで援護を受けられ、負傷した際にも直ぐに退避する事が可能だった。


 「突破されたら、一巻の終わりだがな……」


 問題はベンが言うように、砦を越えればそこは、数万人が住む街が広がっている点だ。生憎、街中にはシャルターの類いがない。

 りぼんが言う。


 「万里の人達は長城の守りに自信があるみたいです。敵に一度も破られた事はないと……」


 「それは人間同士の(いくさ)の話だろ?」


 ベンが言うが、隼人は軍の司令官、清林組(せいりんぐみ)と話し合い、砦で戦う事を決める。


 「敵は砦の突破が困難と分かっているからこそ、攻めて来ないんだ。此方から打って出る必要はない。皆、同じ判断だ……!」

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