三十三話 込められた想い㊂
真と勝志がアキナ島で知り合った少女ラーラ・グレイスは、政治家である父ゼフィール・グレイスと、ガリア国の首都にある自宅で暮らしている。
今日もラーラは、お嬢様学校での一日が終わり、広い敷地内にある豪邸の、豪華な玄関先まで、車で送迎され帰宅した。
車から降りると、家に仕えている執事が「お帰りなさいませ。お嬢様」と恭しく出迎える。そんな格式高い家柄に反し、お転婆なラーラは、運転手にフレンドリーにお礼を言うと、執事に人懐っこく駆け寄った。
「ただいま、セバス。パパは?」
「お父様は本日のご予定では、夕食にはお戻りになります」
「本当? じゃ、わたし一緒に食べるからね!」
ラーラは、執事セバスチャンに促され、館に入ろうとした。しかし、途中で花壇の花が気になり、鞄を預けて庭園へ向かった。
「金木犀がまた咲いてる! 今年は三度目だよ!」
成長期で、着ている制服のサイズが小さく見えるラーラだが、中身は興味を惹かれた方へ気ままに向う、子供のようだ。花々を愛で、水をあげたかと思えば、蝶を追い掛け、垣根にスカートを引っ掛けている。ようやく館に入る頃には、ピンクの髪に、花びらがいっぱい付いていた。
玄関に入っても、使用人が高いホールに掛かるシャンデリアの電球を取り替えようとしているのを見て、ラーラは「わたしがやる!」と言い出した。
「お嬢様、お構いなく。そんな事はワタクシめがやりますので」
危なっかしい木の梯子を用意していた使用人の小男が、過剰にヘコヘコしながら言った。
「ううん。任せて!」
そう言うと、ラーラは梯子には乗らず、近くの掃除用具入れから竹箒を持ってきた。
「やれやれ。また、お父様に叱られますよ」
「お願いだから、パパにはナイショにしてよ」
ラーラは箒に跨り、太ももに挟むと、ふわりと浮いた。そして、神足でシャンデリアまで飛んで行き、切れた電球を取り替える。
別に飛ぶのに箒は不用だが、下からパンツが見えないようにできるし、魔女っぽく見えて可愛いからと、ラーラが子供の頃に考えたやり方だ。
「ボレア。もう直ぐ誕生日だね。お祝いするからね?」
華麗に着地したラーラが、使用人に言った。
「わざわざワタクシめの為に? もったいない限りです」
「そんなことないよ? みんな毎年やるんだから!」
ラーラは、執事やメイド、使用人の誕生日を必ず祝っている。ボレアと呼ばれた使用人は、仕えてもう五年になるのだが、今回も身に余る誉れ言うように感謝していた。
「ありがとうございます。お嬢様」
館に仕えている者達にとって、ラーラは皆の娘のような存在であった。彼女が幽玄者である事も全員が知っていたが、誰一人、秘密を口外する者はいなかった。
そんな環境だが、それでもラーラは幽世の力を使う事を、家でも禁止されている。
しかし、アキナ島から戻って来たラーラは、何処ぞの少年達から悪い影響を受けてしまい、以前に増して箍が外れ、こっそり力を使っているのであった。




