三十二話 込められた想い㊁
真は、鞘の代わりに、鎖をグルグルに巻き付けた叢雲を、無造作に置くと、高い見張り台の縁に腰掛けた。
ファーが届けてくれた物は、竜胆館に届いた手紙だった。
「今の……悪くねぇな」
勝志は何か思う事があったのか、慌しく持ち場に戻っていくファーのお尻を見送りながら、呟いた。
隊士宛の郵便は、届けられるなら翠達が前線へ送ってくれる。手紙は三通あり、全て女性からだ。ガイやりぼんに見られていたら、きっと茶化されただろう。
「何が書いてあるんだ?」
「自分で読みなよ」
真は、隣りに座った勝志に、適当に一通渡した。勝志は手紙を受け取ると、文字列を見て目を細めた。
真が最初に開けた手紙は、優等生が書くような綺麗な筆跡で、アマリ島の孤児院―サンゴの家で、姉のような存在だったリズからだった。
リズは、未だに真と勝志を許していないようだ。
――真、勝志、元気にしてますか? 元気なら手紙くらいよこしなさい。幻獣戦闘組織なんかに入って、院長があなた達をどれだけ心配しているかわからないでしょう? 今思えばアキナ島から避難する時、あなた達を一緒に連れてくるべきでした。大体、あなた達は小さい頃から勝手に冒険に出たり、人の着替えを覗いたり―
真は、くどくど続く説教に嫌気が差し、途中で読むのを止め、手紙を見張り台の下、砦の外に捨てた。
二通目は、少し字に可愛らしさがある手紙で、真と勝志のクラスメイト、カレンからだった。幼馴染のような存在だったとはいえ、カレンが手紙をくれるのは初めてで、真は意外に思った。
――真、勝志へ。お元気ですか? わたしは元気です。わたしは今、大和の筑紫にいます。避難先での生活にはようやく慣れてきたのですが、最近お父さんがこちらで漁を始めてとても心配です。あの日、二人が避難船からいなくなってしまった時は、とてもびっくりしました。船内はてんやわんやで―
内容は、真と勝志が船から消えた後から、避難先での生活、サンゴの家の子供達の現状についてなど、リズより余程近況が分かるものになっていた。
しかし、何故そんな事をわざわざ事細かに書いて寄越したのか、真には不明だった。真は、何だかこっちが苦労させているような後ろめたさを感じ、これも途中で読むのを止めた。唯、手紙は捨てず、勝志に渡した手紙と交換する。
最後の一通は、アキナ島で知り合った少女、ラーラからだった。ラーラは、華国がある大陸の遥か西にある国、ガリアにいる為、この手紙は随分長旅をして来た事になる。子供っぽい性格の娘だが、家柄が良い所為か、意外にもしっかりとした字を書いている。
――真、勝志、元気ですか? ラーラだよ。わたしとパパは無事にガリアに戻ったよ。二人は幻獣と戦う組織に入って大変だと思うけど、ガリアは幻獣の攻撃を受けていないから、わたしはいつも通り学校に通っているの。高校では考古学を専攻したいので、今は勉強を頑張っているよ。
お家で育てている花を、押し花にして同封した。……と書かれていたので、真は封筒を確認したが、花は見当たらない。
「勝志、何か入ってなかった?」
真は、カレンの手紙を逆さで読んでいる勝志に聞いた。
「ん? そういえば何かあったけど、ひっくり返した時にヒラヒラって……食いもんじゃなかったなぁ」
真は、勝志が見下ろした砦の下に広がる藪を、虚しく見つめた。




