三十一話 込められた想い㊀
真と勝志は、万里を囲う砦、長城の守備に戻った。相変わらず敵の姿は見えないが、厳戒態勢は続いている。
真は見張り台で、手に入れた宝剣、叢雲を構える。力強く降ったり、クルクル回したり、戦闘に備え、手足の如く扱えるよう鍛練した。
叢雲は、片手でも両手でも扱いやすいサイズと重量をしている。多少無茶をしても、曲がったり、刃こぼれしない頑丈さもあり、真にはピッタリのものだった。
「いい剣だ。でも……何だか石みたいだ」
幽世に入らずに見る叢雲の姿は、そっけなく地味で、石刀のようであった。しかも、この状態での切れ味は、ナマクラ以下で、道連れを使うことで漸く真価を発揮した。
真は、懐いていない飼い主には従わない犬のような性質を感じた。まるで、剣が優れた幽玄者を見極め、使い手を選んでいるかのようだった。
「俺のデストロイヤーも、石みてーなんだよな」
真の愚痴を聞いた勝志も、貰った防具を身に付けて、シャドーボクシングをしていたが、首を捻った。
「それは本当に石らしいよ」
「マジ!?」
真は勝志に、超がコッソリ言っていた事を教えてあげた。防具は、特別な物を使うより、使い捨てられる物を使うべきらしい。
真は、別に叢雲に懐いて貰おうとは思わず、小太刀に付けていた鎖を外し、此方に接続した。元々、柄尻には紙垂か何かが付けられるようになっていて、名残りの紙を千切ってそこへ繋ぐ。こうする事で、万が一取り落としても、道連れ使わず引き戻せる上に、何となく言う事を聞かせられる気がした。
そんな剣だか、今の真にとっては大切な事を教えくれた。叢雲を使い熟すには、真が優れた幽玄者でなければならない、という事だ。
道連れを怠らず、己の全力を示す。幻獣カルキノスを後退させた氣弾。あれを放った時のポテンシャルを、常に引き出せれば理想的だ。
幽世の事を知る以前の真は、自ら危険に飛び込み、危機的状況で発揮される、自分の底力に頼っていた。しかし、幽玄者となった今は、その底力を、自らの意思で引き出さなければならない。
叢雲は、それが出来て初めて真に従う。真は、そう思っていた。
「あっ、真君、勝志君、いたいた! うわっ!」
真が剣を仕舞おうとしていると、清林組のファーが、神足で勢い良く見張り台にやって来た。気付いた真は道を開けたが、おっちょこちょいの彼女は減速し損ね、迂闊な勝志と衝突した。
「アイヤー……ごめん。大丈夫?」
「おし……おれは平気だ」
勝志を尻に敷いてしまったファーは、顔を赤くして慌てて立ち上がった。空蝉を使わず、一方的に衝撃を受けた勝志は、紳士的ではあったが、幽玄者同士で衝突事故を起こすのは、この組み合わせくらいだろうと真は思った。
別の守備位置にいるファーが、わざわざ訪れるとは何事かと思われたが、彼女はぶつかった際に落とした封筒を拾い、二人に手渡した。
「これ。二人にお届け物!」