二十九話 黄竜山㊂
自然界から通じる幽世の空間である霊峰、黄竜山。その頂に眠る宝剣に、真は辿り着いた。
宝剣は、打刀程のサイズで、持ち手と刃が一体の造りになっている、両刃の剣だった。月明かりを反射して、美しく煌めいているが、意外にも鈍色の見た目は、宝と言うには地味な印象だ。
真は、凍て付いた岩塊に突き刺さるこの剣を前に、落ち着きのない子供のように右往左往した。常識が通用しないこの山で、一番やっかいなのは、如何やらこの剣ようだ。
一見すると、刺さっている岩と見分けが付かないこの剣は、本当に岩の一部のようにビクともしなかった。腕力では勿論、空蝉で圧を加えても動かない。まるで、巨大なこの山と一体化しているようで、剣を引き抜こうとすると、山自体を引っ張っているような感覚を、真に与えた。
――さて、どうするか?
見付けた宝が持って帰れないからといって、諦める真ではない。
真は、こういう時の為に瞑想や坐禅を習ったのではないかと思い出し、剣の前で腰を据えて考える事にした。
色々と思案をした真は、勝志が大和から持ってきた刀、勇気の剣を失ってしまった時の事を思い出した。あの時、勝志は、岩に刺さった刀を強引に空蝉で引っ張り、破壊してしまったのだ。刀に道連れさえ使っていれば、そんな事にはならなかっただろう。
道連れ。自分以外のモノを幽世に、自分の領域に引き込む力。これさえ使えば、剣が岩の干渉を受けず引き抜ける。真は解決策を発見した。
しかし、問題は、勝志の時と今回とでは、岩が自然界のモノではなく、既に幽世にある事だった。これは、幻獣や幽玄者が持っている(道連れにしている)武器を、奪い取るような形となる。
――やってやろうじゃん……!
真は立ち上がり、剣に改めて向き合う。両手を掛けると、巨大な敵、黄竜山、全体のエネルギーが伝わってくるようだった。
――負けるかよ……!
真は深く幽世に入り、剣を道連れで、自分の魂の領域に引き込もうとする。剣はビクともなかったが、抵抗するように重さを増したように思えた。
真には反対に、それが手応えとなった。
「ぐっ!」
――来い!
真が更に深く幽世に入る。ここへ来るまでで、それなりに疲労してはいたが、後先帰り見ず、彼は全霊を賭けた。
この剣の真価が、どれほどのものか分からないが、手に入れた時の自信や高揚が自分を強くすると、真は信じていた。
格上の幻獣に負けない力が欲しい。あの惨虐なアスラの幻獣達に、幽世の真の主が誰であるかを分からせる必要がある。
この世界で勝つのは自分だ。
――愉しむのは僕だ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」
真の黄色い双眸が、星の光と同じ輝きを放つ。
剣が確かに岩塊から外れた。
――――――――――――――――――――――
万里に程近い山脈の麓で、勝志と超が組手をしている。そこへ、晴れ渡った空を背景に聳える黄竜山から、真が戻ってきた。
「あっ、真じゃねぇか! お宝は!?」
勝志が威勢よく声を掛けた。
真は手に入れた剣を、誇らしげに掲げて見せた。