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二十話 ガイと十兵衛㊀

 新暦186年、秋。第一次幻獣戦争が終結して、約一年後。かつて、白兎(びゃくと)隊と女中達が出入りしていた竜胆館(りんどうかん)は、残された二人の遺児が暮らす、寂しい館になっていた。

 そんな竜胆館に、戦争を生き延びた後、暫く旅に出ていた隊士サノヲ・タケルが、新たな隊長となる許可を得て、帰還した。

 青年のサノヲは、着物を着れば書生のような雰囲気なのだが、今は長旅を感じさせる草臥れたワイシャツとスラックス姿だった。

 サノヲが館へ上がると、竜胆館の持ち主、(みなもと)家の遺児、(すい)の出迎えを受けた。


 「お帰りなさいませ。タケルさん」


 「ああ、ただいま」


 サノヲは、活気がなくなった館を残念に思いながら、部屋を見渡した。そこへ、存在をアピールするかのように、奥から猫のイケ丸が現れたので、彼は少し微笑んだ。


 「君達だけで大変だっだろう? 何人か残ってくれるかと思っていたんだが……」


 「いえ……ご心配には及びません。……でも、もう少し早くお帰りになられると思っていましたのに……。十兵衛が……ずっと貴方を待っていたんですよ」


 まだ中学生なのに、立派に着物を着こなし、やたらと丁寧な言葉使いをする翠。早熟な彼女は、胸の膨らみも子供とは思えない程立派だが、あどけない表情と言葉の端に、少女らしい感情が垣間見えた。

 

 「それに……あの子はどこから……?」


 「すまん。俺もしがらみから離れて、色々、見ておきたいものがあったんだ。十兵衛の修行を始めるのが遅れてしまったのは悪かったが、隊を再溝させるには他にも幽玄者(ゆうげんしゃ)が欲しい。これから世話を掛けると思うがよろしく頼む」


 サノヲはそう言って、翠を安心させるように笑った。

 待ち焦がれていた再会を果たせた翠は、子供っぽい笑顔を見せた。

 

 隊長となったサノヲは、白兎隊再溝の為に、幽玄者の少年一人を連れて帰って来た。

 少年は、ガイ・インティという名前で、丁度、翠の弟で幽玄者の十兵衛と同い年だ。

 ガイは、どうやら戦災孤児らしく、汚れたボロボロの服を着ていた。背はそれほど低くくはないが、かなり痩せてしまっている。細い腕には痛々しく見える奇妙な形の刺青が、左肩の辺りから絡み付くように彫られていた。

 余程、過酷な環境にいたのであろう少年の瞳は、どこか他人を信じない暗さがあった。それでもサノヲは、有事の為に未成年二人の訓練を前倒しで始めると決める。

 新たな白兎隊が、サノヲ、十兵衛、ガイの三人で結成された。

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