十六話 ミーゴの策㊀
首都への避難を目指していた地方の住民達は、道中を軍と清林組に護衛されていた。しかし、この隊列が、南東から万里へ入る道の途中で、幻獣軍アスラの奇襲を受けた。
敵襲に逸早く気付いた清林組が、即座に迎撃に動いた。しかし、アスラの攻撃は今までのものとは異なった。
「くそっ、待ち伏せか!?」
「こんな所で仕掛けて来るとは!」
小さな集落をゲリラ的に攻撃していたアスラ軍が、民間人がいるとはいえ、幽玄者が護衛に付いている場所を狙うのは初めてだった。加えて主力を投入し、その数は三十を下らない。
清林組は、隊列を守るようにしながら彼らを迎え撃ったが、押し込まれ、瞬く間に危機に瀕した。
安全な場所へ避難する筈だった地方の住民は、逆に窮地に足を運んだ格好となり、パニックに落ち入り、散り散りになって逃げ出した。
そんな人々を、アスラの幻獣は面白がって攻撃する。
「逃がさないわよ!」
女性語を発する毒々しい紫色をした蜘蛛幻獣が、粘着性の糸を放ち、木々の間に蜘蛛の巣を形成した。逃げ場を失った人々から悲鳴が上がる。
「いいぞ、アラ! たっぷり恐怖を味合わせてやれ!」
そこへ、鋏を血に染めたカルキノスが現れる。
「タダで殺すんじゃないわよ!」
「もちろん。恐怖と苦痛で踠き苦しむニンゲンを見るのが、オレの趣味だからな!」
アラと呼ばれた蜘蛛幻獣が捕らえた人々を、美味そうな目で見ながら、カルキノスがニヤニヤしている。
「一人ずつ、手足を斬っていくんだ。愉しいぞ〜!」
「そんな事させない!」
そこへ、女性の声と共に、二枚の回転する鉄扇が飛来する。アラは飛び蜘蛛のように跳ねて躱し、カルキノスは硬い鋏を振ってそれを防いだ。
二体の幻獣の前に、清林組の服に着替えたフォンが立ちはだかった。
「おおっ。コレは飛んで火に入るナンチャラってヤツか?」
カルキノスが、スリットスカートから伸びるフォンのスラリとした脚を見ながら、鋏をシャカシャカさせた。
「お嬢ちゃんイイ脚してるじゃねぇか? オ、レ、に、寄越せ……!」
「何よ! 気持ち悪!」
フォンが、カルキノスを汚らわしい物だというように、不快そうな表情で睨んだ。しかし、態度ほどの余裕はない。後ろの人々を守りながら二体の幻獣と戦うのは至難の業だ。
考える間もなく蜘蛛幻獣アラが、フォンに向かって粘着性の糸を放つ。
「くっ」
舞うように回転し躱したフォンだったが、ミニスカートがめくれ、セクシーなハイレグパンツが露わになってしまう。カルキノスがその隙を狙い、鋭い鋏を開こうとした。
――やばっ―
フォンに戦慄が走った。
しかし、上空から飛来した鎖が蛇のように鋏を巻き取り、カルキノスの攻撃は封じられた。
「ああ!?」
今度はカルキノスが不快そうな表情をした。
直後、鎖を伝うように持ち主が飛来し、抜き放った刀で幻獣の甲殻を斬り付けた。




