十二話 罠㊀
幽世の力、空蝉、森羅、神足 、神託、道連れは、通称、幽世の六道と呼ばれ、最後の一つに、奥儀とも呼べる力、業が存在する。
―業―は、肉体の技術である―技―とは違い、意志や感情で特殊な事象を発生させ、己や他者に、直接影響を与える事が出来る、正に魂の業と呼べるものであった。
卓越した能力を持つ幻獣や幽玄者のみが、この奥義を使え、ウィーグルの旋風や、グリムの鎌鼬がこれに当たる。白兎隊でも、ランジやガイ、十兵衛が、固有の業を修得していた。
真と勝志は、まだ、その域に達していないが、業の威力は、時に空蝉以上の破壊力となる。より強い幻獣に勝つ為、更に「必殺業が欲しい」という単純な少年心から、二人は是非、業を習得したいと思っていた。
そんな単純明確な少年達は、この力に長けている女性、清林組の畢美花を紹介され、彼女に指導を仰いだ。互いの任務の合間に訪ねると、彼女は清林寺で、小さな子供達の面倒を見ていた。
「なんだ? ここも孤児院か?」
「寺子屋も兼ねてるらしいよ」
勝志の疑問に真が答えた。
清林組の人達は皆、幼い頃に清林寺に預けられ、そこで成長する。美花も例外ではなく、同い年の美風とは、一緒に育った姉妹のような関係らしい。その為、真は、彼女もてっきりキツい性格なんだろと思っていた。
「わぁーコウ君、待って! ボールはお外で遊ぼうね! リィちゃん、それはパンダの絵? 上手、上手!」
赤紫色の髪をお団子ヘアーにした美花ことファーは、元気で明るい性格だった。
彼女は、任務中ではない為か、子供の相手をする為か、清林組の衣装ではなく洋服を着ていた。しかし、へそ出しコーデのお陰で、上下の服の間にフォンと同じ種類の下着が確認できる。
「あっ、白兎隊の新入り君? ちょっと待っててね!」
人当たりの良いファーは、子供達の面倒を見ている。……というより、遊ばれていた。業の指南を受けたいと言う真達を歓迎してくれたが、子供達にせがまれ、まとわりつかれ、お団子を引っ張られ「いたい、いたい」と、それどころでは無さそうだ。
「すげー、あの娘もGカップだぜ! 幽玄者って巨乳しかいねーのかな?」
勝志が、女子のバストサイズを当てる技を使い、感心している。
「はぁ? それはつまり、わたしが半人前って言いたいんですか?」
一緒に付いて来たりぼんが、不服そうな表情で勝志を睨んだ。今日の訓練は、同じく業の習得を志す彼女も参加する。
「いや、だってアヤメ姉さんはFカップだし! 翠さんは……! 着物って着痩せして測りづれーよな……」
りぼんの事を失念していた勝志は、苦しい言い訳をした。
「着痩せしてなくても、どーせわたしはAしかないよ! ……て、言うか翠さんは幽玄者じゃないから!」
「あー。い、色々間違えた」
拗ねるりぼんに、勝志は謝った。ちなみに翠の特大バストは、勝志の技を持ってしても測定不能だった。
紳士の勝志は、ファーと遊ぶ子供達が、彼女の胸を触ったり「カンチョー、カンチョー」とお尻を狙うのを見過ごせない。
「あっ、お前ら! そういうことはしちゃだめだぞ!」
嫉妬に駆られた勝志は、子供達を高い高いするように吊し上げ、ファーから引き離す。
「……まったく、もぉー」
りぼんはまだ剥れていたが、急に勝ち誇ったような表情を見せる。
「そういえばお二人は、まだ翠さんの秘密を知らないんですね?」
「可哀想に」と笑って、りぼんも勝志に続き、子供達の輪に加わった。
「業を習いに来たんだけど……」
子供の頃から歳下の相手をするのが苦手な真は、一人残り愚痴をこぼす。「翠の秘密とは何だろう?」と考えたが、清楚な彼女でも、実は私生活は淫らだとか、女将なのに料理が下手だとか、幾らでも考えられた。
真は子供の相手を勝志とりぼんに任せ、ファーの手が空くのを待った。