表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/178

九話 昴美風㊁

 (しん)勝志(かつし)清林組(せいりんぐみ)の女性は、森の中の、大きな切株が沢山ある開けた場所までやって来た。切株の一つには、畳まれた扇が二つ立て掛けられている。


 「あんた達、名前は?」


 ツインテールを揺らしながら振り返り、女性が聞いた。


 「真」


 「勝志だぜ!」


 「そ。あたしは昴美風(マオメイフォン)よ」


 「マオ、メイ、フォン?」


 「どれが名前だ?」


 「美風(メイフォン)! フォンでいいわ!」


 聞き返す真と勝志に、女性―フォンは、イライラしながら言った。

 フォンは、ピタッとした民族衣装を着ている為、セクシーな体型が明確だが、それをジロジロ見る青少年の指導を、嫌々、引き受けたのも、態度で明確だった。


 「話はまぁまぁ聞いてるけど……あんた達、まだ入隊して二ヶ月? 良く死なずに済んでるわねぇ」


 衣装のスリットの上、くびれた腰に手を当てながら、フォンが哀れんだ。

 幽玄者(ゆうげんしゃ)の訓練期間は、特殊な例を除き、大体、年齢引く十五なので、十八だと言うフォンは、二人より三年多く修行を積んでいる事になる。


 「でも、どーせ訓練してやっても、あんた達とあたしとの力の差は雲泥だし、普通にやってもつまらないわね……」


 実績を考えれば当然だろうが、フォンは、真と勝志をかなり見下していた。


 「……そうね。こうゆうのはどう? 鬼ごっこ」


 「鬼ごっこ?」 


 フォンの提案に、真と勝志は意外な顔をした。


 「ゲームよ。ゲーム。この森の中を逃げる私を捕まえられればあんた達の勝ち。捕まえられなかったら私の勝ち。簡単でいいでしょう?」


 フォンがルールを説明した。どうやら清林組では良くやる訓練のようだ。


 「捕まえるって言っても、ちゃんと相手を押さえ込まないと駄目よ。制限時間は次の見張りの時間まで。……まぁ、正直、あんた達が一生追い掛けても、私は捕まらないだろうけど……」


 「なるほど。分かりやすくて良いぜ!」


 勝志は賛成し、直ぐにでも追い掛ける姿勢を取った。鬼ごっこで、孤児院の仲間を捕まえられなかった事はない。


 「待った。これは幽世(カクリヨ)の訓練だから、相手への攻撃も有り。ただし、追う側の武器はなし。……なんだけど、あんた達ド素人だし……真だっけ? その鎖だけ使うの許可するわ」


 真達の武装を確認して、フォンはハンデをくれた。真は、鎖を小太刀から取り外し、後の武器は切株に置く。


 「で、私の武器もコレだけ―」


 フォンは、木に立て掛けてあった二つの扇を手に取り、一つをパッと広げた。

 派手なデザインの扇は、広げるとかなり大きい。金属製らしく、先端が鋭い刃物になっている。


 「孔雀(コンチェルト)。まぁ、大した武器じゃないし、ちゃんと加減はする……わ!」


 フォンは謙遜して、広げた鉄扇を投げた。

 孔雀(コンチェルト)は、回転しながら広場を飛び、ブーメランのように戻って来る。途中、()()()()木の一本を、新しい切り株に変えてしまう。


 「おおー!」


 見事な斬れ味の鉄扇を、()()()華麗にキャッチして見せたフォンに、勝志が歓声を上げた。


 「どう? 何か質問は?」


 フォンは勝ったも同然と言うように、したり顔で聞いた。


 「おれは()ぇぜ!」

 

 考える事はしない勝志は、アッサリ承諾する。一方、真は悪知恵を働かせる。

 ルールと態度から、フォンは余程神足(シンソク)に自信があるのだろう。彼女の神足(シンソク)が、こちらより速ければ、この広い森を延々と逃げられる。

 勝算があるとしたら、唯一の武器である鎖の使い所と、彼女が此方を見くびっている事にあるだろう。


 「いいよ。始めよう」


 真は承諾した。舐められているのなら、幾らでも油断させておけば良い。相手の実力を見てから作戦を立てても遅くはないだろう。

 フォンが、さっと近場の木の枝に飛び移る。ミニスカートの中を見せない、素早い動きだ。

 

 「あ、言い忘れてたけど、捕まえられなくて泣き出してもあんた達の負けだから。それじゃ、十数えられたら追ってきなさい!」


 そう二人を小馬鹿にし、昴美風は鬼ごっこを開始した。


 「楽勝だぜ、真!」


 「ああ。フォーメーションだ!」


 勝志と真は、その後を嬉々として追い掛けた。

 二人の最大の勝算は、逃げる相手を追い掛け回すのが好きな事にあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ