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二話 サンゴの家

 (しん)の計画は、呆気なく崩壊した。

 ウィーグルは、真を乗せて島を出るのはリスクが大きく、真の為にもならないと、断固拒否した。

 それは、確かに正論なのかもしれない。自分の考えが無謀である事くらい真も分かっていた。

 しかし、それだけでは無く、ウィーグルは今夜中に島を抜け出す事も拒否した。


 「どうして!? 夜の間に移動すれば、誰にも見付からずにこの海域出て、完全に行方を眩ませられるじゃんか」


 こちらに関しては、真が正論を言ったつもりだった。真は「実は、まだ足の怪我が飛行に支障を与える?」とも考えたが、ウィーグルの理由は違った。


 「私はここでやる事がある……。だから、まだここを離れる気はない」

 

 「やる事って何?」と聞いたが、ウィーグルが何も言わなかったので、真はますます懐疑的になった。この島に来て、五日は経つウィーグルだが、何か特別な事をやろうとしている様子が無かったからだ。

 

 ――まぁ好きにすればいいさ。


 日が暮れる頃、真は投げやりな気持ちで、もう夕食の事を考えている勝志(かつし)と共に、森から海沿いにある集落への帰路に就いた。

 最悪、島に軍隊が来ても、コソコソ森に潜むなり、慌てて飛んで逃げればいい。一度、彼らから逃れたウィーグルにとっては、その位の問題でしかないのかもしれない……。

 真はそう思った。


 船着場には、本日の漁を終えた漁師達が、各々、家へ帰る姿があった。

 そんな漁師達が暮らす集落の外れ、半分、森に隠れるような場所にある一軒の建物が、真と勝志の家だ。

 ―サンゴの家―と呼ばれる、小さな孤児院である。

 真と勝志は、幼少の頃、身寄りが無くなり、それぞれこの孤児院に引き取られた。サンゴの家は、そんな孤児達と、その面倒を見る職員達の家であった。


 「あっ、真と勝志だ! 今日は帰ってきた!」

 

 「おかえりなさい!」


 二人が帰宅すると、小さな子供達が出迎えた。

 サンゴの家では、十五歳になって中学を卒業すると、独り立ちとなる。その為、三年生である真と勝志は、今いる孤児の中では一番の年長だ。

 早速、勝志が、年少の子達を抱え上げて、遊び相手になってあげている。一方、真は、他の孤児に構わず、さっさと家に入った。

 

 「真、もういいの?」


 「うん。おやすみなさい」


 夕食の後、院長が声を掛けたが、真は何時も通り、他の子供達の面倒や家の手伝いはせず、与えられている部屋へ引き上げた。

 真の態度を、快く思っていない職員もいた。もっとも、勝手に森や海へ出掛け、何日も無断で帰らない事もあるなど、真の行いを問題視するのは、当然ではあった。

 しかし、この年配の女性院長だけは、それなりに真の考えを尊重してくれた。

 

 真は、二階のベッドに仰向けになった。下のリビングから、子供達の笑い声が聞こえてくる。どうやら勝志が、何か面白い事をしているようだ。

 真の部屋には、荷造りされた大きなリュックがあった。それ以外は、新聞や雑誌の切れ端がやたらと散乱している。

 殆どが、幻獣に関する記事だ。

 幼い頃から、真がもっとも興味を惹かれたモノ。それが幻獣であった。彼らが起こした事件や生息域の情報を知る為、()()()()()()()()()多くの資料を集め、ファイリングしてある。

 そこから分かるのは、幻獣は人に畏怖され、存在を受け入れられていない、という事だった。

 それはどこか、孤児ではみ出し者の自分と、通じる部分がある。

 真は、そう感じているのかもしれない。

 真は、この島を出て行きたかった。アマリ島の子供達は、中学校を卒業すると大概、漁師か船大工になる。勝志は、腕力があるから大工になろうか、魚が食べ放題の漁師になろうか、と真に相談した事があるが、真はどちらにも興味がなかった。

 真は「幻獣が空を飛んでいる、この広い世界を、もっと見てみたい……!」

 そう常に思っていた。

 

 「折角の機会なのに……」


 真は無念に思うと同時に、ウィーグルに腹が立ってきた。

 あの幻獣は、つくづく何を考えているのか分からない。せめて、理由くらい話してくれてもいいのではないだろうか?

 

 「ここでやる事があるだって?」


 この島まで連れて来てあげたのは、誰だと思っているんだ? 感謝くらいして欲しいものだ。と真は思った。

 今日は馬鹿なハンターだった為、苦労せず追い払う事ができた。しかし、今度は軍隊。子供騙しは通用しないだろう。


 夜が更けて、下の部屋の騒がしさが小さくなっていく。家がある職員が帰り、院長や子供達も、それぞれの部屋へ向かったのだろう。

 やがて隣の部屋から、勝志のいびきが聞こえてきた頃、真はベッドから起き上がった。

 やはり、ウィーグルの事が気になった。何を考えているか分からないウィーグルだが、真は一つだけ確信を持っている事があった。

 ウィーグルは、人と争いを起こす幻獣では無い。という事だ。性格は決して素直ではないが、島に居させても安全だと判断できる、穏やかな奴だ。

 律儀に毎日、顔を出し、大人しく木の枝の上で過ごす。魚をくれて感謝も示す。勝志がヤシの実を取ろうとし、高い木から転落した時(それ事態は、よくある事だったが)嘴でキャッチし、助けてくれた事もあった。

 真達には嘘を付き、こっそり島を出るつもりなら、それはそれで構わないが、危険が迫っているのに留まり続けるのは、流石に呑気と言うしかない。


 「……」


 幾ら寛大な院長の下でも、夜中に勝手に出掛けるのは、禁止だ。しかし、真がルールを破るのは、これまた何時も通りだった。

 真は窓から外へ抜け出す、何時ものルートを使う。

 ふと、今夜、持っていく予定だったリュックに目が止まったが、見切りを付けるように屋根へ出て、近くの木に乗り移り、そのまま森へと入って行った。

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