五話 六幻卿㊀
華国の首都、万里は、起伏の富んだ地形に古風な建物が並ぶ、雅な都市だ。
最大の特徴は、街をグルリと囲むように築かれた、長城と呼ばれる砦だろう。この砦は、遥か昔、戦の際に造られた物で、修繕しつつ、現在も首都の守りとして機能している。
「オイ、十兵衛。何体だ? オレは三体殺ったぜ」
「ふん。俺も三体だが……お前の最後の獲物は美風の手柄だろ?」
「ああ? 仕留めたのはオレだ!」
張り合うガイと十兵衛を含む、先行隊の八人は、清林組の面々と共に砦を潜った。
清林組の総人数は、白兎隊よりやや少ない。双方は、何度か合同で任務に当たったり、訓練をした事がある仲らしい。その為、知り合いの居る者は、親しそうに挨拶を交わしていた。
「すげぇ格好だよな。……パンツ履いてんのかな?」
戦闘で命拾いした勝志だったが、その事は既に忘れ、今度は清林組の女子の服装に興味津々だった。
疑問は、もっともな所もあり、彼女達のミニスカートはスリットが腰の高さまで切れ込んでいるにも関わらず、その隙間から、下着と思われる布、或いは紐が見えないのであった。
新米で知人がいない真と勝志であったが、勝志は「もう友達だ」と言わんばかりに、命の恩人であるツインテールの女性に話し掛けたが、女性は勝志が近づくと、険悪な表情で睨み付け「ふんっ」とそっぽを向いて去って行った。
隣にいた真は、思わず言った。
「友達はできそうにないね」
白兎隊は、持ち場に戻る清林組と別れ、万里にある清林組の拠点、清林寺に入った。ここは名前の通りお寺であり、広い境内に彼ら住居や訓練施設がある。
「敵はあれだけじゃないんですよね? 僕らも砦の守りに就くんですか?」
「まぁ、そいつをこれから話し合う。その前にこっちの長に挨拶だ。気を付けろ? かなり偏屈な爺さんだからな」
任務に逸る真を制するように、ベンが言った。
「よう、孫。ジジイはまだ生きてるか?」
ガイが、出迎えた清林組の組長、孫に、親しげに挨拶した。
「超師範を愚弄するな!」
それに対し、こちらも友達ではないのか、ツルツル頭の孫は怒りで顔を赤くした。
八人が道場らしき建物に入ると、仙人を絵に描いたような老人が待っていた。彼は清林組の師範で、この地で何十年と幽世の力の修行を積んでいる人物らしい。
師範―超は、わざわざ挨拶に来た八人に対し、これまた不機嫌な態度を見せ、ガイが渡した、サノヲからの書状には憤慨した。
「フン! タケルも偉くなったものだ。援軍なんぞ寄越しおって。わしらが苦戦しとるとでも思っとるのか?」
見栄っ張りの超に、彼を知る者達は「やれやれ、またか」という仕草した。
真は、書状の内容を知らなかったが、新入りの自分達の事も書かれているらしく、読んでいる超が、此方を睨む場面があった。
「それに何じゃコレは!? 自分達が手柄を取ろうとしておるな!」
超が、書状の一文を指で叩きながら言った。
「あ、俺ら中身見てないんで」
「何ぃー、まったく若造は! これだから駄目だ!」
雑なガイの返答に、超は、益々、憤慨し、関係のない説教を始めた。
「そもそも若者は年寄りへの尊敬が足りん! 先の戦争で戦ったのは白兎隊だけではないぞ! わしもおった。……今を生きる幽玄者の中で儂が一番、長生きじゃ。つまり……わしが……わしが一番、エライんじゃー!!」
「すまない。師範は幻獣の度重なる襲撃で、ストレスが溜まっているのだ」
「え? 何時もあんなんだろ?」
「元気そうで何よりだ」
別室に移動する際、謝意を示した孫に、ガイと十兵衛が言った。
横暴な超は、大和の手土産と言ってガイが渡した、黄金色の菓子が入っていそうな箱を受け取り、機嫌を直した。
その時、真は、蓋を僅かに開け、中身を覗いた超の口元が、明らかに緩んだのを見逃さなかった。