表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/183

エピローグ㊀

 「プロヴィデンスは(いくさ)に勝てないと知れば平然とその国を見捨てる。実際にガリアにいた彼らは、我らを見限り逃げ出した。戦争が長引けば、弱き者から切り捨てられ命を落とすのだ。私はその様な事は許容できない」


 艦内のラジオからは、オルディンの演説が流れている。ガリアの独立を、国内外に宣言する声明だ。


 「よってガリアは、戦争から一日でも早い脱却を目指し、国際連合から離脱する! どうかエウロパの他の国々も、戦争に我が子を送る前に! 自国が攻撃され家族を失う前に! 独立の意思を示してほしい! 私とガリアが、平和への架け橋となる事を約束しよう!」


 ラジオからは、演説を聞く民集の熱も伝わってくる。賛同の声が聞こえ、オルディンを讃えているようだった。

 オルディンは正体を隠したまま、人類勢力の分断を測っていた。


 「各国、駐在員を通して真実を伝えさせているが、奴が幻獣だと言えば、逆効果になると言う意見もある。彼らの話では、エウロパ諸国は何処も臨時議会を開いて独立の審議を始めているらしい。北部では既にガリアに賛同する動きもあるとか……」


 アベルはラジオを聞きながら、苦い表情で伝えた。

 白兎(びゃくと)隊は、辛くも追撃を振り切り港へ逃れた。待機していた清林(せいりん)組の二人(通称アルアルカップル)に、フォンが逸早く連絡を入れ、プロヴィデンスの艦隊は、速やかに出港しガリアを離れた。


 「一旦、ブリテンに行き、そちらの艦隊と合流して体勢を立て直す」


 アベルはそう言ったが、出港して数時間の間に集まるエウロパ内の状況は、良くないものばかりだった。人類の分断を避けるには、オルディンの幻獣軍を倒すしかないが、国際連合から離脱してしまった国では、軍事行動が制限されてしまう。


 「こんな敵の手に堕ちたような場所に何時までも留まっちゃいられねぇ……! 大和に帰ろぜ」


 ガイだった。生き残った隊士の中で、最も余力があるのは彼だ。しかし、仲間達を、着ている羽織り以上にボロボロにされ、苛立ちと焦燥を隠せなでいた。

 アベルは、ガイの提案を拒否した。


 「駄目だ。ガリア一つでエウロパ全土を見捨てる訳にはいかない。プロヴィデンスが各国政府に圧力を掛けて独立を阻止する。そうして、その国の軍と連携し―」


 「騎士団を見捨てた癖によく言うぜ。ヴァルハラからの最後の連絡が本当ならっ、敵の主力はそっちだぞ! そいつらまで出て来られたらオレ達はお仕舞なんだよ!」


 「騎士団は仕方がない……! ガサ入れが漏れていた時点で、彼らにスパイいたのは確実だ。連れて来る事はできなかった」


 アベルはイラ付いているガイに言った。

 撤退の最中に、ヴァルハラにいたエインヘリャル聖騎士団から齎された情報には感謝している。彼らのその後は不明だが、到底、助けには戻れない。


 「現状の戦力では、オルディンの軍に対抗できない旨は進言した。しかし、完全な撤退の有無は上が決める。それまではエウロパに残り、決戦に備える」


 「上に何が分かんだよ! 現場で戦う奴らの命なんざ毛程も気に掛けない連中だろ!」


 「ガイ……。作戦は一幻獣に対し、幽玄者最低一人。兵であれば百人以上の数充てがう計算の下で行われる。そうでなければ、作戦は立てられない。俺達が頼みにされるのは、文字通り百人力だからだ」


 「……」


 「これは裏を返せば、俺達の代わりに何千何万という犠牲を出す事はできない。白兎隊の……仲間の命だけを、優先する事はできないんだ」


 ガイは気に入らない。正論など彼が最も嫌いなものだった。


 「そうかよ! まぁ、テメェは一生大切なモノと赤の他人を、同じ一人として扱って生きていけ!! 結局、テメェは、プロヴィデンスの人間なんだからなぁ!!」


 ガイは捨て台詞を吐き、その場から去った。

 アベルにも、ガイの気持ちは充分に分かった。既に五名の隊士を失った。その中には自分の能力を買ってくれた、ディーンとイフリータも含まれている。

 そして、それを別と考えても、アベルはエウロパに残り、これ以上戦闘をするのは不可能だと判断していた。

 彼はガラス越しに見える病室の様子を覗いた。

 白兎隊は、完全に満身創痍だった。

 病室では、生き残った隊士が治療を受けていたが、十兵衛を始め、重体者が何人もいた。

 負傷していない者などいない。頭に包帯を巻かれたりぼんがベッドで目を覚ましたが、再び、戦闘ができるようになるまでは、相当な時間を要するだろう。アベルと共に難を逃れたシルフィーとノームも、腰を下ろしたまま身動き一つ取らなくなる程、消耗している。

 アベル自身もダメージを負った。ガイも平気な顔をしているが、相応に消耗している筈だ。


 「……」


 隊士で唯一、(しん)だけが清林組と共に艦を出て警戒に当たっていた。彼のダメージも相当なものだったが、自ら監視に名乗り出たのはアベルも驚いた。

 それでも、決戦となるのなら玉砕を覚悟しなくてはならない。


 「くそっ!」


 アベルが珍しく感情を露わにして、近くにあった机を叩いた。

 彼とて、感情を優先して動きたい時もある。

 しかし、自分達が逃げれば、その結果どれだけの人間が犠牲になるのかは、アベルにも想像が付かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ