八十八話 孤独の道㊃
勝志は瓦礫の中で意識を取り戻した。味方の撤退を知らせる神託が覚醒を促したのもあったが、近場で新たな幻獣の気配を感じた事も大きい。
「くそ……っ。ラーラは……!?」
飛び起きた勝志は、直ぐに幽世に入り、気配を探った。しかし、ラーラはおろか、ルーガルーの姿も既にない。何処かに去ったのだろうが、方向の検討すら付かなかった。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
勝志は、瓦礫を払い退けながら辺りを視回す。闇雲に探しても見付からない事など百も承知だが、感情を抑えられず、右往左往した。
――勝志っ! 何してるやがる!? 速く退け!!
ガイの神託が再び届いた。孤立したまま再び幻獣に遭遇すれば、今のダメージではとても戦えない。ラーラを探そうと迂闊な行動を取れば、敵に察知され一巻の終わりだ。
「くそぉお!!!」
勝志は、悔恨の念をぶつけるように、へし折れた右腕で行手を塞ぐ瓦礫を叩いた。
「グレイス嬢……!」
車内には、同じように沈んだ表情をした数人がいる。見知った顔はいなかったが、恐らくプロヴィデンス派の人間と、その家族と思われた。
ラーラは軍用トラックに乗せられ、監禁された。
何処へ連れていかれるのだろうか? とも思ったが、父親が殺され、幻獣の脅威を目の当たりにした心理的ダメージで思考が働かず、力尽きるように壁際に座り込む。
「うぅ……」
車内には、窓があった。しかし、格子が嵌められていて、扉を閉められると暗く、牢屋のようだ。
「……!」
その格子から差し込む、微かな光。それを見つめるラーラが、同じように微かだが、確かな気配を感じ取る。
「……真」
それ程、遠くない場所に真がいる。
幻獣と戦っているらしい。
――真……!
ラーラは、その光に希望を見た。
――助けて……真!!
真は戦っている。
強力な幻獣と渡り合う為、幽世に入り、殆ど彼らと変わらない殺伐とした気配になっているが、ラーラには分かる。
――真! 真!
真はラーラに気付かない。
ラーラが干渉できない領域へ進み、神託が届いていない。
――真っ……待って! ……真っ!!
真が遠ざかって行く。
ラーラの想いに気付かず、真は振り向く事なく敵を追い、より異次元へと歩んで行く。
――……。
格子から差し込む光が、薄らいでいった。
真は叢雲を投げ付けてトロールの腹に突き刺し、直ぐに鎖を引いて手元に戻すと袈裟斬りにする。続いて、猛進してきた猟犬幻獣を振り向き様に斬り裂いた。
「ぐっ!」
相打ちを貰ったが、構う事なく次の敵を迎え撃つ。
真は撤退しながらも、追い縋る幻獣を悉く返り討ちにした。血塗れになりながらも戦い、付き合わさる叢雲を引き摺りながらルテティアを離れる。その後には、幻獣の屍が累々とした。
「待っていろ……。ラウイン……!!」
更なる敵を求めて。更なる戦いを求めて。
あの幻獣のいる広い世界へ―
嘗てそう願った少年は、その頂きを目指し、孤独の道を歩み出した。




