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八十七話 孤独の道㊂

 降伏したエインヘリャル聖騎士団は、幻獣には見逃されたが、命令違反としてクーデター軍に拘束された。幻獣との戦闘で負傷した団員は病院に運ばれたが、団長ヒルデと、無事だった数名の女性団員が、司令部のあった建物に連行される。

 軍は、幽玄者である彼女達がこれ以上の戦闘行為、或いは独断行動ができないよう、武器と騎士団の証である制服の、プリーツスカートを没収した。かっちりした制服のままの上半身に対し、下半身を更に無防備な格好にされ、泣き出す()もいる。

 ヒルデは、果敢に戦った者に対してのこの辱めに、抗議しようとした。しかし、この場を任された軍人、スレイプニル司令官は、オルディンに軍の全権を与えられている。加えて、この体格の良い男に見下されると、ヒルデはどうしてだか、白馬の幻獣に蹴られた腹の痛みが増し、尻込みしてしまった。


 「ヘイタイさんの入れ知恵かしら? こんな格好じゃ何をしても決まりが悪いし……。余っ程ヒトの心理を理解していないと指示できないわよ……。ねぇ? お兄様」


 フレイヤは、疑いの目を向けられたユングヴィと共に、連行されるヒルデ達を遠巻きに伺っていた。彼女もユグドラシルのスパイの筈だが、何故か同じ様にスカートを取っ払い、Tバックを晒していた。


 「さぁ、誰でしょう? ……しかし、白兎(びゃくと)隊のお陰で予定にない犠牲者が出てしまいました。彼らと交わり団員に劣等感を与え、戦闘をさせない予定が、反対に焚き付けてしまったのでしょう」


 ユングヴィが言った。金髪が焦げ、顔に酷い火傷を負い疲れた様子だったが、ニッコリ笑顔は健在だ。


 「でも、オルディンはどうとも思っていない。あの方は計画でいくら()()が死のうと、どうでもいいのよ……!」


 フレイヤが、上司に不服を唱えた。


 「異端なのは私達なのですよフレイヤ。少しヒト社会に長居しすぎた。亡くした者の事を後悔しても仕方がありません。私も部下を失いました。しかし……所詮は仮初の仲間に過ぎない」


 「わ、私はっ……仮初の関係でいたつもりはないわ!」


 フレイヤは、決まりの悪い格好になど構わず、感情を露わにをする。流石のユングヴィも表情を変えた。

 二人は当然、実の兄妹ではない。互いに歪な面はあるものの、人に対し好意を持つ幻獣同士で、気が合った。故に、人間社会に潜り込んだ際、コンタクトを取り易くしただけだ。

 

 「だから伝えない気か? ヴァルハラの件を……」


 ルーガルーが、二人の側にふらりと現れた。


 「何の事です?」


 ユングヴィが聞く。フレイヤは嫌な予感がした。

 

 「トールの部隊がヴァルハラを占拠した。……が、彼方に残っている騎士団も抵抗する構えを見せている」


 「何ですって!? 戦闘禁止の命令がいっている筈よ!?」


 ルーガルーの言葉に、フレイヤは青ざめた。


 「くっ、勝志が無事に逃げたようだったから、安心しちゃったわ……っ!」


 「よしなさい! トールは騎士団が抵抗すれば容赦はしないでしょう! 割って入れば貴方も殺されます! 彼がそう言っていたでしょう!?」


 ユングヴィの静止を振り切り、フレイヤはヴァルハラに向かって飛び立った。その姿がオーロラを纏い、白鳥の幻獣に変わる。


 ――みんなを犠牲にしたくないのに……! 戦っては駄目よ……っ!!


 フレイヤ、ユングヴィ、スレイプニルは、ユグドラシルの中では人比較的、温厚な幻獣であった。それ故に、人社会に紛れる事ができたとも言える。

 一方、トール率いる部隊は、物事を単純な力で解決する事を好む。彼らがヴァルハラを別ルートで制圧するこの計画は、本来ならば騎士団抹殺を視野に入れていた。

 ユングヴィは、ヒトとの絆を持ちすぎた妹を、憐憫な眼差しで見送る。


 「余計な事を、ルーガルー。……しかし、哀れな子ですね。我々が騙していたと知れば、彼らはもう快く仲間と思ってはくれないでしょうに……」

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