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八十六話 孤独の道㊁

 ルテティアからの撤退を決定した白兎(びゃくと)隊は、プロヴィデンスの艦隊が配備されている軍港を目指した。

 一転して追撃してくる幻獣を、シルフィーがシールドショットで阻み、十兵衛が(ワザ)名残(なご)りを()()後退する。空間に残された、清水の(やいば)に突っ込んだ幻獣が両断される。


 「くっ、何故か身体がフラ付く……。それに今日は天気が悪いな……。随分、濃い霧だな……!」


 「バカヤロウ! そんな怪我してりゃ、おかしくなるに決まってるだろ!」


 フラフラしだした十兵衛は、ムシャから受けたダメージが祟り、遂に片膝を突いた。又三郎が引き摺るようにして、彼を引き下げる。

 

 「これ以上……好きにはさせません!!」


 代わってりぼんが、負傷している味方を襲おうとているドラゴン幻獣に、縁産魂(えんむすび)を巻き付けて阻止しようとした。

 しかし、これはスピードを補う(ワザ)の為、敵の動きは止まらない。それどころか、ドラゴンが襷を引っ張ると、反対にりぼんの身体が宙を舞った。

 

 「ちょっとっ………きゃああああああああっ!!」


 引き寄せられたりぼんを、鋭い牙がズラリと並んだドラゴンの口が、ボール補強するミットのように待ち構える。

 りぼんは、ギリギリで身体を捻って噛み砕かれるのを回避したが、牙が帯に食い込み、丁度、帯回しのように回転しながら転落した。

 

 「あっあ……」


 地面に投げ出されたりぼんは、勢いで着物が脱げ、無防備極まりない姿でノックアウトしてしまう。後輩に見られないようにか、或いは紳士なエインヘリャルの男性を気にして、ニップレスを着けていたのは、彼女にとっては不幸中の幸いだった。


 「しっかりしろっ! 皆、引け!! 引けー!!」


 ベンが、りぼんを俵担ぎにして回収する。

 犠牲を出しながらも、白兎隊は街を離れた。

 

 ――――――――――――――――――――――


 「オルディンっ! お前がクーデターの首謀者なのか!? 我々は何も聞かされていないぞ! 何故軍に攻撃命令を出さない!?」


 「既に連絡役が説明した通りだ。我々は幻獣軍に首都を奇襲された。勝ち目はない。それ故に幻獣側に停戦を要求した。少々、時間が掛かったが、エインヘリャルを使いコンタクトが取れた」


 議会室に現れるなり、政治家達が詰め寄って質問攻めにする。オルディンは嘘を交えながら、それに対応した。


 「ご安心を。クーデターは軍部の暴走で既に収束した。政府は直ちに幻獣との停戦交渉に臨んで欲しい。私が使者に立つ」


 オルディンは再び人の姿に戻っていた。この場にいる者で、彼が幻獣である事を知る者はいない。


 「幻獣側は停戦に条件を二つ出した。一つはガリアの武装解除。そして、もう一つは国際連合からの脱退……」


 「馬鹿な……事実上の降伏ではないかっ!」


 「呑めなければ無差別攻撃を厭わないそうだ。白兎隊は既に敗走した。……ご存じの通り、エインヘリャルの戦力では対抗できない」


 「ゼフィールはどうしたのだ!? この署名だけでは彼が脱退を納得したとは到底、思えん!」


 「生憎ですが、プロヴィデンス派の方々は大人しくして貰いたい。白兎隊が戦闘を行い幻獣側は激怒している。ゼフィール氏は犠牲を払わない選択を望んだ」


 議会は、疑心暗鬼に囚われた。事前に用意された公式文書に加え、軍部が初めから幻獣に対し攻撃を行わなかったので、マッチポンプを疑う者も居た。

 しかし、皆オルディンの提案が、事実上幻獣の脅しだと分かっている為、何も言えなかった。


 「要求はプロヴィデンスからの離脱なのでしょう? 良い機会ではないですか。我々は元々、独立を目指していた」


 政治家の一人が言った。独立派の議員だ。


 「ネックだったのは幻獣とどう戦争を続けるか? 降伏が許されるのなら、その問題もなくなる」


 「バケモノと対話するのは一筋縄ではいかなそうですが、我らの騎士団に期待しますか……」


 「独立が叶えば、この国がプロヴィデンスに搾取される時代も終わるのだ」


 オルディンはほくそ笑んだ。 

 近しい政治家の中には、今回の計画を事前に知らされている者もいた。彼らはオルディンを崇拝、尊敬、期待しているが、中にはお溢れに預かろという者、長いものに巻かれる者、出世に利用しようと企んでいる者もいた。

 しかし、オルディンは清濁問わず、彼らの心理を巧みに利用して派閥を築き、短い間でガリアの政治を思うがままにしてみせた。


 「では、幻獣側の要求を議会で正式に承諾する。宜しいですね」

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