八十五話 孤独の道㊀
オルディンの真の部隊、幻獣軍ユグドラシルが出現した事で、白兎隊は形勢を覆された。
――白兎隊に告ぐ! 敵の増援の数不明! この戦線を放棄する! 港まで退却せよ! 繰り返す―
アベルが神託で命令を発し、受けた隊士が、隊全体に伝達したが、敵の増援を振り切るのは容易ではなかった。
「ぐあっ!!」
「太郎っ! くそっ!」
太郎がやられ、それを見た幸彦が叫んだ。消耗した味方を引かせて、立ち塞がった新手の鹿幻獣の枝角に突かれていた。
ガイが救援に向かおうと、相手にしていた尻尾にも頭がある竜を、炎龍刀の双刃刀形勢で二体に引き裂いた。
「!!」
しかし、行手に金髪を靡かせた猪幻獣が立ち塞がる。人の気配しかなかった筈の、聖堂の方からやって来た。
「チッ!」
ガイはマグナムを撃ち込んだが、弾丸は猪幻獣の身体の表面に現れた魔法陣に弾かれた。
「何!?」
「ふふふ。当然、私もこの姿の方が自信があるんでね!」
ニッコリとした表情を浮かべる猪幻獣が、ガイに突進してきた。ガイは双刃刀を分離し、二本の牙を渾身の力で受け止める。
「くそっ、このままじゃヤベェぞ……!!」
白兎隊は、ルテティアの街に散り散りに入った幻獣を追撃し、至る所で戦闘中だ。中には味方との距離が離れ、孤立している隊士もいる。撤退に苦戦する隊士を、ガイ一人ではとても支援できない。
空中を新手の鷲や竜の幻獣が飛び交い、退却を阻もうと隊士に襲い掛かる。
「ベンタイフーン!!」
しかし、突如、発生した竜巻が、空中の幻獣達を巻き込み、地上に吸い込むように引き擦り下ろした。墜落した幻獣達は、忽ち居合い抜きで捌かれる。
「ギャァアア!!」
「グオォオオ!!」
「イッテェェ!!」
ガイは、遠目でもその手腕を振るう者が誰か分かり、自然と顔がニヤけた。
「あんにゃろう……生きてやがったか……!!」
上半身を包帯でグルグル巻きにした姿は、どう見ても満身創痍だったが、十兵衛の剣技は健在のようだ。
「おいこの刀、斬れ味が悪いぞ。ちゃんと研いでいるのか?」
「借りといて文句言うんじゃねぇ!」
十兵衛にベンが唾を飛ばしている。
戦闘で重傷を負った十兵衛と、無事、彼を連れ帰ったベン、又三郎が、味方の退却を支援した。
一方、もっとも戦場で孤立していたのは、アベル達、移籍組だった。
「コノヤロォオオオ!!」
四人を囲む敵を薙ぎ払おうと、ノームがガトリングガンを連射するが、乱雑な狙いを掻い潜り、幻獣達が接近戦を仕掛けて来る。
「コイツらっ!! ああっ!!」
既にロケット弾を切らしたイフリータが、迫る狼幻獣に、代替えとなる爆破業を放ったが、至近距離で業が炸裂し、自らもその奔流を受ける。
ダウンしたイフリータを、不運にも巨大な蛇幻獣が追い討ちを掛けた。イフリータは大蛇に下半身を飲み込まれる。
「イフリータっ!!」
シルフィーが救出しようと銃を放つが、うねる大蛇に与えたダメージは少なかった。
「くっ……このっ……!!」
武器を落としたイフリータは、丸飲みにされまいと必死に両腕で踏ん張っていたが、細長い舌が巨乳に絡み脱出できない。次第にズブズブと口内へ飲み込まれて行く。
「う、うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
断末魔の悲鳴が、大蛇の体内に消えていく。
シルフィーの表情が絶望に染まる。
「そんな……」
足の止まった彼女にも、烏の幻獣が襲い掛かる。首を狙った嘴を前にシルフィーは死を覚悟したが、あわやの所でアベルが割って入った。
アベルは、リボルバーの銃剣部からレーザー剣を思わせるエネルギーの刃を作り出し、烏幻獣を斬り裂いた。
「引くぞ!! シルフィー、ノーム……っ!!」
アベルの業が敵を引かせ、三人は辛うじて包囲を突破する。
斃れた仲間への想いを断ち切って、アベル達は神足で加速する。
――すまない……っ! ディーン、イフリータ……!!




