八十四話 志㊃
「今のおれは強くなったんだ!! 志に……何もしてやれなかった頃のおれじゃねぇ!!」
「何の事だ?」
這い上がった勝志が、ルーガルーに向かって行く。先程までとは違う、執念にも似た闘志に満ちている。
ルーガルーは直様、短剣を投擲したが、回転しながら飛んでくる刃に、勝志は怯む事なく突っ込み、無敵拳でそれを殴り飛ばす。
「!!」
更に、英雄拳で間合いを詰める。ルーガルーは咄嗟に大剣で勝志の拳を受けたが、後方に弾き飛ばされ、石造りの建物に激突した。
「くっ、連戦でここまでやるとは……! 伊達に白兎隊を名乗っている訳ではないようだな」
「ぜぇっ! はぁはぁはぁ……!!」
勝志はダメージと業による消耗で、再び地面に手を着いた。
連戦なのはルーガルーも同じであった。ナイフを受けた傷が開き、鈍い痛みを感じる。
その一方で、彼は勝志の奮闘ぶりを評価していた。
「お前の気概は認めてやろう。だが、ここは退け……」
ルーガルーは、激突した建物の屋上にふわりと上がる。
ラーラは、体の痙攣すらマンドレイクの触手に抑えられ、身動き一つ取れない。
「己の正義を貫くには相応の力がいる。お前が足掻いても変えられない現実を見せてやる……!」
ルーガルーが、道連れで短剣を手元に戻すと、頭上で大剣と連結させた。
半端な形状だった二本の剣が、一本の完全な弓形の剣になった。
「昇華―極光!!」
ルーガルーの身体が、オーロラのような光に包まれた。その煌めきが、驚きに見開かれた勝志とラーラの瞳に反射している。
身体が巨大化し、逆立つ蒼い毛に覆われ、顔が変わり、手足が伸び、尾が生え、獣の姿に変わっていく。
その姿は、人狼そのものだ。
「これが僕の真の姿……! 裁きを与える側の……絶対的強者の力を受けろ!!」
人狼ルーガルーが、大振りだった大剣を片手で軽々、構えた。
勝志も拳を構えた。互いに相手の全力は、全力でないと受けられないと感じ取る。
「舐めるなよ……! おれは勝志なんだ……! だから、おれが勝つ!!」
敵対した以上、相手の正体など勝志が気にする事ではなかった。大切な人を守りたい一心で、勝志は必殺の拳を放つ。
ルーガルーがそれに応じた。
「月狼剣!!!」
「超・破壊巨拳!!!」
蒼いエネルギーの刃を纏ったルーガルーの剣が、勝志の巨大な拳を両断した。超・破壊が砕け、今度は勝志が後方の建物まで吹き飛ぶ。
勝志は、激突した建物の壁を砕いても尚、勢いが止まらず、内部を貫通しその反対側へ消えた。
「……連れ行け……!」
ルーガルーに指示され、マンドレイクが無常にもラーラを連れ去っていく。
姿が見えなくなった勝志に、ルーガルーが吠えた。
「阿摩美勝志!! お前の裁きは保留だ!! だが新たなる秩序の中、お前が正義を忘れ、自らの意志を通そうとその力を振るうのなら、その時は……僕が断罪してやる!!」




