表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/183

八十二話 志㊁

 阿摩美(あまみ)勝志(かつし)は、アマリ(とう)で嵐の日に生まれた。

 母親は難産で、双子の妹を出産後に息を引き取った。せめてもの救いだったのは、兄の生まれた十時間後に取り上げられた妹の(ゆき)が、無事に生まれた事だろう。

 新暦184年。第一次幻獣戦争の戦火がカーネル諸島に迫り、漁師だった父親は軍に招集され、帰っては来なかった。

 孤児となった勝志と志は、サンゴの家に引き取られ、平穏となったアマリ島に戻った。


 「くらえ! 足キックだぜ!!」


 「うわっ! なんだこの強烈なシュート!」


 「勝志(にぃ)ちゃんすげー! オウンゴールだけど……」


 「ばかか!?」


 勝志は、年齢にしては運動能力に優れた子供で、サッカーをすれば歳上相手に肉薄し、ケンカも強い。兄故か面倒味もよく、歳下の子供からも慕われる人気者だった。


 「志。こんな高い木の上にいたのか。そろそろ帰ろーぜ」


 「お兄ちゃん。わたしはこの高さまでしか登れないけど、鳥さんは空を飛べる。けど、白い雲の高さまでは行けないみたい……! どうしてなのかな?」


 「あん? なにが? 白いって?」


 「お兄ちゃんはえっちだね」


 志は、兄とは違い、感性豊かで絵を描くのを得意としていた。クレヨン、色鉛筆、絵の具と、成長と共に変わる画材で描かれた絵は上手で、島では評判だった。


 「志。今日は何を描いたんだ?」


 「ふふっ、これは……」


 勝志に聞かれて、志は照れながらスケッチブックを見せた。一日の最後には、必ずやるやり取りだ。


 「お兄ちゃんよ」


 「おれか? こんなサルみたいな顔だっけ?」


 「お兄ちゃん、たまには鏡を見ないと……。それ、あげる。一生大切にしてね」


 「本当か? ありがとな! じゃあ、いつも持ち歩くぜ」


 「ポケットに入れたら、きっと洗われちゃうよ。大事にお部屋に置いておいてくれればいいの」


 志は、兄の事をそそっかしいと思いつつも、微笑ましく思っていた。


 「志! 明日ギンじいさんが漁に連れてってくれるんだ。一緒に行こうぜ! お前は魚を描けばいい」


 「うん。お兄ちゃんは魚を獲ろうと、早まって海に飛び込んじゃだめだよ」


 志に忠告され、勝志は前回の失敗を思い出す。二人はその時の事が可笑しくて、笑い出した。

 サンゴの家の子供達は、全員が兄弟ともいえた。しかし、その中でも血の繋がりがある二人の絆は特別で、一緒に行動する事が多かった。

 遠からず、勝志は志が、自分の中でどれだけ大きく、掛け替がえのない存在であるかを思い知る。


 ――――――――――――――――――――――

 

 志には、特殊な力があった。

 後々、勝志は、それが幽世(カクリヨ)の力だったと知る事になるが、妹の身に起こった出来事は、それでも説明が付かない部分があった。

 それは、二人が七歳の頃、やはり嵐の日に起こった。

 その夜、昼間は元気だった志が、うわ言を言い続けた。目は覚めているようだったが、まるで周囲の者達とは別の場所にいるかのように、応える気配がない。


 「―が来る……底の……イエ…ら。……える……。……じる……。きっと……しを……でいる。……しを探している……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ