表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/183

七十八話 死神㊁

 「司祭様っ! 一体、何が……どうなっているのですか!?」


 「お助けー!」

 

 図書館のある聖堂には、大勢の市民が避難していた。ユングヴィが戻ると、街に現れた幻獣に恐怖する市民が、救いを求めて彼に詰め寄る。


 「皆さん、落ち着くのです! ああ、落ち着いて!」


 ユングヴィは柔和な表情に、やや、うんざりした色を浮かべつつも、彼らを司祭らしく諭す。


 「聖堂(ここ)に居れば安全です! 地下も解放しましょう! さぁさぁ―」


 「ユングヴィ様ぁ!」


 ユングヴィに女子学生がしがみ付いた。どうも自分に気が有り、何かと勉強を教わりに来る()だ。


 「落ち着いて。さぁ、一緒に祈りを捧げましょう」


 ユングヴィが言った。

 しかし、一体の幻獣が聖堂の敷地に現れると「きぁああああ!!」と少女は悲鳴を上げ、気付いた者達もパニックになる。


 「皆さんっ、良く聞くのです! 彼らに対し、決して敵意を向けてはいけません! 何もしなければ襲っては来ません! さぁ、祈りを捧げて! 祈りを捧げて!」


 ユングヴィは、パニくる人々に大仰に訴えた。彼の声を聞いた者達は、その場で祈りのポーズを取る。もっとも、ユングヴィの言葉を信じたというより、諦めの神頼みに見えた。


 「グルルル……」


 幻獣は、暫く聖堂内の人間を威嚇していたが、やがて去って行った。


 「ホラ、言ったでしょ?」


 ユングヴィは、頼もしさを感じさせる笑みを見せた。無論、彼と幻獣はグルな為、パフォーマンスだ。

 しかし、これを見た市民はユングヴィを信じ、幻獣に敵意を向けないよう心掛け、パニックは治まった。



 「ぜぇ、はぁ……っぜぇ、はぁ……っ」


 ヒルデは起こっている全ての出来事を、悪夢だと疑った。

 司令室にいた団員を引き連れ、出撃したエインヘリャル聖騎士団だったが、立ちはだかった八本の脚を持つ白馬の幻獣相手に、総崩れとなった。

 部下達が、次々と蹴倒されていく。

 

 「くっ……はぁあああ!!」


 それでもヒルデは、敵の背後に回り込み、果敢に斬り掛かった。


 「あああああああああああっ!!」


 しかし、幻獣は後ろ脚を跳ね上げ、彼女を返り討ちにする。巨大な蹄が腹に減り込み、ヒルデは地面に平伏した。


 「ぐっ! ……ぅううっ」


 余りの痛みに気絶しそうになったが、団長としてのプライドを総動員して立ち上がる。


 「団長っ……もう、やめましょう……!」


 背後から、弱々しい声がした。

 フレイヤだ。既に敵との力の差を思い知り、戦意を喪失しているようだった。


 「何を言っているの……っ! 私達が諦めたら……っ! 街の人達は……っ」


 ヒルデは必死に奮い立ち、護拳の付いたサーベルを握り直す。諦める訳にはいかない。

 しかし、不意にフレイヤの声音が冷たくなった。


 「抵抗しなければ、誰も死なないわ」


 同時に、弓が引かれる気配を感じる。この場で弓の使い手は、一人しかいない。

 それでもヒルデは振り返ってしまった。


 「……!?」


 フレイヤが、感情のない瞳をしている。顔が真っ青だ。番えた矢が、ヒルデに向けられている。


 「だから……もう、諦めて……」

 


 勝志(かつし)はラーラを連れて、政府施設から離れようとしていた。

 しかし、行く手の地面から、突如、巨大な木の根が迫り上がり、マンドレイクの幻獣が現れる。先程の勝志とワイバーンの戦闘を嗅ぎ付けたようだ。


 「くそっ、こいつらしぶといぜ!」


 勝志はラーラから離れ、敵の注意を引き付ける。植物幻獣の根が乱舞したが、勝志を捉え損ね地面を割った。


 「勝志……」


 ラーラは力無くうなだれ、付近の塀に寄り掛かった。殆どショック状態で、マンドレイクが跳ね上げた土塊が塀を叩いても、無反応だった。

 しかし、そんなラーラを、戦いの喧騒を聞きつけた兵士二人が目敏く見付ける。


 「グレイス嬢!? どうしてこんな所に?」


 「ゼフィールと共に連行された筈じゃ? 一応、身柄を確保しろ!」


 兵士がラーラの腕を取った。

 ラーラは反射的に腕を振り払う。今は誰も信じられなかった。


 「こらっ、待て!」


 兵士は逃げるラーラを押し倒し、拘束しようとした。


 「いやぁ! 離してっ!」


 「この……! 服を脱がせ!!」


 ラーラを大人しくさせようと、兵士達は常套手段なのか、ラーラのランジェリーを脱がしに掛かる。


 「きぁあああああああああっ!!」


 ラーラはスカートの裾を掴んで抗うが、あっという間に胸下まで捲り上げられる。必死に抵抗するが、徐々に乳房を露わにされていく。クーデターに組する質の悪い兵士達は、職務怠慢で面白がっていた。


 「ヴァルハラで見た時から、気に入ってたんだよなぁ!」


 「ラーラっ! あいつら!!」


 勝志が事態に気付いたが、幻獣を目の前にした状況ではとても助けに行けない。


 「ああっ」


 ラーラが力尽き掛けた時、突如、高速で飛来した物体が兵士二人の首を斬り飛ばした。

 勝志は一瞬フォンの救援かと思ったが、容赦のない殺傷に直ぐに認識を改めた。そもそも飛んで来た刃物は扇ではなく、弓形の(やいば)を三分の一に割った形状の武器だ。


 「はぁ……っ、はぁ……………………」


 ラーラはショックが重なり、ぐったりして目を閉じた。

 弧を描きながら戻って来る(やいば)をキャッチした人物は、右手に見覚えのある大剣を持った白い衣装の男だ。


 「お前…………味方なのか……!?」

 

 勝志は、その疑問には自分でも愚かしさを感じたが、錯綜した状況の中で窮地を救ったルーガルーには、そう聞かざるを得なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ