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七十六話 裁きの刻㊃

 「パパっ!!」   


 部屋に駆け込んだラーラは、絶句した。父親ゼフィールが、腹部から血を流して床に倒れていたからだ。

 部屋には他に誰もいない。サスペンス小説で描かれる殺人現場のような光景だけが、そこにはあった。


 「パパ……っ、パパ、しっかりして……っ!」


 ラーラは、父親の傍らに膝を突き、必死に呼び掛けた。しかし反応がない。傷口に手を当てて、どうにかようとしたものの、出血が酷く、深い傷である事が分かっただけだった。


 「……どうして……こんな……パパが……!」


 「ーラ……か……。何故ここに……?」


 ゼフィールが微かに身動きをし、掠れた声で言った。彼は辛くも息があったが、顔面蒼白で、最早、風前の灯だった。


 「パ、パパっ! 直ぐに助けを呼ぶからね……っ」


 ラーラはそう言ったが、勝志(かつし)は外で幻獣と戦っており、ビル内はクーデター側の指示を間に受けている兵士しかいない。それでもラーラは、藁にも縋る思いで救助を呼ぼうとした。

 しかし、そんな彼女の手をゼフィールが掴む。


 「ラーラ……パパはもう駄目だ……。この傷では助からない……。お前は逃げなさい……。色々と……不都合なものを見てしまった筈だ。彼ら……白兎(びゃくと)隊を頼るんだ……!」


 「やだよパパ! 死なないでっ! 一緒に逃げよう!」


 「ラーラ……言う事を聞きなさい……」


 「いやだぁ!!」


 わがままを言う娘に、ゼフィールは諦めたように微笑んで、その頭を撫でた。

 愛おしい娘は、成長して母親に似てきてしまい、ゼフィール自身が変な気を起こさないよう、色々と抑圧してしまった所があった。


 「ラーラ……お前は自由だ」


 ラーラが涙を溜めた目で父親を見入る。


 「好きな所へ行きなさい……。好きな服を着なさい……。好き人と結婚しなさい……」


 「パパ……っ」


 ラーラは言葉に詰まった。父親の顔から血の気が益々なくなり、みるみる生気が失われていくように見えた。

 一方ゼフィールは、どうしてもラーラ伝えなければならない事があった。最後の力を振り絞る。


 「ラーラ……。最後に……これだけはお前に伝えなければ……っ。誰にも話してはならないよ……」


 ゼフィールは、ラーラの首に掛かっているペンダントに手を触れた。


 「ラーラ……お前と……お前のママは…………―」


 ラーラの目が見開かれた。

 父親は、微かな声で最後の言葉を伝える。


 「……」


 ゼフィールは役目を終えたように力尽き、事切れた。


 ――――――――――――――――――――――


 アベル達は議会のビルに入った。

 ビル内は、各部署の人間が慌ただしく現状の確認と対応に追われていて忙しなく、五人の事など誰も構う様子はなかった。

 

 「他にも幽玄者が紛れているかも知れない。警戒を怠らないように」


 「ラジャー!」


 アベルが言い。シルフィー、ディーン、イフリータ、ノームが応えた。

 オルディンはまるで、幻獣の襲撃など起こっていないかのように、平時通り大臣室に戻っていた。


 「来る頃だとは思っていた。白兎隊……いや、プロヴィデンスの回し者共」


 「貴方ははぐらかさないのですね。我々も消せばよいと……そういったお考えですか?」


 オルディンは、ずかずか部屋に入ってきたアベル達を一瞥しただけだった。デスクに着いたまま、部下に書類を渡して部屋から下がらせる。


 「ああ、ゼフィールが防衛費を赤字にしてまでお前達を国内に留めていたからな。どこかで始末しなければならなくなった」


 オルディンは座ったまま、不敵に言った。

 

 「へっ、腕に自信アリってかぁ?」


 「何処で修行したかしらねぇが、こっちは前線で鍛えてきた猛者なんだよ」


 「幽世(カクリヨ)の力で地位を得るのは結構だけど、おイタが過ぎたね」


 「五対一です。諦めて下さい」


 四人がオルディンに告げ、それぞれの武器を向けた。

 アベルもリボルバー銃を構える。


 「降伏しろ。企みは失敗だ。招かれざる幻獣達は俺達が倒す!」

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