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七十三話 裁きの刻㊀

 ゼフィールが連行された場所は、彼にとって特別珍しくもない政府所有のビルにある一室だった。クーデターは計画的なもののようで、ビル内は軍によって規制が掛けられている。

 部屋には、オルディンのみが後ろ手を組み佇んでいた。長身の男は、ゼフィールが現れるとゆっくりと振り返る。


 「二人だけで結構だ」


 片眼鏡を光らせオルディンがそう言うと、ゼフィールを連行してきた軍部の人間達は、御役御免と退出した。


 「随分と手荒な真似をするじゃないか……。選挙以降、ガリア議会は独立に傾いている。何れはお前の目論み通りになる日も来るだろうに……」

  

 ゼフィールが、乱暴に引っ張られた腕を回してほぐし、恨めしげに言った。

 オルディンが言う。


 「戦火がエウロパまで迫れば、嫌でも皆プロヴィデンスに泣き付くだろう。人民など信用できない。私はその前に決着を付けたい。強かなお前とのらりくらりと政治闘争をしていては、その日待つばかりになるからな」


 政敵の的確な読みに、少々、舌を巻きつつも、ゼフィールは気に入らないと鼻を鳴らす。


 「ならば私を始末すれば良い。白兎(びゃくと)隊はお前自身が幽玄者……。殺し屋だと見抜いているぞ……!」


 「ほう。中々、優秀な調査隊を雇ったじゃないかゼフィール。だが暗殺はこれ以上、不要と見ている。身の危険を感じた者は独立派(こちら)に靡き、プロヴィデンス派は弱体化した。しかし、最後は然るべき地位にある者の同意があってこそ、独立は果たされる」


 オルディンとゼフィールの間には、机が一つあった。上には、オルディンが重要な署名に使う、七色に煌めく銀の羽根ペンが、誓約書と共に置かれている。誓約書には、ガリアが国際連合を独立する旨の公式文が書かれていた。

 オルディンが羽根ペンを取ると、何の変哲もない用紙に名前を書くように署名した。


 「ゼフィール。お前が名を書かなくてもいい……。その時は止むなく、次のプロヴィデンス派の者を召喚する……!」


 ――――――――――――――――――――――


 「シルフィー。連絡は付いたか?」


 「エインヘリャル聖騎士団は直ぐに迎撃に出るとの事です。軍の方は……此方に応答しませんっ」


 アベルが懸念していた通りの内容を、シルフィーが伝えた。

 

 「幻獣部隊を無視する気か……」


 「これでは軍の援護を期待できませんね……。最悪、私達を妨害してくる可能性も……」


 「いや、幾ら軍が独立派に掌握されていても、まさか幻獣側と組むとは思っていないだろう。混乱している間に方を付ける!」


 幻獣が現れれば、間違いなく首都はパニックに陥るだろう。軍は、市民の避難や保護を優先してくれれば充分だ。


 「アベル。(しん)のヤツが戻ったぜ」


 ガイがアベルに嫌々、報告した。程なく東の方向から、真が神足(シンソク)で現れ着地する。


 「幻獣が街に……! 何が起こっているんです?」


 真は、ルテティアに近付いた事で捜査本部にいるヒルデと連絡が取れ、白兎隊が古城に向かった事を知らされた。


 「独立派が相当数の幻獣と手を組んでいる。この脅威を排除し、首謀者を捕らえる!」


 アベルが言い、神託(シンタク)で真にユングヴィ等、ガサ入れからの情報をくれた。真も正確な神託(シンタク)で、自分達が追跡した敵の情報を伝える。十兵衛の戦線離脱に、ガイが眉根を寄せたが、何も言わなかった。


 「外部から招いた手練れの幻獣が他にもいると判断した方がいい。よし、皆、行くぞ!」


 アベルが言い、街へ向かった幻獣部隊への追撃が始まった。



 「だめだラーラ! ラーラはここに……いや、家に……いや、だめか……。どこか安全な場所にいるんだ!」


 「わたし、パパが心配。ボレアが助けてくれるって信じてるけど……今度は幻獣が街にっ。教えてあげないとっ!」

   

 勝志(かつし)は、父親を助けに行きたいと言うラーラを止めようしていた。気持ちは分かるが、これから戦場になる街に、ラーラを行かせるのは危険過ぎる。


 「だけどなぁ―」


 「行かせてあげなよ」


 揉める二人の側に、真がやって来た。暗殺犯を倒し蜻蛉返りしてきた真は、荒々しく髪が乱れ、羽織りは血で汚れている。


 「真……!」


 「幻獣は僕らがどうにかする。ラーラも街に戻って、お父さんと合流すれば良い」


 「けどなぁ、真。()()()()()がいるんだ! ラーラも、一回そいつらに捕まったんだぜ」


 勝志が言った。懸念材料は幻獣だけではない。独立派だがなんだか知らないが、ラーラ(ゼフィール)を狙っている連中がいる。


 「なら、君が守ればいいじゃないか。ラーラが行きたいのなら、一緒に付いて行ってやればいい」


 真が言った。突き放すような物言いに、勝志は面を食らう。

 ラーラは反対に、自分の意志を尊重してくれた真に感謝する。


 「真、ありがとう。勝志……お願いできる?」

 

 勝志は、そう言われれば合意するしかない。


 「……分かったぜ。おれは他に、うまい方法が思い付かないからな」


 真は、話が纏まった二人から離れ、ガイ達の後を追った。


 「……」


 ラーラは、真が対して此方を見ずに去って行ったので、感謝の気持ちが、あっさり寂しさに変わるのを感じた。

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