表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/183

七十二話 古城の戦い㊃

 「大丈夫か!? アベル!」


 ノームが、爆発で弾き飛ばされたアベルの元に駆け付けた。古城は崩壊し、辺り一面が土煙に満たされる。


 「……大丈夫だ」


 アベルが低いトーンで言った。同じく、付近に無事、着地したものの、ランジェリーが焦げたフォンが「なんなのもうっ!」と毒突く。


 「!!」

 

 その時、幻獣部隊が一斉に飛び立ち、撤退を開始した。ユングヴィの逃走を見て、逃げを決めたというより、彼から撤退の神託(シンタク)があったに違いない。


 「ユングヴィは!?」


 「クソッ、視失っちまった!」


 アベルとディーンが唇を噛んだ。

 城内から反対側に去ったユングヴィの気配は、一斉に動き出した幻獣達に気を取られた隙に、それらに紛れて判別できなくなってしまった。


 「ヤツら街の方へ行くよ!」


 「まさか、無差別攻撃をさせる気じゃ……!?」


 イフリータとシルフィーが言った。

 形成不利だった幻獣達が街に入り、民間人が巻き込まれる市街戦となれば、此方らは非常に戦い辛い。それを見越した作戦を取る幻獣軍も存在する。


 「追撃する! ガイ、隊を編成してくれ! シルフィー、騎士団と軍に連絡を。幻獣二十体が街に入った、緊急出動をと!」


 アベルが叫ぶ。焦りは禁物だった。犠牲者を出したくないと無理な追撃をして、敗北しては意味がない。


 「言われなくてもやってんよ! オラッ、一人一匹追い掛けるぞ! フォン、テメェも加われ! 幸彦、その怪我ならまだやれんな!」


 ガイは、素早く戦闘継続が可能な隊士を把握し、追撃の用意に掛かる。


 「オレらは? ユングヴィを追うのか?」


 「いや……」


 ディーンが聞いたが、アベルは直ぐには動かず、最善の選択肢を探す。

 辺りには未だ土煙が巻いている。アベルは、一体の幻獣の亡骸に近付いた。イフリータと太郎に打ち斃された、ガーゴイルだ。


 「こいつは幻獣ガルグイユだな。……確か、五年程前エウロパで捕えられ、隔離施設に送られた筈だ。外見的特徴は大分変異しているようだが……」


 アベルは、ファイルの記憶と斃した幻獣を照らし合わせた。


 「他にもファイルで見た事あるのがチラホラいるね」

  

 イフリータも言った。


 「ヴァルハラの幻獣達を懐柔したってワケ?」


 アベルが頷く。


 「だが、ファイルにいない幻獣の方が多い。明らかに手引きし、国内に入れたんだ。これだけの数の幻獣が誰にも見付からず侵入するには、確かな侵入ルートの確保と、発見されても揉み消す体勢が必要だが、独立派の高官ならそれができる……」


 「じゃあ、まだ戦力がいるかもしれねぇって事か? バカな、どっから幻獣を雇ってんだ!?」

 

 ノームは驚きを隠せない。ヴァルハラにいる幻獣を従わせるだけならまだしも、情報がない幻獣達を、如何にして探し出し味方に引き入れたというのか?

 アベルは、様々な疑問を払拭する答えを導きだす。


 「独立派か……。恐らく()の真の目的は政府を掌握し、国際連合から脱退する事じゃない。これだけの戦力。外部に協力者がいると考えた方が妥当だ」


 大量の幻獣に協力を得る唯一の方法。それは―


 「プロヴィデンスなしで幻獣とは戦えない。それゆえに独立は不可能だと思っていたが、方法がある。売る気だ……ガリアを幻獣に……!」


 アベルの発言に全員が戦慄した。つまりガリアは、独立の手助けをして貰った暁には、幻獣側に付くという事だ。


 「オイオイ、幻獣相手に取引? そんな事、通用するのか……!?」


 ディーンが言ったが、有り得ない話ではない。仮にそれが叶えば、この戦争から、ガリアは逸早く身を引く事ができる。


 「賢い選択だが、企みを阻止しなくては……! 侵入した幻獣を始末し、後ろ盾をなくす!」


 アベルは、プロヴィデンス側の人間として、何としてでもこれを阻止しなければならなかった。当然、敵と手を組んだとしても、ガリアの安全が補償される訳でもない。


 「……ユングヴィを捕え、そこから追い込むつもりだったが、止むを得ない……。直ちに奴を―」


 アベルは宣言した。


 「オルディンを逮捕する!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ