表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/183

七十一話 古城の戦い㊂

 戦場は、白兎(びゃくと)隊とユングヴィ率いる幻獣部隊が入り乱れる乱戦になった。

 勝志(かつし)は、宙を舞うコウモリ幻獣、目掛けて突撃し、この戦いに加わる。


 「英雄拳(スーパーマンパーンチ)!!」


 パンチと共に、自身が猛スピードで飛んで行く(ワザ)が、敵を叩き落とす。


 「勝志っ、テメェどこ行ってやがった!?」


 「寝坊? 食事? 女の子の所に居たとかだけはだめだよ!」


 ガイとりぼんが叱責するが、戦力が必要な今は、合流を歓迎しているようだ。


 「特別任務を受けたんだ。てゆーか、ここ何処なんだ?」


 「知らなくていい! だが、どうやら重要な巣穴を突ついたらしい……」


 ガイは、厄介な任務を受けたと思っていたが、事件の裏にいるのが幻獣だと言うのなら、話は分かり易い。

 

 「コイツらさえ叩き潰して、首謀者の幽玄者を捕らえれば、一件落着なんだろ!!」



 地響きで揺れる城の地下を、ラーラが慎重に進んで行く。天井から胸の谷間にパラパラ落ちてくる砂を、ラーラは払った。

 ラーラは、森羅(シンラ)で内部を伺いながら進んだが、幻獣の気配は外からしか感じられず、宗教者の姿もなかった。


 「フォン!」


 誰にも会う事なく、ラーラは石牢に辿り着いた。取り残されていたフォンは、ベッドに縛られ、虚な瞳で天井を見つめている。


 「フォンっ! しっかりして!」


 ラーラが駆け寄り声を掛けるが、フォンは無反応だ。


 「そんな……」


 よっぽど酷い拷問を受けたのだろう。ラーラが頑張って戒めを解こうとしていると、フォンが無表情のまま此方に視線を向けた。

 すると、途端に縄が千切れた。


 「こらっ! あんた、どうやって逃げてきたのよ! 全くもうっ、お陰でこっちは……!」


 飛び起きたフォンが、ラーラを羽飼締めにする。ラーラは「ボレアと勝志がっ、助けてくれたの!」と、息を絶え絶えにしながら言った。


 「戦闘が始まってるようね。あのヘンタイ、こんなに幻獣を飼ってたなんて!」


 フォンが上を視ながら言った。解放されたラーラが、はぁはぁ息を吐く。

 フォンは、白兎隊がユングヴィなる人物を調査する事を、事前に知らされていた。まさか、先に自分達の方に当人が現れるとは想定外だったが、何れ白兎隊が来る事を考え、術中に嵌ったフリをしていたのだ。

 実際は、略々、計算ではなかったが、そういう作戦だった事にしないと、とても立ち直れない。


 「地下(ここ)は危険だわ。あんた今度こそ離れず付いてきなさい!」


 「うん。フォン、ブラジャー外れそうっ」


 フォンはブラを直すと、奪われ捨てられていた扇子を拾い上げた。そして、白兎隊の加勢に向かう為、城の外へと向かった。


 ユングヴィは城の上階から敷地を見下ろせるバルコニーに出ると、六人の白装束に指示を出す。


 「攻撃開始! 威力は私が保証します!」


 白装束達がライフルで援護射撃を開始する。幽世(カクリヨ)の弾丸が、幻獣と戦う隊士を襲う。


 「ユングヴィ!」


 アベルが混戦からローリングで抜け出し、ユングヴィを狙撃する。しかし、ユングヴィは手の平に魔法陣を発生させ、その超振動で弾丸を弾いた。

 

 「あのヤロー、本当に何者だ!?」


 ディーンが、大量の幻獣を指揮する事も含めたユングヴィの能力の高さに、驚いている。しかし、サラマンダーが吐く炎を回避する為、疑問は棚上げとなった。

 一方で、イフリータがロケットランチャー装填の隙を突かれ、ガーゴイルの接近を許していた。遠距離武器が主体の移籍組は、乱戦に不向きだ。


 「イフリータさん!」


 そこへ、巨乳好きの太郎が割って入り、刀で敵の鉤爪からイフリータを守る。


 「へぇ、アンタ見る目があるじゃない!」


 感心するイフリータ。太郎に押し返されたガーゴイルが、口から水流のようなエネルギーを放つと、イフリータは同時にロケット弾を発射し、爆発で攻撃を相殺した。

 別の場所では、複数の幻獣の猛攻を受けるりぼん、幸彦を守るように、シルフィーがシールドショットでバリアを貼り、二人が立て直す時間を稼いで礼を言われている。

 ここに来て、戦い方の違う彼らが、連携を取り始めた。

 

 城外に出たフォンは、襲い掛かってきたケルピーに扇子を投げ付け、牽制する。孔雀(コンチェルト)は、ラーラの家の庭に捨て置かれたままだったが、舞に使う扇子も、非常事に武器として使える鉄扇だ。


 「ここに隠れて! めちゃくちゃ刀振り回してっ! 敵も味方も危険よ! ちょっと勝志、あんたこの()ちゃんと見てなさい!」


 フォンは、ラーラを物陰に隠れさせ、戦場に割って入る。スピードで翻弄するのが得意な彼女は、乱戦に向いていた。

 呼ばれた勝志が、ラーラの潜む瓦礫の前に下り立つ。


 「フォン、無事だったか! あれ服は? ラーラよくやったな!」


 「うん! 勝志、あの幻獣……学校で噂になったケルピーかも? ドラキュラの話も聞いた事ある……」


 「え? なにピーだって?」


 苦戦しつつも、戦況は白兎隊がやや優勢だった。

 白装束の撃った弾丸を、ガイが刀で防ぎ、二刀流で二体の幻獣を叩き斬る。その背後から、コカトリスが目から熱線を放ってきたが、飛来した扇子が嘴に当たり、狙いを逸らされた。

 ガイは、素早くコカトリスに接近する。


 「炎龍―大熱刃(だいねっぱ)!!」


 十兵衛、不在の分、健闘するガイに、背中を合わせるようにフォンが着地した。


 「よう! 何してんだお前、こんなトコで? その格好はプロヴィデンスの連中への対抗心か?」


 「うるさいわね! あんたの為の格好じゃないわよ! これは普段着っ!」


 「へぇ、流石、露出狂だな。見られるのが快感って訳か?」


 「誰が喜んでるですって? 恥ずかしいに決まって……。は、恥ずかしくないわよ!」

 

 こちらに突進してきたモノケロスに対し、フォンはガイの肩を借りて、宙返りで退避した。代わりに前に出たガイが、振り向き様にモノケロスを叩き返し、体勢を崩した相手に、フォンが鉄扇を投げ、斬り付ける。


 「……チッ」


 打ち倒される幻獣の数が増え、ユングヴィの笑顔が強張る。


 ――侮るなとは言われましたが、これ程とは……。


 「貴方達! 何としてでも食い止めなさい!」


 ユングヴィは部下に指示を出しつつ、徐々に後退りする。


 「ここで勝たなければ、我々はプロヴィデンスに搾取され続けるのです……」


 「ユングヴィが逃げる!」


 その動きに気付き、アベルが叫んだ。


 「ヘヴィメタルバルカン!!」


 ノームがガトリングガンから、通常弾ではなくエネルギー弾を発射した。強烈な(ワザ)の乱射を喰らった白装束三人が、土手っ腹をぶち抜かれ即死する。同時にディーンが、スプラッシュバレットを放ち、遮蔽となっているバルコニーの柵を避ける、曲がる弾道でユングヴィを狙った。

 ユングヴィは弾丸の軌道を見切って、波動を放つ両手をパントマイムのように動かして防いで見せたが、柵をぶち破ってきたノームの弾丸には、流石に腕を弾かれた。


 「ぐっ…………やりますね……!」


 手傷を負ったユングヴィは、一目散に城内へ逃げ込んだ。

 即座にアベルが後を追う。続いて、怨みを募らせているフォンも「待ちなさい!」と、城のバルコニーに上がった。


 「くそっ! 異端者共!」


 白装束の生き残り三人が、司祭が逃げるのに気付かず必死に銃撃を続ける。アベルは、拳銃の正確無比な射撃でライフルを弾き飛ばし、武装解除した。


 「あいつ絶対許さない! あんた達もよ!」


 フォンは、それでもナイフを取り出し応戦しようとする白装束達を、華麗な蹴りで昏倒させた。

 彼らは、ユングヴィに弾丸やナイフを道連れ(ミチズレ)にして貰っていただけに過ぎない、非幽玄者だった。そのトリックに騙され、フォンは不覚を取ったが、種が割れその加護がなくなった今は、何の脅威でもない。

 アベルは、ユングヴィを追い崩れ掛けた城内に侵入したが、直ぐに罠に気付いた。

 突如、城が大爆破を起こした。ユングヴィが逃走を図る為に、仕掛けて置いた爆薬を全て作動させたらしい。


 「くっ!」


 爆炎を空蝉(ウツセミ)で無効化するアベルだったが、爆風が運んできた瓦礫が、彼を城外へと弾き出す。

 同様に、フォンと、見捨てられた白装束達も吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ