七十一話 古城の戦い㊂
戦場は、白兎隊とユングヴィ率いる幻獣部隊が入り乱れる乱戦になった。
勝志は、宙を舞うコウモリ幻獣、目掛けて突撃し、この戦いに加わる。
「英雄拳!!」
パンチと共に、自身が猛スピードで飛んで行く業が、敵を叩き落とす。
「勝志っ、テメェどこ行ってやがった!?」
「寝坊? 食事? 女の子の所に居たとかだけはだめだよ!」
ガイとりぼんが叱責するが、戦力が必要な今は、合流を歓迎しているようだ。
「特別任務を受けたんだ。てゆーか、ここ何処なんだ?」
「知らなくていい! だが、どうやら重要な巣穴を突ついたらしい……」
ガイは、厄介な任務を受けたと思っていたが、事件の裏にいるのが幻獣だと言うのなら、話は分かり易い。
「コイツらさえ叩き潰して、首謀者の幽玄者を捕らえれば、一件落着なんだろ!!」
地響きで揺れる城の地下を、ラーラが慎重に進んで行く。天井から胸の谷間にパラパラ落ちてくる砂を、ラーラは払った。
ラーラは、森羅で内部を伺いながら進んだが、幻獣の気配は外からしか感じられず、宗教者の姿もなかった。
「フォン!」
誰にも会う事なく、ラーラは石牢に辿り着いた。取り残されていたフォンは、ベッドに縛られ、虚な瞳で天井を見つめている。
「フォンっ! しっかりして!」
ラーラが駆け寄り声を掛けるが、フォンは無反応だ。
「そんな……」
よっぽど酷い拷問を受けたのだろう。ラーラが頑張って戒めを解こうとしていると、フォンが無表情のまま此方に視線を向けた。
すると、途端に縄が千切れた。
「こらっ! あんた、どうやって逃げてきたのよ! 全くもうっ、お陰でこっちは……!」
飛び起きたフォンが、ラーラを羽飼締めにする。ラーラは「ボレアと勝志がっ、助けてくれたの!」と、息を絶え絶えにしながら言った。
「戦闘が始まってるようね。あのヘンタイ、こんなに幻獣を飼ってたなんて!」
フォンが上を視ながら言った。解放されたラーラが、はぁはぁ息を吐く。
フォンは、白兎隊がユングヴィなる人物を調査する事を、事前に知らされていた。まさか、先に自分達の方に当人が現れるとは想定外だったが、何れ白兎隊が来る事を考え、術中に嵌ったフリをしていたのだ。
実際は、略々、計算ではなかったが、そういう作戦だった事にしないと、とても立ち直れない。
「地下は危険だわ。あんた今度こそ離れず付いてきなさい!」
「うん。フォン、ブラジャー外れそうっ」
フォンはブラを直すと、奪われ捨てられていた扇子を拾い上げた。そして、白兎隊の加勢に向かう為、城の外へと向かった。
ユングヴィは城の上階から敷地を見下ろせるバルコニーに出ると、六人の白装束に指示を出す。
「攻撃開始! 威力は私が保証します!」
白装束達がライフルで援護射撃を開始する。幽世の弾丸が、幻獣と戦う隊士を襲う。
「ユングヴィ!」
アベルが混戦からローリングで抜け出し、ユングヴィを狙撃する。しかし、ユングヴィは手の平に魔法陣を発生させ、その超振動で弾丸を弾いた。
「あのヤロー、本当に何者だ!?」
ディーンが、大量の幻獣を指揮する事も含めたユングヴィの能力の高さに、驚いている。しかし、サラマンダーが吐く炎を回避する為、疑問は棚上げとなった。
一方で、イフリータがロケットランチャー装填の隙を突かれ、ガーゴイルの接近を許していた。遠距離武器が主体の移籍組は、乱戦に不向きだ。
「イフリータさん!」
そこへ、巨乳好きの太郎が割って入り、刀で敵の鉤爪からイフリータを守る。
「へぇ、アンタ見る目があるじゃない!」
感心するイフリータ。太郎に押し返されたガーゴイルが、口から水流のようなエネルギーを放つと、イフリータは同時にロケット弾を発射し、爆発で攻撃を相殺した。
別の場所では、複数の幻獣の猛攻を受けるりぼん、幸彦を守るように、シルフィーがシールドショットでバリアを貼り、二人が立て直す時間を稼いで礼を言われている。
ここに来て、戦い方の違う彼らが、連携を取り始めた。
城外に出たフォンは、襲い掛かってきたケルピーに扇子を投げ付け、牽制する。孔雀は、ラーラの家の庭に捨て置かれたままだったが、舞に使う扇子も、非常事に武器として使える鉄扇だ。
「ここに隠れて! めちゃくちゃ刀振り回してっ! 敵も味方も危険よ! ちょっと勝志、あんたこの娘ちゃんと見てなさい!」
フォンは、ラーラを物陰に隠れさせ、戦場に割って入る。スピードで翻弄するのが得意な彼女は、乱戦に向いていた。
呼ばれた勝志が、ラーラの潜む瓦礫の前に下り立つ。
「フォン、無事だったか! あれ服は? ラーラよくやったな!」
「うん! 勝志、あの幻獣……学校で噂になったケルピーかも? ドラキュラの話も聞いた事ある……」
「え? なにピーだって?」
苦戦しつつも、戦況は白兎隊がやや優勢だった。
白装束の撃った弾丸を、ガイが刀で防ぎ、二刀流で二体の幻獣を叩き斬る。その背後から、コカトリスが目から熱線を放ってきたが、飛来した扇子が嘴に当たり、狙いを逸らされた。
ガイは、素早くコカトリスに接近する。
「炎龍―大熱刃!!」
十兵衛、不在の分、健闘するガイに、背中を合わせるようにフォンが着地した。
「よう! 何してんだお前、こんなトコで? その格好はプロヴィデンスの連中への対抗心か?」
「うるさいわね! あんたの為の格好じゃないわよ! これは普段着っ!」
「へぇ、流石、露出狂だな。見られるのが快感って訳か?」
「誰が喜んでるですって? 恥ずかしいに決まって……。は、恥ずかしくないわよ!」
こちらに突進してきたモノケロスに対し、フォンはガイの肩を借りて、宙返りで退避した。代わりに前に出たガイが、振り向き様にモノケロスを叩き返し、体勢を崩した相手に、フォンが鉄扇を投げ、斬り付ける。
「……チッ」
打ち倒される幻獣の数が増え、ユングヴィの笑顔が強張る。
――侮るなとは言われましたが、これ程とは……。
「貴方達! 何としてでも食い止めなさい!」
ユングヴィは部下に指示を出しつつ、徐々に後退りする。
「ここで勝たなければ、我々はプロヴィデンスに搾取され続けるのです……」
「ユングヴィが逃げる!」
その動きに気付き、アベルが叫んだ。
「ヘヴィメタルバルカン!!」
ノームがガトリングガンから、通常弾ではなくエネルギー弾を発射した。強烈な業の乱射を喰らった白装束三人が、土手っ腹をぶち抜かれ即死する。同時にディーンが、スプラッシュバレットを放ち、遮蔽となっているバルコニーの柵を避ける、曲がる弾道でユングヴィを狙った。
ユングヴィは弾丸の軌道を見切って、波動を放つ両手をパントマイムのように動かして防いで見せたが、柵をぶち破ってきたノームの弾丸には、流石に腕を弾かれた。
「ぐっ…………やりますね……!」
手傷を負ったユングヴィは、一目散に城内へ逃げ込んだ。
即座にアベルが後を追う。続いて、怨みを募らせているフォンも「待ちなさい!」と、城のバルコニーに上がった。
「くそっ! 異端者共!」
白装束の生き残り三人が、司祭が逃げるのに気付かず必死に銃撃を続ける。アベルは、拳銃の正確無比な射撃でライフルを弾き飛ばし、武装解除した。
「あいつ絶対許さない! あんた達もよ!」
フォンは、それでもナイフを取り出し応戦しようとする白装束達を、華麗な蹴りで昏倒させた。
彼らは、ユングヴィに弾丸やナイフを道連れにして貰っていただけに過ぎない、非幽玄者だった。そのトリックに騙され、フォンは不覚を取ったが、種が割れその加護がなくなった今は、何の脅威でもない。
アベルは、ユングヴィを追い崩れ掛けた城内に侵入したが、直ぐに罠に気付いた。
突如、城が大爆破を起こした。ユングヴィが逃走を図る為に、仕掛けて置いた爆薬を全て作動させたらしい。
「くっ!」
爆炎を空蝉で無効化するアベルだったが、爆風が運んできた瓦礫が、彼を城外へと弾き出す。
同様に、フォンと、見捨てられた白装束達も吹き飛ばされた。




