七十話 古城の戦い㊁
城内に潜んでいた幻獣が、床や壁を破壊し出現する。アベル達は銃を撃ちながら、破壊から逃れるように外へ飛び出した。
敷地内に雪崩れ込んだ幻獣部隊と白兎隊の戦闘が始まった。敵はガーゴイル、ワーム、モノケロス、コカトリス、ケルピー、サラマンダー、マンドレイクといった、説明不要のエウロパ由来の幻獣だ。
――数は……凡そ三十か!
アベルは最悪を想定し、動ける隊士を全員連れてきたが、主戦力の一人である十兵衛がおらず、更に真と、二人の援軍へ送ったベン、又三郎はいない。
苦戦が想定されたが、この脅威を見過ごす訳にはいかない。
――何としても、奴のガリア乗っ取りを阻止してみせる!
「なんだ、あの城、崩れてるぜ!? フォンが暴れてるのか?」
「勝志っ、幻獣! 幻獣がいるよ!」
勝志は、おんぶしたラーラの胸を背中で感じながら、フォン救出の為、急ぎ古城の側まで来ていた。しかし、城は幻獣が取り巻き、何やら仲間は戦闘を開始している。
「くそっ、なにがどうなってんだ!?」
「勝志。フォンはここの地下に捕まっているの! わたしが行けば、逃げていいって分かる筈だから、勝志はみんなの所へ行って!」
「大丈夫なのか!?」
「大丈夫っ。今度は上手にやるよ!」
ラーラは名誉挽回を誓って言った。勝志は幻獣の目を避けて進み、森羅で城の地下の安全を可能な限り確認する。
車両が出入していた裏口で勝志に降ろして貰い、ラーラはこっそり城内へ侵入した。
ノイズ音ばかりが入る無線機が、漸く確かな声を拾い、真はそれを頼りに後続部隊と合流した。
「すまねぇ、遅くなった!」
「十兵衛、嘘だろ!? しっかりしろっ!」
ベンと又三郎が我が目を疑いながら、真が背負ってきた重体の十兵衛を引き取り、手当を始める。
「軍の奴ら、急に上から命令があったからって、説明もなしに引き上げちまったんだ!」
「医療キットだけでも、ぶん取っといてよかったぜ!」
真が合流に手間取ったのには、理由があった。ベンと又三郎に同行したガリア軍の部隊が、突然、撤退したのだ。このようなケース、通常はあり得ない。通信設備を持った部隊も戻ってしまい、無線の範囲も狭まってしまった。
ベンが弁明した。
「ルテティアで何かあったに違いねぇ。だが、俺らまでお前らを置いてく訳にはいかねぇからな」
「ルテティアで……」
真は、異常事態が起こったのは間違いない思った。殺人犯を追っていたつもりだったが、自分達が相対した敵は幻獣だった。
真は、その旨をベンと又三郎に説明した。
「首都に潜んでいる幻獣が、他にいてもおかしくありません」
「オイオイ、こりゃ飛んだ藪蛇……ってより、トンデモねぇ大事だぞ! でも、軍の奴ら、それが理由ならどうして何も言ってかねぇ……」
「幽玄者じゃなくて、幻獣が政治家を殺していた!? そんなチャチな事、アイツらがするのか?」
真の頭には一つの推測があった。国際連合独立派の人間の中に、幻獣を使役できる者がいる。そんな人物が居れば、幻獣を使い暗殺事件を起こしつつ、軍の行動を操れる。
「!」
その時、瀕死と思われていた十兵衛が、微かに身動きをした。
「十兵衛!?」
「…………戻るぞ……」
身体を袈裟斬りにされる大ダメージに加え、ここへ来るまで相当量の出血もしている筈の十兵衛だったが、恐るべき生命力で持ち堪え、意識を取り戻していた。
「……敵戦力を殲滅しなければ……黒幕を止められない……ガリアは終わるぞ……」
十兵衛は、話を聞いていたらしく、掠れた声でルテティアへ向かう事を促した。
真は直ぐにベンと又三郎に言った。
「僕が先に戻ります。二人は十兵衛と一緒に安全を確認しつつ戻って下さい。ルテティアで戦いが始まっているかもしれない……」
「分かった……。って、お前だって戦闘した後だろ? ここは俺か又三郎が……」
「いえ。もう十分回復してます。一刻も早い方がいい」
「自分の方が速ぇてか……生意気な。仕方ねぇ、気を付けて行け!」
真は三人と別れ、急ぎルテティアへ向かった。




