六十九話 古城の戦い㊀
ユングヴィを追求する為、ルテティアの古城にやって来たアベル、シルフィー、ディーン、イフリータ、ノーム。それに応対する為、ユングヴィは白装束の男を六人を従え、地下の階段を上がりホールに現れた。
「これはこれは。プロヴィデンス軍が私に何用ですかな?」
ユングヴィ達は、シルフィーとイフリータの先鋭的な服装を見て、そう判断したようだ。五人が武装しているので、驚いたような惚けたような表情をしている。
「我々は白兎隊です。ユングヴィ司祭、貴方は政治家暗殺事件関与の疑いがある。事情聴取させて頂きたい」
「なんと? 私が暗殺事件に……? いやはや可笑しな事を申される」
「更に危険生物法違反の容疑も掛かっている……。幻獣を使役、或いは彼らと結託し、国内で暗躍させている。これは重大な反逆行為です」
「い、一体、何を根拠に……っ!?」
アベルの言葉に、ユングヴィは困惑している。笑みを湛えている事が多い彼からすると、逆に演技くさい。
「昨日、貴方が勤める教会付近で、政治家一名が幻獣に襲われました。目撃者がいます。更にその時、教会にいた信者の中にも目撃者がいました。しかし、彼らは警察には口を開かず、我々の捜査で黙秘していた事を突き止めた。どうやら後ろめたい事情があるようでした」
アベルが言った。ユングヴィの側にいる白装束の男の表情が、若干変わったように見えた。
アベルが続ける。
「そこで、我々は貴方と貴方が所属する教会の記録を調べてさせて頂いた。教会には国際連合独立派の議員が多く所属しているようですね。遡れば、貴方が教会幹部になった七年前を境に、急激に人数が増えいる」
「……」
「と同時に、貴方が教会に入る以前の幹部、信者の失踪もその前後で相次いでいる。まるで、教会内を人材を取っ替えたかのように……」
アベルは結論を出した。
「貴方は教会を乗っ取り、その財力と影響力で独立派の議員を支援してきた。貴方の息が掛かった政治家を増やし、ガリア政府を裏でコントロールしている。違いますか?」
宗教団体は隠れ蓑に便利だ。疚しい事があっても捜査のメスが入り難い。
ユングヴィは、漸く薄っすらと笑みを見せた。しかし、柔和な印象はない。
「やれやれ困ったものです。幽玄者というのは魔法のような力で真理を知ると聞きますが……それを根拠に推測で疑われる方は溜まったものではありません」
「では、魔法の力を証明しましょうか? 改めたい事があります。この城の地下を是非、拝見したい」
ユングヴィの言い訳に、アベルが素早く言った。ユングヴィの表情が、更に冷たくなった。
「そのライフルはエウロパ軍の正式装備MAS96ですね。宗教者が珍しい物をお持ちだ。まさか軍が譲渡してくれたとでも?」
アベルの発言に、白装束の男達がギクリとした。迂闊な一人が、愚かにも何か隠しているらしい装束の背中に触れる。
それを見てアベルは、ユングヴィより柔らかく微笑んだ。
「ふっふっふっふっ、くっくっくっ……まぁ良いでしょう。お好きに調べなさい。貴方達、ライフルを差し出しなさい。どうせそれも応酬したいでしょうから」
ユングヴィは観念したように言った。部下は装束に忍ばせていたライフルを取り出す。
――消しなさい!
しかし、それらはそのままアベル達に向けられた。
ライフルが一斉に火を吹く。見え透いた不意打ちだったが、弾丸は全て幽世を飛んでくる。
「コイツらっ!」
ランチャーとガトリング砲で身を守るイフリータとノーム。アベルとディーンは、二丁拳銃を取り出し、銃身で弾丸を弾いた。
その間に、二人の背後に潜んだシルフィーが、シールドショットを撃ち込み、五人の前にバリアを張って、弾丸を完全にシャットアウトした。
「ふん!」
ユングヴィはそれを見るや否や、片手を振った。
途端、天井が派手に爆発する。道連れで、上階に仕掛けた爆弾を起爆させたようだ。
イフリータが、丸々落ちてきた天井にバズーカを撃ち込み、味方を下敷きから救った。
「起用なヤツね!」
瓦礫の落下で、濛々と立ち上がる砂埃の奥からユングヴィの声が聞こえる。
「貴方方は生きては帰しません! 私の秘密を知った以上、とことんその深みに嵌って沈むがいい!」
ユングヴィの言葉と同時に、アベル達は城に迫る気配を感じ取った。幽世を動いているが、人の気配ではない。
――これは……やはりか……!?
砂埃が晴れ、ぽっかり空いた天井から青空が見える。
そこには、此方に目掛けて飛来する幻獣の一団がいた。更に、城周辺の森、城内からも幻獣の気配を感じ取る。
「幻獣か! こんな近場に潜ませてやがるとは!」
「オイオイ、えらい数だぜ!?」
「推測通りですが、本当に結託しているなんて……」
「どんな手、使ったのよ。エサやれば付いてくるってモンじゃないでしょ!」
憤る四人。アベルも、にわかには信じ難い事実に唇を噛む。
幻獣部隊がアベル達に襲い掛かろうと、空中から狙いを定めている。
しかし、幻獣達は直ぐに四散する。
「任せとけ!!」
ガイの大きな声が聞こえた。
城内に入らず、外で待機していた他の隊士が、嬉々として武器を構えている。剥き出しの殺意に反応した幻獣達が、そちらを対処しようと動き出す。
「たくっ、暗殺やら、捜査やら、まどろっこしいんだよ! 何でこんなトコに幻獣がいるか知らねぇが、漸く本職だ! 行くぜヤロー共!!」
ガイの言葉で、隊士達の士気が上がるが、女性隊士を代表したりぼんが「野郎じゃないです!」と否定した。




