六十七話 異端審問㊂
「何するのよ! このっ!」
石牢に残されたフォンは、白装束の男達に石のベッドに寝かされた。手足をX字に広げさせられ縄で縛られる。
「昴美風さんでしたかな? 幽玄者である貴方は、我々にとって非常に邪魔な存在です」
ユングヴィが、大っぴらにされたランジェリー姿のフォンを見て、満足そうにニンマリする。
「しかし、だからと言って始末しようとすれば抵抗もするでしょう。我々としては目的が達成され、ラーラ君が解放されるまでの間、大人しくしていてくれればそれでよいのです。ですから……どうです? 穏便に事を済ますのは?」
「穏便に……?」
フォンは、抵抗してカラダをクネクネさせていたが、その動きが男達を喜ばせてしまう事に気付き、ジッとした。
「ええ。異端審問をご存知ですか? 実はこの牢屋、かつて魔女狩りで捕らえた女性の審判に使われた場所だそうです」
「……」
「審判では主に、女性が魔女である事を調べる為の拷問が行われた……。要するに、幽玄者であれば外的要因を空蝉で無効化できるので、刺激を与えて耐性を調べ、魔女を炙り出したとか」
「ふんっ、卑劣なやり方よ!」
フォンは、怒りで顔が真っ赤になった。ラーラの部屋にあった本―魔女狩りの真実には、確かにその様な内容が書いてあった。
「ふふふ、ご存知のようですね。では、我々は特別に、先程の貴方の暴れっぷりに目を瞑りましょう。その上で貴方に魔女の疑惑を掛け、拷問し、人並みの反応が得られればそれでよし。幽玄者、魔女であれば止むを得ない。処刑と致しましょう……!」
ユングヴィがニヤニヤしながら言った。
白装束の男達が、ベッドに拘束されているフォンを取り囲む。卑猥な思考が、森羅で手に取るように分かる。
「くっ……!」
フォンは、これ以上の恥辱には耐えられなかった。
こんな恥ずかしい格好で、ヤラしい男達に本に書いてあったような拷問をされて堪るもんですか!
――悪いわねラーラ。直ぐに助けに行くわ!
フォンは、状況を見極めるつもりだったが、強硬策に切り替えた。この場で自分が逃げても、直ぐにラーラに危害が及ばない事に賭ける。
フォンは空蝉を使い、拘束を振り解く。
「!!??」
「ふふっ、残念でしたね」
フォンは全力を出しているが、どういう事か縄が千切れない。
「なっ、どうしてっ!?」
「貴方は既に俎板の鯉なのです。今のも目を瞑りますから、大人しく拷問を受けましょうね」
驚愕するフォンに、ユングヴィが諭すように言った。
フォンが周囲を確認すると、ベッドには魔法陣のような不思議な模様が浮かんでいる。それが、フォンの両手首両足首を繋ぎ止めている。
――拘束業!?
「何よっ! どっちが異端者よ!!」
フォンは、魔女を狩るユングヴィが、幽玄者という矛盾を非難した。
しかし、一気に余裕が無くなってしまった。いざとなれば脱出できる。その考えが甘かった。
「さて、初めましょうか」
ユングヴィが微笑みながら言い、オペを始める医者のように手を構える。
「ちょっと待ちなさいっ! この、ヘンタイっ!」
焦るフォンを見て、益々、微笑むユングヴィの手
が、露出したお腹に近付く。その手の平にも、魔法陣が浮かんでいた。
「我々は昔の者のような生温い拷問は致しません。ですから、早めに降参する事をオススメしますよ。勿論、反応が無いようでしたら、魔女として容赦なく処刑させて頂きますが……」
ユングヴィの業が、触れるか触れないかの距離に迫っただけで、フォンの肌がザワザワする。
「ひっ……」
手の平が触れると、カラダの内まで届く波動がフォンを襲う。
「くっ! ぅうっ! ぁっ!」
強烈な刺激に、フォンが身悶えする。ユングヴィが笑いながらフォンのお腹を撫で回す。
「ううっ……こんなのっ……どうって事っ……!!」
気付くと、他の男達の手の平にも、魔法陣が浮かんでいるのが見えた。
「うそっ!? きゃっ!! ちょっとっ!! いやぁっ!! ああっ!! あっ!!」
その波動を纏う手が手が、フォンの首筋、二の腕、脇、脇腹、太もも、内もも、足の付け根に触れて摩っていく。奇妙な感覚がフォンの全身を這い回り、体温が上昇する。
「おや? てっきり女性としてのプライドを守る為に防御すると思ったのですが。やはり、命の方が大事ですか」
ユングヴィが、身動きできず選択肢のないフォンを揶揄う。
フォンは弄ばれていると分かってはいたが、必死にカラダを捩ったり、くねらせたりして刺激に耐える。
「ああっ! んんっ! あっ! あんっ!」
フォンの反応を面白がる男達の、笑い声が聞こえた。
「……だ、だめっ!! くっ―」
――ガイ以外のヤツにっ!!!
堪え切れなくなったフォンのカラダが、突如、跳ねた。拘束された手足を突っ張って、大きくブリッジする。
「あくっ…………はぁ……はぁ……はぁ……」
体勢が戻り、フォンは信じられないといった表情のまま宙を見つめる。
これは、異端審問でも何でもない。空蝉にはオンオフができる為、このやり方で幽玄者を見抜く事はできない。フォンは分かっていた事だったが、彼らと過去の変態達は、女性のプライドを踏み躙りたいだけだ。
「なるほどなるほど。寧ろ貴方は普通のニンゲンより反応が宜しいみたいですね」
顔を除き込むユングヴィを、フォンが屈辱で一杯の表情で睨む。男にだけは、屈する訳にはいかなかった。
「ふふふ、いい表情ですね。でも、もしかしたら演技かもしれない……。それは許されません。次で魔女の本性を暴いて差し上げます」
フォンの目が見開かれる。ユングヴィの波動を纏う両手が、フォンの豊かな胸を包むブラジャー、その尖った先端に向かっていた。
「ちょっとっ! きゃっ! だめぇ!!」
拒絶する持ち主とは対照的に、彼女のGカップは波動と共鳴し、小刻みに揺れ始める。
ユングヴィの両手が、フォンのバストに触れる。
「きゃぁあああぁあああぁあああぁ、あっ!!!」
再び跳ね上がりそうになるフォンのカラダを、男達が波動を発する手で押さえ付け、いたぶる。
「ああっ!! あああっ!! いやぁあっ!! あああああああああああああああああああっ―!!!」
フォンの声にならない悲鳴が、石牢の壁に何重にも反響した。




