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六十三話 大切なヒト㊂

 その頃、勝志(かつし)は、またフレイヤの部屋を訪ねていた。引越しの荷物は片付いており、部屋は女の子らしい装飾で彩られている。

 フレイヤはフレイヤで、非番でないにも関わらず、胸の谷間は大胆に、Tバックはチラチラ見せる部屋着姿のままで、勝志との時間を楽しんでいる。

 詰まるところ、二人共サボりだった。


 「今朝はクッキーを焼いてみたの! さぁ、食べて、食べて!」


 「おっ、いいのか? もぐもぐ、うめーなこれ!」


 「ふふんっ、当然でしょ!」


 フレイヤは、美味しそうに食べる勝志を見ながら、両手を腰に当てて得意気な顔をした。

 勝志は感心する。


 「フレイヤが自分で焼いたのか? 上手だなー。そう言や姫も煎餅を焼いてくれた事があったな。あれはちょっとあれだったけど……」


 「ひめ? だあれ? ……あっ、だめよっ! 私の前で別の女の子の事、考えるなんて!」


 フレイヤは、今度は怒って「勝志は誰にも渡さない」と言うかのように、腕を絡らませてきた。勝志の二の腕に、柔らかなFカップが当たる。


 「ひ、姫って言うのは名前で。竜胆館にいる奴で。あいつは小さくて……。いや、違う……。……なんてか、妹みたいな奴なんだ」


 「妹? なら、いいのかしら……。実は私も妹よ。司祭をしている兄がいるの」


 「そうなのか。家族もルテティア(ここ)に住んでるのか?」


 「家族はいなくて……。いや、ここには住んでいなくて。ちょっと……複雑な家庭なのっ!」


 フレイヤは、言い難い事を聞かれたらしく両手を振り巨乳を揺らして、歯切れの悪い答え方をした。


 「勝志の家族は……そう、孤児院にいたのよね。そういえば、(しん)とは兄弟みたいに育ったって、この前言ってたわ。幻獣を追ってる彼が心配ね……」


 「そうなんだ。真の奴、昔から直ぐどっか行っちまってな。今度も追い掛けて行きたかったけど、おれじゃ方向が分からなくって……」


 勝志は、まるで真だけが問題児だったかのように言った。一方、真が殺人犯を追った直後に出発した援軍の部隊には「勝志は追跡に不向き」と判断され加われなかった。

 

 「大丈夫だとは思うけど、この間の事もあるしなー」


 「うちのルーガルーと互角に戦える強さがあるのなら、きっと心配ないわよ」


 フレイヤが優しく言った。


 「そうかも知れねぇけど……。真には目的があるんだ。幻獣みたいに強くなって、人が行った事のない場所へ行ってみたいっていう」


 勝志には後悔がある。

 フレイヤを見ていると、自分に親しくしてくれたバビロン軍の女の子達を思い出す。しかし、ファイを含め、彼女達は幻獣にやられてしまった。

 あの時の勝志は、真を連れ帰るので精一杯で、彼女達を助ける事ができなかった。

 そして、またまた真は危険に向かっていき、今度何かあっても助けには行けない。


 「くそー、おれがもっとすごくて、できるやつならなー!」


 「いいのよ……。勝志は勝志で。大切なヒトの事を、あなたはそうやって想いやれる。私だってそうよ? 大切なヒトがピンチなら、助けに行きたい」


 フレイヤが、勝志を励ました。


 「兄さんとかか?」


 「うん。でも、それだけじゃない。私には騎士団もあるわ。団長は規律ばっかり気にしてて、ちょっとうるさいけど……私は仲間のみんなが大好きなの!」


 フレイヤが言った。こんなにハッキリと愛情を示す人も珍しいと、勝志でも思った。

 勝志にも、大切な人はいっぱいいる。

 真とサンゴの家の家族。白兎隊と竜胆館の仲間。華国やバビロンの仲間。それにラーラ。……そして―


 「おれ、実は本当の妹も居たんだ。ずっと昔に死んじまったけど……」


 「そ、そうだったの……!?」


 勝志は、殆ど人には言わない事を、この際フレイヤに話した。フレイヤは無論、驚いている。


 「(ゆき)って言うんだ。おれ達、双子だった。サンゴの家にも一緒に入ったんだけど、あいつ病気でな……」


 「勝志……可愛そう……」


 「どうしようもない事だったけど、おれはあいつを守ってやれなかった……」


 悩みなんてなさそうな勝志の、胸の内に秘めた想いを察し、フレイヤは勝志に抱き付いた。


 「大丈夫よ。寂しくないように私が側にいるわ!」


 勝志を想うフレイヤが、顔を近付ける。

 

 「私の大切なヒト。勝志、あなたもその一人よ……!」


 フレイヤが勝志に、ゆっくりと唇を近付ける。

 勝志はやはり、こんなに積極的な人に会った事がない為、フレイヤが何をしようとしているのか、直ぐには分からなかった。

 お互いの唇が今にも触れようとする。

 しかし、それを阻止するかのように、小型無線の呼び出し音が鳴った。真が居ない為、自分も無線機を持たされていた事を、勝志は忘れていた。


 「もう……お邪魔虫ね……」


 「コイツどうやって出るんだっけ?」


 「ええっと、多分このボタンよ」


 フレイヤが離れ、勝志は無線に出た。無線は僅差で白兎隊の招集ではなく、フォンのいたずら招集だった。


 「阿摩美(あまみ)勝志さん。捜査本部です。ラーラ・グレイスさんから緊急のお呼び出しです。お屋敷に来て欲しいとの事よ」


 「ラーラが!?」


 勝志は、嘘の緊急事態を間に受け、直ぐにラーラの元へ向かおうとした。フレイヤは、お邪魔虫がヒルデだったのでドキリとしていたが、現実逃避を決め込み勝志を引き止めようとした。


 「ちょっと、今度はだあれ!? もう少し一緒に居ましょうよ!」

 

 「いや、だめなんだ……! ラーラも妹みたいなやつなんだ。ごめんな、また来る!」


 勝志が、これ程美味しい状況を放り出すパターンなど限られるだろうが、ラーラに危険があれば、その限りだった。


 「随分と沢山の兄弟分がいるのねー! ……もうっ。……行っちゃだめよ……」


 部屋を飛び出し、急ぎ去って行く勝志を見送ったフレイヤは、残念そう、どころか悲しそうだった。

 しかし、彼女は何かを察して、自分に言い聞かせるように言った。


 「あなたは大切なヒトの所へ行ったのね……」

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