六十二話 大切なヒト㊁
「ガサ入れにしては大人数だな。空振りにならない事を祈るぜ、副長さん」
ガイが捜査本部のある政府施設で、皮肉混じりにアベルに言った。屋上には、十兵衛や真、二人を追った軍の部隊に同行した者を除き、殆どの隊士が集結している。
「この事件の裏に幻獣……或いは、幻獣組織が関わっている可能性を考えれば、万全を期して臨むべきだ」
アベルが言った。
既に、隊を動かす旨はゼフィール氏に伝えてあり、許可も得ていた。しかし、情報漏洩を避ける為、ガリア軍には伝えず、白兎隊のみでこのガサ入れは行われる。
「ではヒルデ団長、捜査本部を任せます」
アベルは、共同捜査に当たっていたエインヘリャル聖騎士団には、協力を要請した。彼女達に、これまで通りの捜査と警備を任せて置けば、自分達がいなくとも、更なる事件に対処できる。
「お任せを。団員を増やして、既に配置に就かせています」
直接指揮を取る為、ヴァルハラからやってきた女性団長ヒルデが言った。
ヒルデは、気張って部下に指示を出す。
「警護に当たる施設、それと団員の配置を再確認するわよ! 些細な事でも報告するようにと皆に伝えて! 定期連絡も欠かさず! 私語厳禁! サボっている者が居ないか見回りも行うわ!」
「……行こう。多少、手荒な捜査になるだろうが、幻獣が現れた以上、俺達の権限は大きくなった。重要参考人の身柄を確実に抑える……!」
アベルが、戦闘に出る時と遜色ない瞳をして言った。余程、読みに自信があるようだ。
二人が部屋を出る時「所でフレイアは? あの子の配置は本部の筈だけど……」と言うヒルデの声が聞こえた。
屋上に着くと、りぼんが「勝志が来てませーん!」と報告した。
「元気出しなさいよ。よく分からないけど、親が決めた結婚相手が嫌で、喧嘩して駆け落ちなんて、よく聞く話じゃない」
フォンが、父親に反発して落ち込んでるラーラに言った。「駆け落ちはしてないよ……」とラーラが返す。
フォンは、どこで買ったのだろうか、ランジェリーを身に付け、ガラスに映る自分を、自信たっぷりに眺めている。派手な柄の大きなブラと、彼女の好みのハイレグカットのパンツがセクシーだ。
「ほらっ、あんた用も買ってあるから試してみなさい。男に相手してほしいのなら、これくらいは持っていないとね!」
「!」
フォンはそう言って、ラーラにもランジェリーを渡した。
「―こ、こんなの恥ずかしよぉ!」
ラーラは、貰ったランジェリーを身に付け、姿見の前に立った。ミニスカートの裾をたくし上げると、布面積の小さなTバックが露わになる。
「スースーするっ。中学生にはまだ早いよー!」
「全く、お子様ね。上はシースルーにしようか迷ったくらいなのに」
「スケスケはムリムリっ!」
「大体、今時の中学生なら、Tバックくらい穿いてても普通よ!」
「ええ!? みんな持ってるのかな!?」
困惑しながらスカートを直すラーラに、フォンが、今度はベッドに寝そべりながら言った。
ラーラは、妖艶な姿のフォンを見て、彼女並みになりたければ「これくらいは着なくてはならない」と真剣に思い、改めて鏡を見た。
――思ったより、かわいいかも……♡
ランジェリーなんて大人の物だと思っていたラーラだが、これはフォンのとは違い、トップスがキャミソールワンピで、フリルをあしらったロリータ風。フォンは、ちゃんと好みを分かって選んでくれたようだ。
――パパが見たら怒るだろうなぁ……。真はどう思うかなぁ? …………こんな格好、見せられないけど……っ。
「……そうだわ。早速それ、男に効果あるか確かめようじゃない? 真は犯人を追……。何かどっか行ってるらしいから、代わりに勝志でも呼びましょう!」
フォンが、突然イイコトを思い付いたという顔をして、白兎隊の小型無線を取り出した。
「ええ!? なんでそんな事!? だめだよっ、誰にも見せられないよぉ!」
ラーラは狼狽えて、フォンから無線を取ろうとする。
「そもそも、勝志だってお仕事だよ!?」
「あんたが呼んでるって言えば、直ぐに飛んで来るわよ。男なんていうのは、エロければ食い付く下賎な生き物って事を、あんたもよく覚えて、この機会に一つ大人になるといいわ!」
フォンは、さぞ、いじわるな顔をした。
「まだ、だめだってばっ! ……き、着替えるっ」
「あっ、こらっ! 覚悟しなさい! 折角、あたしがお膳立てして、恋愛ってモノを教えてあげるんだから!」
フォンは幽玄者のスピードとパワーで、たちまちラーラを押さえた。
「わぁああ! は、放してよぉ!」
「あっ、もしもし捜査本部? あたし、フォンよ。あ、何勝志だっけ? ほら、白兎隊の勝志! こっちに寄越して。ちょっと緊急で……」




