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六十一話 大切なヒト㊀

 (しん)は、十兵衛が敗れた事を森羅(シンラ)で感じ取った。

 急いで戦闘が行われた川へやって来たが、敵の姿は既にない。流石の強者(つわもの)も、相応に消耗し撤収したのだろう。真にとっても、幻獣二体を相手取った後で、会敵しなかったのは運が良かったと言えた。

 十兵衛は滝壺に落ち、更に下流に流されていた。真が救出したが、血塗れでピクリとも動かない。

 

 「……」


 真は十兵衛を担ぎ上げる。この場では手の施しようがなかった。並外れた能力を持つ、十兵衛の生命力を信じるしかない。

 更に、仲間に報告しなければならない事がある。一連の事件に幻獣が関わっている事に加え、その戦力も、並ではないという事を―。

 真は、後続の部隊に合流する為、来た道を急ぎ引き返した。


 ――――――――――――――――――――――


 「―んんっ……」


 ラーラはベッドでまどろんでいる。

 夢に真が出てきた。その所為か、ラーラはとても心地が良かった。

 二人は、大きなうろの中にいた。ラーラは何故かぐしょ濡れで、服を着替えなくてはと、あたふたしている。すると、バランスを崩して転んでしまい、真に覆い被さった。と思ったら、今度は病棟のベッドの中にいる。密着したまま動けず、ラーラはドキドキが止まらない―


 「真……っ」

 

 うとうとしたまま、ラーラは自分の胸を揉む。魔女の島で、真に触れられてしまった時の事を思い出しながら、先端の突起を布越しに触って刺激する。

 

 「あ―」


 「朝から一人で何してるんです? お嬢様」


 突然、フォンの声が聞こえ、ラーラが掛けていたシーツが剥ぎ取られた。


 「起きる時間はとっくに過ぎてますよー!」


 フォンはそう言って、部屋のロールカーテンを次々と上げていく。窓から朝日が差し込み、ラーラを妄想から醒ます。


 「フ、フォンっ!? きぁあぁああっ! まだ開けないでよー」


 ラーラは、大慌てで乱れたネグリジェの裾を直し、外から入る光から逃れるように、ベッドから飛び出す。

 フォンのいじわるな笑い声が、逃げ込んだ衣装部屋まで追い掛けてきた。


 着替えを済ませたラーラは、出勤する父親を見送る為、直ぐに玄関へ出た。


 「パパ! 昨日も夜、遅かったのに……!」


 ラーラが少々、寝坊してしまったとはいえ、ゼフィールの出勤時間は何時もより早かった。送迎車に乗ろうとしていたゼフィールに、ラーラが飛び込むように駆け寄る。


 「選挙が終われば忙しくなくなるって言ってたのに。パパはどうして毎日、忙しいの?」


 「ラーラ。ご時世がパパを放って置いてくれないのだよ。元々、政治家に引退なんてないんだ」


 「でも……疲れているんじゃない? お顔の皺が増えたみたい……」


 ラーラは、多忙な父親を心配していた。六十近いゼフィールは、最近、益々、老けたように見える。


 「週末にはまたエウロパ各国の議員と会わなくてはならない。ラーラにも頼みたい仕事がある。お前の評判がとても良くて何よりだ」


 「わたしにできる事ならがんばるよ。それで代わりにパパが休めればいいのに」


 「はっはっは、ありがとう。その気持ちだけで充分だ。何も心配する事はない。例えパパがいなくなっても、その調子ならお前はやっていける」


 「パ、パパがいなくなるなんて、わたしいやだよ!」


 父親の冗談を、ラーラは鵜呑みにした。車の横で執事が時間を気にする。

 ゼフィールは、今度は真面目に言った。


 「ラーラ。親である以上、いずれ私は先にいなくなる。だからこそ……近い内にお前にはフィアンセを、と考えている」


 「フ、フィアンセなんていらない!」


 ラーラは、突然出てきた話を反射的に拒否した。


 「まぁ、直ぐに決める必要はない。こう言った事は順を追ってな」


 「ひ、必要ないよぉ!」


 ラーラは顔を赤くし、怒った。しかし、直ぐにある事に勘付く。


 「……その為に最近、わたしを公の場に?」


 「いや……そうではない。だが、やはり私が知っている者とラーラが一緒になってくれた方が、パパは安心だ」


 ゼフィールは誤魔化したが、ラーラには嘘が分かる。父親の仕事を手伝えて、得意げになっていた自分が、急におばかに思えた。

 ラーラは、滅多にない事だったが、激しい口調で叫んだ。


 「結婚する人は自分で選ぶの!」


 朝の心地よさは、既にどこかに飛んで行ってしまっていたが、それでも今のラーラはデリケートで、その手の話を冷静には聞けない。

 怒ったラーラは、父親を見送らず、屋敷の中へ駆け戻って行った。

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