四十八話 エインヘリャル聖騎士団㊀
「大体あたしだって、好き好んで幻獣と戦ってる訳じゃないわ。これには本来、選択権があるべきなのよ。あんたが能力を隠しているなら、引け目なんか感じず自由な選択をするべきよ。同じ立場なら、あたしだって秘密にするだろうし」
ラーラの相談に、部屋のソファに座ってフォンが応えた。
フォンのような人物と出会い、ラーラは自分が幽玄者である事を隠し続けて良いものか、考える事があった。彼女も同じ女性で、決して戦いに積極的な性格ではないが、人々を守る為、清林組に身を置いているからだ。
「大体、幽玄者なんて、今はそこまで珍しくなくなってる。大事なのは、幻獣と戦っても引けを取らない一流かどうかよ」
「そうなの?」
「そう。あんたみたいな温室育ちじゃ、直ぐに敵に食べられちゃうわ」
「う……うん……」
ラーラは、余りにハッキリと言われて、ちょっと言い返そうとしたが、フォンの言う通りだと思い直した。
「そんな事より、政治家の娘なら、上からあたし達を楽にして欲しいわ。戦場に行くのは男だけとか、女は裸でも捕まらないとか」
「はぁ……それは、ちょっと極端じゃないかな……」
「コネと幽世の力を使えば、乗し上がるのも簡単でしょ」
「そういう事をしないように、国は幽玄者を把握したいんだろうから、だめだよ」
「なんでよ? 与えられた能力は活かすまでよ。ねぇ、熊熊。お嬢様は変なトコ真面目ね」
「アルベールだよー」
フォンは、隣に座るラーラのテディベアを抱き上げながら、やはりハッキリと言った。
「能力を活かす……。うーん、わたしには何ができるんだろう……」
ラーラが自分の身の振り方を考えていると、ノックもなくドアが開き、ふっくら侍女が現れた。
「お嬢様、まだ準備していないのですか? 本日はお父様に代わり、ヴァルハラで会談ですよ。さぁ、早くドレスに着替えて!」
「バーサ、もうそんな時間?」
「時間です。お嬢様はのんびりしているので、何でも三十分は早くは行動するように言っているでしょう!」
そう言い、侍女バーサは、ラーラに出掛ける支度を急がせる。
「公の場ですからね。言葉遣いは丁寧に。姿勢を正し、お上品に。揺らさず、はためかせず―」
「わかってるよー」
ワンピースを引っ剥がされ、パンツ全開の姿にされながら、ラーラがモゴモゴ言っている。
その至らない姿を見ながら、フォンは「まだまだね」とクスクス笑った。
この日、ラーラはゼフィールの代役で、エインヘリャル聖騎士団の本部―ヴァルハラの視察と、騎士団設立に貢献した政治家―オルディンとの会談が予定されていた。
ラーラは、多忙な父の負担を減らそうと、お仕事を喜んで引き受けたが、元々、ゼフィールとオルディンはバチバチの関係で、当人同士でない方が円滑に事が運ぶだろうという判断があった。そして、オルディン側の「是非、娘さんに」との意向もあり、この度の抜擢となった。
「それにしても、よくOKしたわね、あんたの父親。エインヘリャルなんて、きな臭い所じゃない」
ヴァルハラに向かう車に、ラーラと一緒に乗り込んだフォンが言った。
白兎隊の捜査報告は、逐一、フォンにも入っている。彼らは政治家暗殺事件の犯人を、エインヘリャル聖騎士団と疑っていた。
「パパは幽玄者が好きだよ。騎士団の人達とは仲良くしてるの」
疑いの目を持たないラーラが言った。
実際、ゼフィールの方も、エインヘリャルを毛程も疑っていないようだ。フォンは、護衛として念の為ゼフィールにその件を進言したが「あれは私が作った組織でもある。子供のような連中だ」と笑っていた。
「フォンも一緒に中に入るんだよね?」
ラーラはフォンの、あらゆるカラダの動きを阻害しない清林組の衣装を、興味深そうに見ながら言った。
「いえ、私は外で待機。白兎隊の視察も招かれているから、それが中での護衛を兼ねるわ。どういう事するのか知らないけど、お父さんの役に立ちたいのなら頑張りなさい。それと……まぁ、頑張りなさい」
フォンがさりげないエールと、曖昧なエールを送った。
ラーラはそれに対し、深くは考えず「頑張るね!」と答えた。
やがて、車は都市部から離れ、緑豊かな区域にやって来た。ここにある、軍の訓練場の一角に建てられた格式高い建物が、エインヘリャル聖騎士団本部、ヴァルハラだ。
ラーラが車を降りると、程なくしてジープがやって来て、白兎隊の羽織を靡かせた二人組が、かったるそうな態度で降車した。
ラーラは、直ぐに二人に気付き、フォンのエールの意味を理解した。
「真! 勝志!」




