四十六話 護衛㊃
「ただいま! フォン、お花にお水をやるのを手伝って!」
ラーラは学校から帰宅すると、庭の花々を愛で、世話をした。ティータイムでは、学校であった出来事を、楽しそうに話す。
彼女は、護衛として常に行動を共にするフォンの事を、お泊まり会をする友達ように感じていて、楽しそうだ。一方のフォンは、花や学校生活に余り興味がなく、はしゃぐラーラとは若干の温度差があった。
フォンは、ラーラが温室で宿題をする間、書庫から幾つか本を借りたが、直ぐに読書に飽きた。
「何よ、これ……っ、ふざけてるわ!」
フォンがぷんぷんしながら、読んでいた本をバタンと閉じた。勢いで、胸元のボタン全開のワイシャツから、巨乳が飛び出しそうになる。
フォンが読んでいたのは「魔女狩りの真実」というタイトルの、歴史の本だった。
「相手が魔女だろうが、ただの女だろうが、やらしい事したいだけでしょ! こんな事がまかり通っていたなんて、許せないわ!」
本には、昔、魔女(幽玄者)の疑惑を掛けられた、何故か美人の女性達が、尋問を受け、罪を認めまで不当な取り調べを受けた事が、事細かく書かれている。
「もっと楽しい本を読めばいいのに……。童話とかは好き? 推理小説もあるよ!」
本に八つ当たりされても困るラーラが、おすすめを紹介した。現代では魔女の認識も改められ、創作物では主役を飾る事も多く、女の子がときめく存在だ。
しかし、そもそもフォンは、生まれてこの方、ロクに読書というものをした事がなかった。
「いいわ。あたし、本嫌いだしっ」
「じゃあフォン、宿題を教えてよ。この公式分かる?」
「あらあら、お嬢様。授業をちゃんと聞いてなきゃだめよ! どれ、見せてみなさい」
イライラしていたフォンだが、問題に躓いているラーラを見ると、途端に上から目線になり、自信を持って宿題に目を通した。
しかし―
――……ナニコレ?
不良学生だったフォンだが、曲がりなりにも中学は出ている。しかし、ラーラの渡した問題集は、彼女が見た事のない数式だらけで、ちんぷんかんぷんだった。
「う、うん……。まぁ、こうゆーのは自分で解いてこそ勉強になるのよ……! ほらっ、教科書、教科書!」
「えぇー、そんなぁ……」
答えを教えて貰えなかったラーラは、渋々、教科書を開いて問題を解き始める。
――生徒のフリしなくてよかったわ……。
フォンは、お嬢様学校のレベルを完全に舐めていた。
「エインヘリャル聖騎士団が俺達との捜査協力に応じてくれた。彼らと共にバディを作り、エウロパの政府施設、高官の自宅などを中心に、捜査、警備を行う」
アベルが白兎隊士達を前に言った。
隊士達はガリアの政府施設の屋上に集まった。ここからはルテティアの街全体がよく見える。要するに、こういった場所を陣取り、更なる事件発生を抑制しつつ、一緒に捜査するエインヘリャルをこっそり調べるのだ。
「探りを入れるったって、そんなんで尻尾を出すかぁ?」
「末端の団員は知らない可能性もあるしなぁ」
「うっかり後ろから刺されたりして。まぁ、それならクロ確定だけど」
隊士達は、捜査が上手くいくか首を捻っている。些か緊張感も欠けているが、新設の対幻獣戦闘組織への興味は強いようだ。
「来たぞ」
一人、淡々とした様子の十兵衛が言った。
隊士達が階段の方を見やると、屋上に、男女合わせて十名が規律に富んだ足並みで現れた。
エインヘリャル聖騎士団。白を基調とした、正しく騎士といった衣装を纏っている。男性はスラックス、女性はプリーツのマイクロミニスカートで、差し色など、団員ごとに多少の違いもあり、中々洒落ていた。
隊士達の間に、若干の緊迫感が流れたが、そういう事とは無縁のガイが、最初に彼らに近付いた。
「バディねぇ……。じゃ、オレは美女と組ませて貰おうか。オウオウ! あんたらがエインヘリャルさんか。白兎隊のガイだ。これから頼んだぜ」
邪なガイに先を越されまいと、ディーンも後に続いた。
「あっ、抜け駆けかよ、あのナンパヤロー。よっ、オレはディーン! シクヨロ、かわいい娘ちゃん達!」
アベルが、やれやれと頭を抱えながらも、ギクシャクするよりはマシと判断した。
たった五人しかいない女性団員と組みたがる男性隊士達が、次々と彼女達に声を掛けにいく。
「全く、もうっ。そうやって直ぐ目移りするんですからっ!」
りぼんが、男子の破廉恥な行動に、呆れながらも剥れて言った。
「何言ってんのよ。アタシらも男を品定めさせて貰おうじゃないの」
「はぁ? なに言ってるんですか?」
大胆なイフリータが、こちらは男性団員の元へ逆ナンに向かっていく。
りぼんは「わたしは興味ないです」とそっぽを向いたが、彼女の元に、何時の間にか数人の男性団員が近寄っていた。
「ボンジュール、マドモワゼル。宜しければボクとバディを組ませんか?」
「ボクはピエールです。貴方のお名前は? 是非ボクのバディになって頂けませんか?」
「貴方は美しい。ボクに捜査のエスコートをさせて下さい」
紳士的な態度で誘う男性達に囲まれ、りぼんは戸惑った。
「え? マドモワ? は、はい、りぼんです。……どうしようっ」
戸惑っているりぼんに、男が真っ赤な薔薇を一輪差し出した。
「お近付きの印です。どうぞ、りぼんさん」
りぼんは思わず、頬を薔薇と同じ色に染めた。




