表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/183

四十四話 護衛㊁

 「はぁーい♡」


 ラーラは侍女から、スケジュールにあった人物到着の知らせを受け、玄関ホールを急いだ。

 「こんにちは!」と出迎えた玄関先には、赤み掛かった長い黒髪をツインテールにしたH(えっち)な体型の女性が、腰に手を当てて待っていた。


 「あんたがラーラ・グレイス? まったく、何で私がお嬢様の面倒見なきゃいけないのよ……」


 ラーラを見るなり、ツインテ女性が不満そうに言った。

 グレイス家に仕える者達は、その物言いと、へそだしキャミソールに下着並に布が小さいキュロットという、いかがわしい服装を見て唖然としていたが、ラーラは自分の護衛を務める事となった女性を、もの珍しいそうに眺めた。


 「あなたが(マオ)(メイ)……(ポン)?」


 「フォンよ!」


 きょとんとしているラーラに対し、フォンはむすっとして言った。


 ()国の対幻獣戦闘組織、清林組(せいりんぐみ)に所属するフォンは、エネアドとの戦いで負傷者を出した白兎(びゃくと)隊の援軍要請を受け、ガリアにやってきていた。

 清林組は、白兎隊とは旧知の仲だ。前回の恩もあり、直ぐに派兵に応じたが、残念ながら人数は三名に留まった。それは、一度は追い返した幻獣軍アスラの君主ヴリトラが、再び不穏な動きを見せていたからだった。

 それでも、僅かな派兵メンバーに主戦力であるフォンが選ばれたのは、白兎隊と特に親密な間柄と知られているからだが、本人は認めていない。

 

 「なのにどうして知らないお嬢様のボディガードやる事になるのかしら」

 

 この任は、お嬢様とどういう間柄かフォンは知らないが、(しん)勝志(かつし)から任された。

 白兎隊の任務変更もあり、派兵メンバーは柔軟に動けるよう、ガリアの軍港で予備戦力として待機している。この任が本隊とは別行動である事に加え、お嬢様から逐一、離れず行動するには、女性の方が都合が良いという話だった。


 「此方がお嬢様のお部屋になります」


 執事に屋敷を案内されたフォンは、護衛として共に過ごす事になるであろう、ラーラの部屋へやってきた。


 「じゃ、後いいわ。必要なら呼ぶから」


 「はい。では、よろしくお願いします」


 フォンは執事を煙たそうに廊下に残し、ラーラと部屋に入った。

 天井の高い、広々としたお嬢様らしい豪華な部屋は、外壁が大きなガラス張りになっていて、美しい庭園が見渡せた。内装は、女の子らしいレース飾りをあしらえた、白地で落ち着いた雰囲気だ。


 「ふーん、悪くないわね」


 フォンが言った。多分、誰でも一度は、こんな豪邸に住んでみたいと思うだろう。

 文句を言いつつも、フォンがこの任務を引き受けたのは、野蛮な幻獣や、汗臭い男達から離れ、優雅な邸宅で仕事ができるというメリットを考えたからだ。


 「取り敢えず、部屋に不審なものがないか調べさせて貰うわ」


 「うん、いいよ。でも、わたしの部屋、この家の人以外入らないから、なにもないと思うけど」


 「それでも一応よ」


 ラーラがちょっと不思議そうに聞いたが、フォンはそう答えた。

 フォンは、ソファ、机、飾り棚、ベッド、バスルームなどがある室内をざっと調べ、衣装部屋へと入る。

 此方ではかなり入念な調べをし、ハンガーに掛かるラーラのドレス、ワンピースをチェックし、ドレッサーの引き出しを開け、ネックレスや宝石を幾つも取り出す。


 「流石、お嬢様ねー。充実してるわー。でも、ちょっと子供っぽいかしら」


 そう言いつつ、フォンは姿見を見ながらドレスを次々と自分に合わせた。終いにはタンスの類いは全て開け、ミニスカや、水着、更に、下着をチェックする。

 

 「あぁっ、そこはだめっ!」

 

 ラーラは、慌てて引き出しを押さえた。


 「お嬢様ー。安全の為、全てに目を通さないとー」


 「なにもないよぉ! そこはだめなの!」


 「―まっ、おかしなものはないわ」


 書庫は全く調べず、ソファに掛けたフォンが、しらばっくれた態度で評価した。

 

 「ただ、この部屋ちょっとオープンすぎるわね。敷地の外からは見えないみたいだけど……」


 フォンが、庭からもこっちが丸見えになる、ガラス張りを見ながら言った。


 「まっ、私がいる以上、誰も手出しできないけど」


 ラーラは今更、不審物のチェックではなかった事に気付いたが、フォンの女性らしい好奇心に、ラーラの方も同性の彼女に興味が沸いた。


 「ねぇ、フォンは幽玄者なんだよね!」


 「何よ。疑ってるの?」


 「うんん。ただ、女の子の幽玄者と話すの初めて! 普段はどんなことをしてるの? 幻獣と戦うの……怖くない?」


 「どうって……やる事は男と変わらないわよ」


 フォンは「この()ちょっと面倒くさい」といった顔をして足を組む。

 小さなキュロットからハミ出でない事から、フォンは明らかにパンツを履いていない。部屋にはラーラしかいない為、問題ないが、ヒラヒラした裾と足の付け根に、危険な隙間が生まれていた。


 「戦場に行けばオシャレしたり、お風呂に入ったりできないから大変だね」


 「そうね。泥だらけになったり、怪我したり……ホントいい事ないわよ。まぁ、怪我したら意地でも空蝉(ウツセミ)で治すけど」


 「やっぱり、そうなんだ……」


 ラーラは戦士としてのフォンを、素直に尊敬した。

 

 「まっ、あんたの護衛は、その辺補償されそうだけど。……所で、私のベッドどこよ? ちゃんとふかふかなの用意しときなさい。それと、私、あんたから離れられないんだから、タオル、シャンプー、色々増やしといて」


 「あっ、うん。じゃ、セバスに用意してもらうね」

 

 「あと、お茶、おやつ……! ティータイムよ。何で持ってこないのよ? お嬢様の家でしょ? 早く頼んで」


 わがままな態度を取り出したフォンは、持って来た自分の荷物から扇子を取り出し、ピシピシ、ラーラに要求した。


 「お、お嬢様はわたしなのにー」


 ラーラはフォンに使われ、執事セバスチャンを呼び出し、必要なものを手配する。


 「それでいいわー」


 要求を通したフォンが、満足そうに扇子をパタパタする。

 ラーラは、明らかに人の家で羽を伸ばそうとしている女性に、これから手を焼く羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ