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四十一話 眼差しの先㊃

 花だらけの病室に一人いる(しん)は、物思いに耽っていた。

 真はラーラの事を、迷惑だとは思っていない。どういう訳か、昔から女の子があれこれ面倒を見てくれる機会は多く、嫌ではない。

 しかし、今は自分自身と向き合う時間が欲しく、彼女を遠ざけた。珍しい古代文明などは、冒険好きの真も興味が沸くが、分からないのなら、それはそれでいいと思っている。

 肝心なのは、未来。これから先の事だ。

 真は初め、ウィーグルの仇を討つ為に白兎(びゃくと)隊に入った。ラウインを倒す為に幽世(カクリヨ)の力を身に付けた。

 しかし、相手は遥か異次元にいた。

 ラウインは言った。

 (まこと)の強者は孤高でなくてはないと。

 自分は怒りや憎しみに捉われていると。

 

 ――この力は、ご先祖達の無念を晴らす為に、与えられたものだと思ってる……!


 ファイはそう言っていた。

 あれ程、人としても幽玄者としても優れた人物だったが、先祖や国の為に、故郷奪還に命を捧げ、打倒ラウインを掲げていた。

 人に慕われる、朗らかな性格の彼女なら、もしかしたら、そんな事に捉われない人生の方が、より能力を発揮できたかもしれない。

 誰だって、大切な者を幻獣に奪われれば、幻獣を、或いは人に奪われれば、人を恨む。

 自分達はその程度の、単純な存在なのかもしれない。

 

 「……」


 開け放たれた窓から吹き込む風が、室内の花々の香りを掻き乱す。

 今更ながら真は、見知った花が一輪、窓枠に置かれた花瓶に挿してある事に気付いた。

 これも何処からか手に入れてラーラが持ってきたのだろう、見事に咲いている有名な花々に混じる控えめな花は、懐かしいカーネル草の花だ。

 カーネル草の花。

 故郷を去る日、ラーラが「門出に」とくれた花。アマリ島では何処にでも咲いている花。真も(ゆき)の為に摘んだ花―

 沢山の柵が自分にはある。

 何ものにも捉われない神域とは、どういう場所なのだろうか?


 ――――――――――――――――――――――


 火の月(イグニス)水の月(アクア)木の月(アルボル)金の月(オーラム)土の月(ソルム)。夜を照らす、五つの月の固有名詞だ。

 更に、アクアトレイから最も遠い土の月(ソルム)の向こうには、肉眼では確認できない月、風の月(ヴェントゥス)空の月(カエルム)が存在する。

  

 「ルンル、ルンル、ルン♪」


 ラーラは七つの月の光を森羅(シンラ)で感じながら、古文書を大切そうに抱えて、病院への夜道を歩いた。

 二つの月、風の月(ヴェントゥス)空の月(カエルム)は、望遠鏡の発展で、近年、観測に成功したのだが、古い文献などには元々、記載されており、存在自体は知られていた。これは世界の不思議とも言われていたが、今は幽玄者の知識によるものであると判断されている。

 ラーラはそんな所に、昔の人と今の自分に通ずる縁を感じて、古い物に対し興味を抱き、考古学を学ぶきっかけになった。

 

 ――真はこれを見たら、喜んでくれるかな……。

 

 すっかり夜遅くになってしまったが、明日ラーラは親しかった人物の葬儀に出席しなければならず、時間が取れなかった。

 父親の友人、エウロスの突然の訃報には、ラーラも大きなショックを受けた。

 ご時世もあってか、最近、いい事がない。

 だから、せめて真には元気になって貰いたかった。


 「真ならきっと起きてるよね……!」


 ラーラは、病院の消灯時間がとっくに過ぎているのを分かってはいたが、既に規則を破っているので、大分ルーズになっていた。

 ラーラは手に入れたものを早く見せたくて、やや興奮ぎみに病棟に侵入した。

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